【国会レポート】公務員の転職は公職の公募によって行うべし【2007年4号】
政府・与党は、各省庁による国家公務員の再就職斡旋を禁止し、その代りに一つの機関で一元的に再就職斡旋を行うという公務員制度改革関連法案を用意しました。要するに、天下りを規制するための法案です。
この法案も含めて今後の政治では公務員制度改革が大きな焦点の一つになってくるでしょう。そこで今回は、公務員制度改革はどうあるべきかについて述べてみたいと思います。
天下りをする側と受け入れる側の論理
天下りというのは民間企業や非営利法人(特殊法人や独立行政法人など)への公務員の再就職のことですが、最近になって特に天下りによる談合や官民癒着の事件が数多く表面化してきたために、天下りを規制する法案が強く求められるようになったのでした。
従来、天下りを斡旋してきたのは各省庁の人事当局です。すなわち、その省庁の権限を背景に民間企業や非営利法人に公務員の退職者を押し込んできたのですが、そこが「天下りは省庁のヒモ付きだ」と言われるゆえんでもあります。
押し込まれる側としては、省庁の権限に逆らえないから受け入れるという言い方もできますが、省庁のヒモ付きであればこそ、仕事上の便宜を図ってもらえたり、何か起こったときに助けてもらえるのではないかという見返りが期待できます。つまり、天下りの受け入れは一種の保険でもあるのです。
そして、国家公務員の天下りの中で特に優遇されているのが、幹部候補生であるキャリア官僚(現在、全省庁で約1万5000人)にほかなりません。普通、キャリアは企画官、課長、審議官、局長、事務次官へと出世の階段を上っていくのですが、当然、ポストは上にいくにつれて減っていきます。
そうすると今のシステムでは他にポストがないので、出世コースから外れた公務員は早ければ50代前半に肩叩きにあって、公務員を退職しなければなりません。その代りに各省庁の人事当局が天下り先として民間企業や非営利法人を用意してくれるというわけなのです。
私もわが党の官庁出身の国会議員に訊いたところ、彼もそのまま役人に留まっていれば10年後には50歳を超えるので、退職し、関連法人に再就職すると語っていました。
骨抜きになる可能性の高い政府・与党の改革案
政府・与党の公務員制度改革関連法案は、①営利企業・非営利法人への天下りを全面禁止する、②再就職斡旋は内閣府に設置する「官民人材交流センター」に一元化する、③官民人材交流センターは2008年中に設置され、その後3年間で一元化する、というのが骨子です。
ところが、これには政府、与党、官僚機構との間で「官民人材交流センターのスタッフは各省庁の人事当局と必要に応じて協力する」という合意がありますので、これまでと同じように省庁のヒモ付きが残る可能性が高くなります。
ヒモ付きがないとどこも天下りを取らない
では、省庁のヒモ付きを外せばいいかと言うと、そうはいきません。今度は、天下りを受け入れるところが激減するでしょう。
もともと私益よりも公益のために働きたいと思って公務員になった方がほとんどのはずですし、公務員の仕事は民間とは違い、コスト意識や営業意識が求められるというよりも、法律、条令、規則に基づいて公平に仕事を行うということが基本になっています。したがって、仕事の性格からコスト意識や営業意識が育たなかった公務員の退職者を、営利を目的とする民間企業が何の見返りもなく(ヒモ付きがなく)受け入れるでしょうか。
私自身、サラリーマンだったときに鉄鋼会社から保険会社へ転職した経験があります。保険会社は何よりも営業成績が求められます。そのため、私も転職した当初、鉄鋼会社時代の意識を転換し、仕事の仕方を変えるのに非常に苦労しました。民間会社間の転職でも苦労するのに、ヒモ付きではなくお役所から民間会社へ転職するのは、たとえできたとしても民間の仕事に慣れるための苦労という面では並大抵ではありません。ではどうすればいいのか。
国家公務員法は公募優先の先進的な法律だ
私は、やはり公務員は公務員として転職すべきだと思います。つまり、どこかの役所でポストが空いたら、そのポストの人材を公募するのです。実は国家公務員法はきわめて革新的な法律で、「国家公務員は職務内容を個々に細かく記載し、それに応じて報酬を付け、ポストが空いた場合には下からの昇進ではなく、まず新しく公募して採用せよ」との趣旨で立法化されました。
終戦直後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指示によってアメリカの科学的人事管理がそのまま法文化されたものなのですが、以後、官僚機構が巧みにさまざまな法規を付けたために今や公募優先が忘れられてしまいました。やはりこの国家公務員法の立法精神に戻るべきではないでしょうかまた、それは国家公務員だけではなく地方公務員も含め公務員一般を広く対象にし、国家公務員と地方公務員の区別もなくすべきでしょう。
公務員は転職の自由がなくて人事が停滞する
その上で省庁、県庁、市役所などの間で自由に転職できるようにするのが望ましいと思います。アメリカの場合、2万5000もの国家公務員のポストが常にホームページで公募されています。そこには細かい職務規程、求められるキャリア、年俸が記してあります。
日本では民間企業ですと人事で割を食ったりしたら、自分の意志で転職することもできますが、公務員は不本意な人事であっても、民間への就職は難しく、他の公職にも転職できないため、我慢するしかありません。この点が民間と公務員の最も大きな違いです。おそらく現在の処遇に不満を持っている公務員も少なくないでしょう。そういう人は仕事に意欲が持てず、人事も停滞します。
このような公務員制度の欠点を補うには、やはりアメリカのようにポストが空いたら公募をかけるというシステムが有効ではないでしょうか。公募があれば、公務員でも仕事が気にくわなかったら別の役所に転じることができるのです。国家公務員法ができてから数十年経った現在、時代がようやく国家公務員法の立法精神に追いついたのではないでしょうか。
将来的には公務員の公募制度を実現するなどして、個人の能力を十分に発揮できる環境を整えていきたいと考えています。