【国会レポート】外国人を受け入れる前に安国内の人材のスキルアップを【2007年3号】

今年のアメリカ大リーグは松坂大輔投手がデビューしたことで非常に盛り上がっていますが、今回は外国人の受け入れについて述べてみたいと思います。

周知のように松坂投手は、ポスティングシステムによって西武ライオンズから大リーグのボストン・レッドソックスに移りました。このシステムは自由に球団を移れるフリーエージェントの権利を持っていない選手に対して所属球団が認めた場合に限って適用されます。その選手の獲得を希望する球団の間で移籍金の入札が行われ、その結果、最高額を提示した球団への移籍が認められるという仕組みです。選手自身は..移籍先のチームを選ぶことはできませんし、移籍金も選手ではなく所属球団に支払われます。

松坂投手の場合、レッドソックスが5111万1111ドル11セント、つまり日本円で約60億円もの巨額の移籍金を提示したことで日米共にセンセーショナルな話題を巻き起こしました。松坂投手も6年で総額5200万ドル(約61億円)の契約を結びましたので、移籍金と合わせて「1億ドルの男」と呼ばれるようになっています。

先日、大リーグで松坂投手とイチロー選手との初対決があったのは記憶に新しいところですが、いずれにせよ、アメリカでの日本人選手の対決が日本ばかりか全米でも大いに注目を集めたというのは、グローバル化しつつある現代を象徴する出来事です。と同時に、外国人を積極的に受け入れるというアメリカの姿勢を如実に示したものでもありました。

卓越した能力を持つ者だけを受け入れる米国

ただし、注意しなければならないのは、アメリカが積極的に受け入れているのは、一芸入試と同じように卓越した能力を持った人たちだけなのです。

反面、卓越した能力を持っていない外国人には受け入れ枠が設定されており、移民や在留が制限されています。たとえば、アメリカとメキシコの国境にはフェンスが設けてあり、それを乗り越えて賃金の高いアメリカに密入国しようとするメキシコ人たちは厳しい取り締まりで追い返されます。国境を越えたアメリカ側には砂漠が広がっているので、アメリカの国境警備隊に捕まらなかったとしても、砂漠で水が切れてしまって渇水で死んでしまう人たちも少なくありません。そういう人たちを救うために砂漠の所々に給水タンクを置くという活動を行っているアメリカのNGO(非政府組織)もあります。

日本はどうでしょうか。日本はすでに15歳以上65歳未満の生産年齢人口が減っています。そのため、外国人労働者をどんどん受け入れるべきだと言う経済界の人たちは多いのですが、それで本当に良いのか、よく考えてみなければならないと思います。

会社は潤っても自治体の財政は苦しくなる

バブル期の直後、まだ景気が良かったときに労働力が不足していたため、日本は外国人労働者の受け入れの門戸をかなり広げました。まず中国や東南アジアの人たちを3年間の実習生や研修生という枠組みで入れたり、日系ブラジル人や日系ペルー人など中南米から無条件に受け入れるという制度をつくりました。

しかし、十数年経った現在、歪みが出てきているのも事実です。たとえば、自動車や電機の関連工場の多い群馬県大泉町では人口の15%弱が日系ブラジル人や日系ペルー人になっているのですが、賃金の安い日系外国人の労働力を使える会社は潤っている一方、日系外国人を受け入れるために地方自治体ではかなりの財政負担が生じています。

看護師や介護士の不足は国内の制度の問題

昨年、フィリピンとの間でFTAという2国間の貿易交渉を行い、日本からは非関税で自動車などを輸出し、フィリピンからは看護師や介護士を受け入れるということになりました。この場合、日本としては、フィリピン人労働者を受け入れるにしても看護師や介護士という専門職に限定しましたし、しかもこれらの看護師や介護士には大卒であることと日本語の試験に合格することという条件が付けられました。そのため、現実にはフィリピンの看護師や介護士はそれほど多く日本には入って来ないでしょう。

確かに今、日本では看護師や介護士への需要が増えているのに病院や介護施設では簡単には集まらなくなっているので、外国から看護師や介護士を積極的に入れたほうがいいという意見が強くなっているのはわかります。しかし、看護師や介護士の不足についてはもう少し中身を細かく見ていかなくてはならないでしょう。

看護師不足は、医療制度改革で病院に一定数以上の看護師を置かなくてはいけなくなったからです。これは国内の制度の問題ですので、看護師不足を解消するには、たとえば出産や子育てを理由に離職した看護師の復帰を進めるなど制度面からの対応も必要です。

介護士不足については介護施設の給料が安いということが一番の原因で、資格を持っていてももっと給料の高い職業への転職が急増してきました。介護保険をつくった当時、日本全体が不況だったために安い給料でも介護士が集まったのですが、しだいに景気がよくなってくるにつれて介護士の給料の安さが際立ってきたのです。これも制度の問題なのです。

年金制度を維持するという観点も重要だ

もちろん将来的には外国人の看護師や介護士も必要となるでしょう。けれども、現時点で安易に受け入れてしまうと、国内の人材のスキルアップができなくなります。したがって、今は外国人に頼らないで日本人のスキルアップを図るべきではないでしょうか。それがうまくいった後、団塊の世代が65歳から70歳を越えていくような時期には外国人に入ってもらう余地も出てくると考えます。

スキルアップは何も看護師や介護士に限りません。これから日本では働く人が減少し、労働者の給与総額が下がっていくと、厚生年金保険料の総額も下がることになり、年金制度がもたなくなります。人材をしっかり訓練し、より高いレベルの仕事でより多くの給料を得られるようにすることは年金をはじめとする社会保障制度を守るのにも不可欠なのです。