【国会レポート】首相官邸の機能強化に見合う優秀なスタッフの確保を【2007年8号】

安倍晋三首相が突然、辞任表明をしたのは9月12日でした。臨時国会が開会して首相の所信表明に対する代表質問のまさに直前だったため、私も大変驚きました。辞任という事態を招いた、安倍首相をめぐる事情についてはマスコミでさまざま報道されていますので、そうした点はさておき、ここでは首相官邸という存在が現在どのような位置付けにあるのか、またどうあるべきなのかについて述べたいと思います。

官邸の建物は、1929年建設の旧官邸に代って2002年4月から新築の官邸の使用が開始されました。旧官邸の2.5倍という延べ床面積の新官邸は地上5階建てで、地下にはハイテク設備を持つ危機管理センターも置かれています。

しかし、官邸は建物が新装されただけではありません。近年、その機能も大幅に強化されてきたのでした。きっかけは2001年の中央省庁再編。縦割り行政の弊害を減らし、官僚に代わって政治家が政策決定の責任を負う、つまり本来の政治主導の仕組みにするというのが大きな目的でした。

省庁再編によって官邸の機能も強化された

再編の結果、1府22省庁から1府12省庁へと変わったのですが、特筆されるのが従来の総理府、経済企画庁、沖縄開発庁が合流して「内閣府」となり、この内閣府が他省庁の上部に位置する総合調整組織だとされたことです。

同時に内閣府には経済全般の運営や予算編成の基本方針などを審議する「経済財政諮問会議」も設けられました。首相が議長を務め、メンバーは経済閣僚や民間人など10名以内で構成されますが、従来、予算編成では財務省(旧大蔵省)があまりにも力を持ち過ぎていたので、予算編成の面でも政治主導を確立するというのが狙いです。

国民の人気が高い政治家をトップに

このように内閣府や経済財政諮問会議の創設で官邸の機能が強化されたほか、もう一つ、衆議院の選挙制度が(1選挙区に当選者が複数いる)中選挙区制から(1選挙区に1人の当選者しかいない)小選挙区制に変わったことも結果的に官邸機能の強化につながってきました。

つまり、政府与党を見ると、選挙に勝つためには国民の人気の高い政治家を首相に戴くという傾向が強くなりました。

そのため、首相は以前のように各派閥に気を遣う必要もなくなり、首相に就任しても自分の思い通りの閣僚人事を行うことが容易になりました(以前は各派閥が提出した候補者の名簿から首相が閣僚を選んでいました。名簿に入っていない閣僚を選ぶには各派閥を説得するために大変なエネルギーと政治力が必要でした)。

ホワイトハウス化してきた官邸の位置付け

要するに、官邸の機能自体が強化され、党内基盤も強くなってきたので、現在の首相は従来よりもはるかに強いリーダーシップを発揮することができるようになったのです。日本は議院内閣制ですが、日本の首相官邸は今や、大統領制のアメリカのホワイトハウス的な位置付けに近づいてきたという言い方もできるかもしれません。

しかし、これは裏を返せば、首相にはリーダーシップ、首相を支えるスタッフにはきちんとした仕事ぶりがそれだけ強く求められるようになったということです。このスタッフには広い意味では閣僚も含まれますが、コアの部分は、内閣総理大臣秘書官(首相秘書官)、内閣官房長官、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官(首相補佐官)などです。

内閣総理大臣秘書官は首相につねに付き従って、スケジュール管理や機密事項を取り扱い、政府の各部局や与党などとの調整も行います。ホワイトハウスなら大統領首席補佐官に当たるような役職でしょう。

内閣官房長官は、内閣官房や内閣府をまとめるとともに内閣の重要な決定事項の調整も行います。また、政府の公式見解を発表する報道官としての役割も持っています。

内閣官房長官を補佐する内閣官房副長官は、慣例で国会議員から政務担当として2人、官僚経験者から事務担当として1人が任命されます。特に事務担当の職責は、各省庁のトップである事務次官の会議を主宰するなど非常に重いものがあり、通常は事務次官経験者から選ばれるので事務次官の中の事務次官とも呼ばれます。

内閣総理大臣補佐官は1996年から内閣法に規定された内閣官房の官職の一つで、内閣の重要政策に関して首相に進言することなどを職務としています。ちなみに、安倍内閣では最初、国家安全保障問題担当、拉致問題担当、経済財政担当、教育再生担当、広報担当の5人の補佐官が置かれていました。

安倍内閣の場合、年金問題を当初軽視したこと、政治資金にまつわる閣僚の問題が次々に噴出したことなどから、首相を支えるスタッフがうまく機能したのかどうか疑問です。

首相を支える有能な人材を確保しておくべき

官邸の機能が強化されてきたのならなおさら官邸に入るスタッフの質が重要になります。この場合、質というのは、もちろん首相を補佐する仕事がきちんとできて、バランス感覚に優れ、他のスタッフともチームを組んで協力し合えるような人材です。

別の観点から言うと、政治では天災や諸外国との紛争など予測できないことが起こりがちですが、最も重要なことはそうした予測不能な事態への危機管理をどうするかだと思います。といって、危機管理庁のような組織づくりが優先されるのではなく、まずはその前に危機管理に対応できる人材をいかに揃えるかが大切ではないでしょうか。官邸には危機管理センターも置かれていますが、それを活用するもしないも官邸のスタッフの力量によるということです。

我が党も政権を担う可能性がしだいに高まってきています。首相を送り出すときに首相を支える優秀な人材をそれまでにいかに確保あるいは育てておくかが今、民主党にも強く問われているのだと思います。