【国会レポート】なぜテロ特措法が大きな焦点になったのか【2007年11号】

テロ特措法(特別措置法)が再延長されずに11月1日に失効したのを受けて、インド洋上で米国艦船などに給油を行っていた自衛隊の補給艦も11月23日、東京・晴海埠頭に帰港しました。

給油は2001年12月から始まって5年11ヶ月間実施されたことになります。私は同僚議員とともに晴海で補給艦を出迎えました。過酷な環境の下で補給業務をした自衛官には深い敬意を表します。

それにしても、テロ特措法の延長問題と新テロ特措法の可決問題が日本の政治の中で思いのほか大きな焦点になってしまったことに、私は違和感を覚えています。

自衛隊の給油量は2001年12月からこれまでに金額ベースで合計約220億円分でした。ところが、2007年は15億円程度にまで落ちてきているのです。2001年から2003年が給油のピークで、2004年からは大幅に減っており、一つの役割は終わったとみるのが自然でしょう。

丸2ヶ月も空費してしまった政府・与党

政府・与党はテロ特措法の延長を、今では新テロ特措法の可決を強く主張しています。もしインド洋での給油をそれほど大事だと思っていたのなら、今までにテロ特措法の延長を可決できる機会もありました。安部前首相が7月の参院選が終わった直後にすぐに組閣し夏休み返上で国会を開けば、可決の時間は十分に取ることができたのです。にもかかわらず、組閣に1ヶ月をかけ、その上、突然の首相辞任で新しい首相が選ばれるまでにさらに1ヶ月を要してしまいました。政府・与党自身の事情で丸2ヶ月も浪費しています。

そのことを、「時間が足りないからテロ特措法延長の可決ができなかった」として、新テロ特措法を可決するために12月15日で閉会する予定だった今国会を再延長したのは奇妙なことです。政府・与党が心から真剣にテロ特措法の再延長を考えていたとは思えないのです。

新テロ法案は国会を2008年1月15日まで再延長したことで、参議院で否決されても衆議院で3分の2の議席を持つ与党によって可決されるでしょう。そうなると、インド洋での自衛隊による給油も復活します。しかし、2008年は衆院選が行われる可能性が高く、そのときに与党が現在の議席を維持することは難しいと考えられています。与党で3分の2以上の議席の確保はできないでしょうから、新テロ法案の延長が参議院で否決されると衆議院でも可決できなくなって再び給油はストップします。このように1年しか給油を延長できないのに政府が新テロ特措法にこだわるのは、政権の求心力を保つためとブッシュ政権への義理立てからではないでしょうか。

一方、テロ特措法が失効して自衛隊の補給艦がインド洋から離れて2ヶ月経ったのに、日本に対する国際的な批判はどの国からも聞こえてきません。米国にしても、なるほどシーファー駐日大使が民主党までやって来てテロ特措法の延長を求めましたが、米国内で給油ストップが大問題になっているかというと、まったくそんなことはありません。

ブッシュ政権にしてみれば、最も親しい同盟国の一つである日本が戦列から離れると国際的な信用にかかわるという懸念は持っていたでしょうが、米国民の大部分は日本の補給艦がインド洋で活動していたことも、インド洋から引き揚げたこともまったく知りません。今、米国民の関心はもっぱら大統領選の予備選に向けられています。

貢献なら実は日本はすでにアフガンに対して1500億円もの援助を実施しています。この金額は前述の給油の金額よりもはるかに多いし、アフガンへの直接的な貢献にもなっています。

大海のインド洋にはテロリストは出ない

とはいえ別の観点では、日本のエネルギーは中東から運ばれる石油に依存しているのだから、日本がそのタンカーの通るインド洋を守るのは当然だ、との議論があります。

これはいわゆるシーレーン防衛の議論ですが、それでも、なぜインド洋なのかという疑問は残ります。船を襲う海賊はマラッカ海峡などの狭い海域にしか出没しません。外洋に出て行くにはかなりの装備が必要で、そのような船は軍事衛星で必ず捕捉されるからです。

私はインターネットで衛星写真の画像を検索し、自宅の映像を出してみたことがありますが、自分の車まではっきりと写っていたのに驚きました。インターネットの画像でさえそうですから、軍事衛星ならもっと微細なものまで写せるでしょう。万が一、広いインド洋にテロリストの船が出没しても軍事衛星から船の動きはきちんとキャッチできます。したがって、今回、シーレーン防衛のために給油が必要との主張がありましたが、説得力は乏しいのではないでしょうか。

特措法は米国と付き合う一つの知恵だ

海外に自衛隊を派遣するときにいちいち特措法をつくるのではなく、自衛隊を海外に出せると定めた恒久法を制定しようとの動きもあります。今や日本と米国とは切るに切れない深い関係ですが、「最も大事な国である米国の求めに応じて、いつでも自衛隊を海外に派遣できるのだから、恒久法を制定すべきだ」という主張です。

日本はイラク戦争のさいに参戦しなかったドイツ、フランスとは異なり、米国の求めはなかなか断りにくいのですが、これまでは国内で十分に議論をして必要とあれば特措法を制定するという形で米国に協力してきました。しかし、もし恒久法ができたら、国内の議論を飛ばしていきなり自衛隊を派遣するという事態にもなるかもしれません。それでは納得できない国民も少なくないでしょう。だから、特措法はそうならないための日本の知恵だと思います。日本企業が海外企業と交渉するとき、問題が複雑な場合、交渉者が「日本の本社と協議しますので」と言って慎重に対応するのと同じです。特措法という手段はなかなか知恵のある方法ではないでしょうか。

ところで、米国は、自国の国益や経済的な利益を無視してまで、自由と民主主義を世界に広めたいという志を持っている国です。それが行き過ぎると、国連を無視するような単独主義に走ってしまうことがあります。今回のアフガンやイラクへの出兵にもそういう面は否定できません。

しかし、政権が代わると省庁の幹部も含めて政府の要人が入れ替わってしまうため、政策もドラスチックに変わりがちです。とすれば、米国と付き合う場合、そうした政策の大きなブレに引きずられないようにして、時には日本も助言するなどパートナーとしての責任を果たさなくてはならないと思います。