【国会レポート】なぜ5000万件もの膨大な年金記録が消えてしまったのか【2007年5号】

私は先日、地元の方たちの参加を得て国会見学を催したのですが、参加者の一人にお父様の年金記録が消えてしまった方がいました。お父様は国民年金保険料を過去10年以上に遡って一括払いした(特別納付)にもかかわらず、社会保険庁にはその記録がなく、国民年金の給付を受けられないまま亡くなったそうです。

今、こうした事例も含め、5000万件もの膨大な年金記録が消えてしまったという問題が政治を大きく揺るがしています。ではなぜ、この問題が急浮上してきたのでしょうか。

それは、私たちが衆議院厚生労働委員会で社会保険庁改革の問題を議論する中、たびたび「5000万件もの年金記録が消えている」と政府を問い詰めていくうちに、やっと最近になってマスコミが事の重大性に気付いて、この問題を大きく報道するようになったからです。裏を返せば、マスコミが報道しない問題は世間に伝わりません。

継続して年金問題に取り組んできた成果

私たちはこの消えた年金問題について1年も前の昨年6月12日に厚生労働委員会で取り上げて、本格的な取り組みを進めてきました。さらに遡れば、民主党は継続してずっと年金問題に注目し、前回2004年の参院選挙のときにも年金問題を争点として戦いました。以後もたゆまず年金問題に深く関わってきた結果、今回、消えた年金問題をクローズアップさせることができたわけです。

これまでの社会保険庁の体質は本当にひどいものでした。6兆円もの年金保険料をリゾート施設の建設に流用したほか、何百台もの不必要な特殊プリンター、職員のカラオケセットやミュージカルのチケット、また、千葉県の社会保険庁研修施設にある職員専用ゴルフ練習場のゴルフボールなども年金保険料で購入していました。こうしたすべての事実は私たちが調査して明らかにしたのものです。

しかも社会保険庁はコンピュータシステムの維持管理に年間1000億円もかけていました。維持管理だけに1000億円もかかるはずがありません。ちょっと考えれば分かることで、メーカーなどからいいように請求されていたのです。私たちの指摘によって、今ではその半額の500億円にまで合理化されました。

ともあれ、このように年金問題に取り組んでいく中で、同僚議員が有権者と対話するたびに「年金保険料を支払った自分の記録がなくなっている」という声が多く寄せられるようになりました。最初は本人の単なる記憶違いではないかとも思われたのですが、それにしても苦情の件数が多いので、社会保険庁に調査を要望したのですが、どうしても回答が要領を得なかったのでした。

予備的調査報告書で判明した衝撃的な事実

そこで、長妻昭衆議院議員を中心とした民主党議員43名が昨年12月に衆議院に「国民年金・厚生年金の納付した保険料の納付記録が消滅する事案等に関する予備的調査要請書」を提出し、それを受けて厚生労働委員会が衆議院調査局に調査命令を出したのです。

この予備的調査の報告書が来たのが今年2月。そこで初めて、昨年6月時点で「宙に浮いた年金記録」(=基礎年金番号に統合等がされていない年金手帳番号)が国民年金約1100万件、厚生年金約4000万件、合計約5100万件もあるという衝撃的な事実が判明したのです。

この時点では、前述したようにまだマスコミは報道せず、わずかに2007年2月17日の日本経済新聞だけが「基礎年金番号漏れ、記録に不備5000万件」という見出しで取り上げただけでした。そのため、世間の注目を浴びるまでには至らなかったのですが、なぜマスコミの大半が取り上げなかったかといえば、政府のほうからの「問題はない」という説明を鵜呑みにしていたのでしょう。

とはいえ、やはり5000万件という数字の衝撃は大きく、ゴールデンウィークが明けるとマスコミも取り上げ始め、とうとう今のような大問題に発展したのでした。

最近では、5000万件とは別に1987年(昭和62年)3月時点で最大約1500万件がコンピューター上に記録されていなかったことも判明しています。

4種類の「消えた年金記録」ができてしまった

それにしても、どうして5000万件もの年金記録が消えてしまったのかと言えば、およそ30年前に社会保険庁がコンピュータ管理を開始したときから氏名や生年月日の入力ミスが繰り返えされてきたことのほか、1997年(平成9年)に基礎年金番号制度が導入された時点で1人で複数持っていた番号がきちんと1つの基礎年金番号に統一されなかったことなどがあります。

その結果、①手書きデータもコンピュータデータもない完全に消えている記録、②手書きデータはあってもコンピュータから消えている記録、③コンピュータ上のデータが壊れていて実質的には消えている記録、④1つの基礎年金番号に統一されていない末統合の記録、という4種類の「消えた年金記録」ができてしまったのでした。

1年間で5000万件を処理することはできない

政府はこの5000万件の消えた年金記録について1年間で照合して解決するとしていますが、現実的には物理的に不可能でしょう。

私たちは、この問題を解決するために1年かけて議論を積み重ね、調査の実施、その報告書の作成、記録の訂正及び救済策の実施を柱とする「消えた年金記録被害者救済法案」を作成し、5月7日に衆議院に提出しています。以来、この法案の審議を強く求めてきたのですが、与党のほうは性急に審議を終わらせてしまいました。

しかし今後とも、私たちはこの法案の主旨を実現するために全力を尽くしていかなければならないと思います。

★「消えた年金」問題についての主要な数字

①5095万1103件

年金支給に結び付いていない宙に浮いた保険料納付記録で、内訳は国民年金1128万9282件、厚生年金3966万1821件(いずれも2006年6月1日現在)。

②1866万7317件

約5000万件のうち、受給年齢でなおかつ存命の可能性が高い方の記録。内訳は国民年金366万7662件(65~79歳)、厚生年金1499万9655件(60~79歳)。

 ③30万1841件

5000万件のうち「生年月日不明」となっている記録。