【国会レポート】人類に深刻な被害をもたらす鳥インフルエンザ対策に注目を【2006年10号】
海外事情に明るい友人に「海外メディアは鳥インフルエンザ問題を非常に深刻なものとしてとらえている」と言われ、国立感染症研究所の専門家の話を直接伺う機会もあり、鳥インフルエンザはこれからとんでもない事態を引き起こすかもしれないという強い危機感を持ったのでした。
日本では鳥インフルエンザと言うと、文字通り、「鳥が感染するインフルエンザだ」と考える人が多いと思います。鳥インフルエンザが変異して人から人へと感染する「新型インフルエンザ」に変わると、誰一人として免疫を持っていないので人類への大変な脅威となります。
死亡率が6割近い恐るべき感染症
実は私自身も以前やはり鳥インフルエンザは鶏の問題だと思っていました。中国やインドネシアなどで人が鳥インフルエンザに感染して死亡したと聞いても遠い国の話だったのです。
WHO(世界保健機関)が今年9月14日に公表した資料によると、2003年以降、鶏から人に感染して死亡する人が毎年増えており、これまで世界各国で鳥インフルエンザに感染した人は246人、うち死亡した人は144名にも上り、感染した人の実に6割近くが死亡しています。すでに鳥インフルエンザは鳥だけではなく鳥から人へと感染するようになっています。問題なのは、鳥インフルエンザが人から人へと感染するように変異したとき、つまり新型インフルエンザが発生したとき、大変な数の犠牲者が出ると予想されることです。
人類に最も大きな被害を与えたスペインかぜ
皆さんは「スペインかぜ」をご存じでしょうか。90年前、世界的に大流行したインフルエンザの一つで、人類にとって最大のインフルエンザの流行でした。世界中での感染者は約6億人、死者は4000~5000万人にも達しました。当時の世界人口は8~12億人だったのですから人類の実に50%以上がスペインかぜに感染したことになります。スペインかぜの死者数は、感染症のみならず戦争や災害などすべての人の死因の中でも短期間に最も多くの人が死に至った記録的なものでした。当時、日本の人口は5500万人ですが、スペインかぜで39万人もの死者が出ました。
そして、このスペインかぜも元は鳥インフルエンザだったのです。要するに、現在の鳥インフルエンザが変異して人から人に感染するようになった新型インフルエンザは、かつてのスペインかぜに匹敵するような被害を人類にもたらすおそれがあります。
確実に高まってきている大流行のリスク
WHOなどは2004年1月、アジアの鳥インフルエンザについて「世界的な流行を引き起こす非常に危険な伝染病に変異するおそれがある」と警告しています。新型インフルエンザが出現し大流行するのは大地震と同じで明日かもしれないし5年後かもしれません。しかし、確実にそのリスクは高まってきているのです。
鳥インフルエンザは1段階から6段階まであります。現在は、鳥から人への感染が確認されているが人から人への感染は基本的にないフェーズ3に留まっています。けれども、フェーズ3から世界的な大流行となるフェーズ6までは段階的ではなく一足飛びに進む危険性があります。現代は人が世界中を飛行機で移動しているのでアッという間に世界的な流行になりやすいのです。
とすると、新型インフルエンザが発見されたときにはもう手遅れかもしれません。通常のインフルエンザの流行では幼児と高齢者の死者が多いのですが、新型インフルエンザの場合、まず犠牲になるのは幼児や高齢者ではなく、免疫機能が過剰反応する10代、20代の若者ですと言われています。
ちなみにアメリカではブッシュ大統領が包括戦略(新型インフルエンザ流行の早期警報網の世界的規模での整備、ワクチンや抗ウイルス剤の開発・備蓄の加速、地方自治体を含む緊急時対応策作りの3本柱から成る)を発表し、去年、ワクチンや抗ウイルス剤の開発・備蓄などのために総額71億ドル(約7887億円)の予算を計上しました。また、大流行した場合、「外に出ないで家で流行が過ぎ去るまで待て」「そのために2週間分の食糧を備蓄しろ」といった指針も打ち出しています。
日本ではようやく去年、厚生労働省が簡単な対策マニュアルを作り、今年9月中旬に机上訓練をしている段階であって、対策費も673億円程度に過ぎません。
企業にとってはシェア獲得にもつながる
企業については、アメリカの会社ですとほとんど対策を取っていると言われていますが、日本で新型インフルエンザの危険性に気が付いている企業はまだ一部です。ただし、そういう会社は世界的大流行となり多くの人が犠牲なるフェーズ6でも指揮命令系統をしっかり維持して生き残ることを目標に掲げています。ビジネス的には、新型インフルエンザが大流行したときに対策を取っている会社が生き残れば、次の段階では、対策を取っていない競合会社が脱落しているわけで、結果的に圧倒的なシェアを獲得できます。
鉄鋼会社ですと高炉は24時間・365日燃えていますが、作業員が新型インフルエンザに感染すると高炉の火が消えてしまい、立ち上がるのに相当の期間と費用を要します。そうなると、鉄を使う自動車や建築などすべての業界が打撃を受け、日本の経済自体も落ち込んでしまいます。そこで、私は鉄鋼業界出身でもあり、先日、経済産業省に「鉄鋼会社がどういう対策を打っているのかを調べてほしい」と要望しておきました。国が関心を示せば、民間企業としても新型インフルエンザへの注意が喚起されますから、何らかの対策を取ってくれればと考えたのです。
スペインかぜのときには日本では地域によって感染者のうち死亡された人の割合が違っていました。新型インフルエンザが大流行した場合も都道府県、市町村の準備状況によって致死率が違うと予想されます。都道府県や市町村は今のうちからしっかりとした準備が求められます。併せて、国民の新型インフルエンザへの関心を高めることも必要です。
私は先日、厚生労働委員会では初めて世界的流行のおそれがある新型インフルエンザについて取り上げました。具体的には、まず誰からワクチンを投与するかを公の議論を経て決めておくことと、情報を国民に十分周知徹底するような予算をかけなくてもできる手立てについて提起致しました。