【国会レポート】テクノロジーの進歩は政治にも影響を与える【2007年1号】
すさまじい勢いで進歩するテクノロジー。それに伴って新しい商品、新しいビジネス、新しいトレンドが日々出現しているわけですが、同時に新しい犯罪も生まれています。政治もテクノロジーの進歩の明暗を見据えた対応をしていかなければなりません。
永田町周辺だけにいると国会議員も時代感覚が麻痺してくるようなところがあります。都内の先端スポットは原宿と秋葉原がおもしろいと友人から勧められていました。
iPodと同じような商品がわずか1500円
先日、久しぶりに秋葉原に行く機会があり、パソコンショップで990円の「携帯MP3プレーヤー」(大きさは縦横5センチ、厚さ1センチ)を見つけて購入しました。MP3ファイルを収めるためのSDメモリーも128Mを500円程度で買えたので、一式わずか1500円でした。実際に使ってみて驚いたのはその音質の良さで、今まで使っていたMDプレーヤーの音と遜色がないのです。人気のiPodは2~4万円もしますが、ハードディスク内蔵とフラッシュメモリーの違いがあるとはいえ音質的には負けませんし、パソコンからMP3の音楽ファイルをダウンロードして楽しむという機能も同じです。
つまり、2~4万円もするiPodと比べても音質や基本的な機能が変わらないMP3プレーヤーがわずか1500円で買えるようになったのでした。このMP3プレーヤーを同僚議員の何人かに聴かせたのですが、「値段は1500円だ」と言うと一様に驚いていました。
世界最大の半導体メーカー、インテル社の創設者の1人であるゴードン・ムーアが1965年に経験則として提唱したものに「ムーアの法則」があります。これは「半導体の集積密度は18ヶ月から24ヶ月で倍増する」というものですが、最近では集積密度を性能の向上に置き換えて言うようになっています。すなわち、「半導体の性能は18ヶ月から24ヶ月で2倍に向上する」ということです。この意味ではムーアの法則は依然として通用しているとされています。1500円のMP3プレーヤーもムーアの法則に則して商品化されたと言えるでしょう。
インターネットがファッションを変える
秋葉原と言えば、以前は家電、現在はパソコンとコスプレの街でもあるのですが、昨年8月にドイツに視察に行ったときに在独日本大使館の人から「ドイツでもコスプレの女の子たちが日本の漫画を扱っている店の前に集まっている」と聞かされました。コスプレのイベントはアメリカや中国でも盛んになってきています。日本発のカルチャーも瞬時に世界に広がっていく時代なのです。
ファッションの世界でも異変が起こっています。これまではパリ、ニューヨーク、東京などでのオートクチュールのコレクションに権威と販売実績がありました。コレクションで発表されたオートクチュールをバイヤーが買い、それを一般ウケするようにつくり変えて1年がかりで売っていたのですが、今、最も先端を走っているのは「東京ガールズコレクション」(次回は3月3日に横浜アリーナで開催)です。ステージでモデルが着た服を会場の観客やインターネットで見た人がリアルタイムに携帯電話で注文するというシステムになっていて、1日で数千万円の売上げになるそうです。もはやオートクチュールを1年がかりで売るというような悠長な時代ではなくなりました。
このことは通信販売でも顕著になっており、数週間単位でデザインを変えていかないと売れなくなっています。逆に言えば、少量でも売れるようになったということで、インターネット時代には短期間での多品種少量生産および販売が主流になってきました。インターネット用語の一つに「ロングテール」という言葉があるのですが、需要が少なくてあまり売れなかった品物でも、インターネットを介することで世界中の消費者を対象にすれば、それなりの量の需要が期待できるという意味です。
バーチャルなお金が現実のお金になる
一方、インターネットのオンラインゲームの世界では、犯罪になりかねない問題も出てきています。運営するゲーム会社の規定によれば、本来、ゲーム上のキャラクターはオンラインゲームの中だけで育てていき、ゲーム内で参加者同士でキャラクターを交換することはできるのですが、売買することは禁止されています。しかし、実際にはキャラクターを売買するサイトがあって、そのサイトを介して現金でキャラクターを買うこともできます。
これは金融の面から見れば、仮想の世界のお金が現実の世界のお金に変わるということで、バーチャルなお金を現金に換えていいのかは金融政策の面から見ても大きな問題を含んでいます。したがって、政治としてはいずれ、これを犯罪として取り締まるべきなのか、新しい金融のマーケットとして伸ばしていくべきなのか、判断しなければなりません。すでに市場規模は日本で150億円、韓国で300億円と言われており、無視できない大きさになっているので、少なくとも犯罪の温床にならないような規制は必要だと考えています。
テクノロジーの進歩が招いた共産主義の崩壊
1979年に書かれた『テクノクラシー』(講談社)という本には「テクノロジーの進歩についていけずにソビエト共産主義が崩壊する」と共に「テクノロジーに立ち後れてしまった西ドイツがソビエトに近づくことによって中立国化し統一する」と書いてありました。
それをドイツ駐在中の1985年に読んで、東西ドイツを出張で行き来しながら一つのドイツを感じていたため、正しいと直感的に思い、友人たちに「近い将来、ドイツは統一するだろう」と言ったのですが、当時は誰も信じませんでした。
現実には10年も経たないうちに『テクノクラシー』に書いてあったプロセスとは違いましたが結果的にドイツは統一されました。またソビエトも崩壊しました。
いずれにしてもテクノロジーの進歩は政治に影響を与えずにはおきません。政治家として今後ともテクノロジーの進歩に注目しキャッチアップして、法整備の面も含めて時代に政策を対応させていくべく努力していきたいと思います。