【国会レポート】政治家はどのようにして情報を収集していくべきか【2006年11号】

テレビや新聞に加え、携帯電話、インターネット、デジタル放送などの新しいメディアが国民生活に深く根を下ろしつつあります。いわゆる情報化社会が進む中、今回は政治家の情報収集とはどうあるべきかについて述べたいと思います。

今、私は民主党の政策調査会(政調)の副委員長および国会対策委員会(国対)の副委員長を務めています。政調は党の政策を取りまとめるところで、国対は国会運営について他党と協議するところです。国対は一般にはあまり知られていないのでもう少し詳しく説明すると、たとえば与党提出の政策に野党が反対なら国会での論戦の前に政策のどの部分が争点になっているのかを確認したり、国会の委員会が紛糾していたら何がその原因か、どうすれば打開できるかといったことを話し合います。

そのような他党(民主党にとっては特に与党)の国対との協議の際には、場合によっては各委員会の審議で民主党の所属議員を司令塔として動かし(審議をそのまま進めるのか、協議がまとまるまでいったん審議を休むのかなど)党として対応したりします。

国会議員に大きな影響を持つ新聞の政治面

要するに、政調と国対の副委員長である私は、党の政策と国会での対応について政調および国対の両委員長の下で党をまとめ、力を集中できるようにするのが任務なのです。このような仕事に就いている国会議員は各党でも限られています。つまり、国会にいる衆議院議員480人、参議院議員242人の中で党の政策や方針に直接関わっているのは全党を合わせてもそれほど多くないのです。

では、政治家にどんなメディアが最も大きな影響を与えるのかというと、やはり読売、朝日、毎日、日経、産経、東京といった全国紙、しかもその政治面なのです。内閣支持率はテレビによってアップダウンしますが、全国紙の政治面が政治家に与える影響にはテレビも及びません。

政治面は必ずしも中立的な報道をしていない

国会議事堂の中には各党の国対の部屋があって、毎朝、国対のスタッフ職員が全国紙各紙から切り抜いた記事のスクラップを持ってきてくれます。分量はいつも30~50ページにもなります。新聞報道は中立だと言われていますが、政治家になってみると、同じ報道でも新聞によって内容がかなり違っていることに気が付きました。特にそれは政治面について言えます。

私もサラリーマンだったときには新聞を読むのも経済面が中心で1面や2面、4面に載っている政治の記事にはほとんど目を通しませんでした。普段、政治に関係ない生活を送っている皆さんも同じではないでしょうか。ですから、政治家になって痛感するのは、新聞の政治面というのは政界の業界紙的な機能を果たしているということです。

ビジネスの世界には分野ごとに業界紙があります。私がかつて働いていた鉄鋼業界にも鉄鋼新聞という業界紙がありました。今から15年ほど前のこと、私が鉄鋼会社の輸出部門でマーケティングの仕事をしていたとき、ベトナムでドイモイ(改革・開放)政策が始まりました。その機会をとらえて、2週間の日程でベトナム視察に出かけたのですが、この出張でのハイライトのイベントの日には当時の輸出部長にも来てもらいました。

帰国後、輸出部長は鉄鋼新聞からベトナム訪問について取材を受け、その記事が掲載されたのですが、興味深かったのは記事に対する社内の反応でした。私の同僚や先輩は「部長はよく仕事をしている」と言っていました。鉄鋼新聞は社長以下の経営陣も必ず読んでいますので、この記事で「輸出部長は仕事熱心だ」と輸出部長に対する社長以下の役員の評価が高まったことは容易に想像できました。

新聞の政治面は政界の業界紙の役割を果たす

鉄鋼新聞には商品動向や設備の動向、人事情報など鉄鋼業界に関することが要領よく掲載されていて実際の仕事上で役に立つというのはもちろんですが、私は、この輸出部長の記事によって社内報的な役割も大きいということが分かりました。

それと同じように、全国紙の政治面というのも国会議員の間だけの一種の社内報的な機能があるのです。政治部の記者が一般の読者向けに書いた分かりやすい政治記事もありますが、政治家の発言を意図的に解釈して書いている記事も少なくありません。その前提には自分が政治家に対して影響力を行使しているという政治部記者の気持ちもあるはずです。記事の内容によっては、政治家が右往左往し、世論も変わってきます。

私も地元の方々からいろいろな意見を伺いますが、その方の意見によって、その方が読売新聞か朝日新聞あるいは産経新聞などどの新聞を読んでいるか分かることがあります。記者の書きぶりによって事実の受け取り方も違ってくるということでしょう。

政治家には情報を収集する努力が不可欠だ

そういうわけですから、全国紙の政治面は国会の社内報と言えますが、新聞ごとに記者の意図が記事に反映するケースもあるので鵜呑みにはできない面もあります。政治家としては、それ以外のソースから常に新鮮な情報を得るように努力しなければなりません。そのポイントをまとめると、「現場に行くこと」「人に会うこと」「話題の新刊を読むこと」ではないでしょうか。私も、こちらからアポイントを取って、現地に出向いて話を聞くということをいつも心がけています。

これはある有力な政治家の話ですが、彼は予定のない土曜日には都内の大手書店が開店する前に行って、話題の新刊本をいつも5~6万円分購入します。それを読んで重要なところには付箋を貼ったりメモを取ったりして、必要とあらばその本の著者を勉強会に呼ぶように秘書に指示するそうです。

政治家であろうがなかろうが、普通、人は誰でも限られた範囲にしか目が届きません。私は、自分の気が付かないところまで目を配ってくためには常に情報収集のための努力を怠ってはならないと自戒して行動しています。