【国会レポート】「ねじれ国会」でも法律はきちんと可決・成立している!【2007年10号】

9月10日に開会し11月10日に閉会するはずだった臨時国会は、新テロ特措法の衆議院通過を図るために政府によって12月15日まで35日間延長されました。

わが国はテロ特措法に基づいて海上自衛隊をインド洋に派遣し補給艦による米海軍艦艇などへの給油活動を行ってきたのですが、同法の期限が11月1日に切れたため、それに代わるものとして政府が国会に提出したのが新テロ特措法です。これは与党と野党の意見が分かれる、いわゆる「対決法案」という位置付けにあります。

衆議院で法案を再可決するのは大変だ

新テロ特措法の成立が簡単ではないのは、7月29日の参院選で野党が勝ったことが大きく影響しています。衆議院では与党が圧倒的な議席を占めていますが、参議院の議席は与野党逆転しているため、衆議院で与党の多数によって可決された法案も参議院で否決されると、もう1度、衆議院に持ち帰って3分の2以上の多数で再可決されない限り成立しません。

逆に言えば、衆議院で再可決しさえすればどんな法律も成立するのですが、それに至るためのエネルギーと時間は膨大なものとなり、現実的には1本の法案を再可決するだけでも大変なのです。まさにこの新テロ特措法は成立するとしても再可決を含めて紆余曲折が予想され時間がかかります。国会冒頭に首相が交代したためにほぼ1ヵ月間、国会が機能しなかったので政府は今回、臨時国会の延長に踏み切ったのでした。

マスコミは、「衆議院では与党が多数、参議院では野党が多数」というこの国会の状況を「ねじれ国会」と呼んでおり、新テロ特措法がすんなりとは成立しない状況をねじれ国会の象徴的なものとしてとらえています。ここまではいいとしても、問題は、マスコミがねじれ国会という言葉を使って法律が1本も成立しないかのような印象を与える報道をしていることです。

実際には、いくつもの法律が衆議院でも参議院でも可決・成立しており、私たちは国民生活に不可欠な法律はきちんと通してきています。

強行採決から一転、柔軟な姿勢に変わった

参院選の前の6月までの通常国会を振り返ってみると、当時は参議院でも与党が過半数で、もちろん衆議院では圧倒的に与党の議席数が多かったため、特に対決法案については与野党の合意がないままに政府・与党の強行採決がどんどん行われて成立しました。これまでの私の7年半の国会議員経験でもこんなに強行採決が多い国会は初めてでした。

ところが、参議院で与野党逆転して、このような強行採決はできません。その結果として国会のなかに緊張感が漂い、議論して法律を通していこうという雰囲気ができてきたのです。したがって、マスコミの言うねじれ国会も、議論の府である国会を取り戻したという意味では必ずしも否定すべきことではないと思います。

いずれにせよ、これまで野党を一切無視した国会運営をしてきた与党も、衆参を問わず、非常に柔軟な姿勢に変わってきました。以前はわが党の法案に与党議員が質問することはほどんどありませんでしたが(どうせ与党案が通るので、審議時間をできるだけ短くするために与党が野党に質問することはめったにありません)、それが今、与党はわが党の法案にも積極的に熱心に質問するようになっています。

たとえば厚生労働委員会では、対案として提出した労働契約法や私が法案提出者の一人である最低賃金法については、与党から非常に多くの質問がなされました。参議院ですと、わが党は農業政策の基本となる法案を出しているのですが、それに対しても与党からの質問攻めを連日受けて最終的に参議院で可決され、衆議院に送られています。

与党も積極的に質問をするようになった

つまり、野党にもかかわらず、国会の質疑では、まるで与党と同じく質問を受ける立場に立つようになったわけで、私たちが政権を担ったときのことを考えても、非常に良い訓練になっているとも言えるでしょう。ただし、国会の答弁書は与党の場合、役人がつくってくれるのですが、野党である私たちは自分でつくらなければなりません。官僚機構に頼らないで答弁書を書くのは非常に大変なのですが、それも政権を担ったときに官僚に依存しないで政策を実行できるようになるための勉強だととらえることができるでしょう。

したがって、実際には以上のような与野党の議論を通じて、国民に必要な法律は成立しているのです。主要なところではたとえば、地域別最低賃金を決めるときに生活保護との釣り合いを考えて「健康で文化的な最低限度の生活」への配慮を加えた「最低賃金法改正案」、就業形態の多様化を踏まえて転籍や雇用条件などの雇用ルールの明文化を盛り込んだ「労働契約法案」、被災住宅本体の再建に支援金を使えることなどを柱とした「被災者支援法改正案」です。

しかも、これらの法案は衆議院と参議院でお互いに議論し、より良い法案に仕上げて成立したものだと言えます。ねじれ国会のお陰で、かえって国民の目線に近くなった法律が成立しているのです。

国民のためにわが党の政権獲得が不可欠だ

今後のことでは、私の所属する経済産業委員会では今、日本商工会議所、全国商工会連合会、電気事業連合会、石油連盟などの各団体からヒヤリングをしながら来年の税制のあり方を議論しています。これまで税制は政府・与党が独占的に決めていたのですが、これからは私たちが賛成しなければ税制の法律は成立しません。となると、わが党と与党が協議をして税制を決めるということになります。塩野七生の本のなかには「税は政治の根幹である」という記述があったかと思います。私たちが税制について影響力を持つということは、批判すればいいだけの野党的な立場ではなく、政権を担える判断力や見識を示さなければなりません。

では、この状況を続けたほうがいいかと言うと、国会での与野党間で議論して一つの法律にまとめるにはやはり時間がかかります。そのスピードを上げていかなければなりません。また、国民の意見を正しく反映させるという意味でも、わが党が政権を担って衆参ともに多数を占めることを目指すべきでしょう。

ただし、今の国会の与野党の議論は、わが党が将来、政権を担ったときのための良い訓練になっています。このプロセスを経ることによって、私たちは衆参ともに過半数を取り、政権を担ったとしても、従来の与野党の関係とは違う建設的な関係を築いていけると思っています。