【国会レポート】世界と日本の経済にとって極めて重要な洞爺湖サミット【2007年12号】

よく経済は生き物と言われ、勝手に動いているかのように見えますが、実際にはそうではありません。経済こそ政治の影響を非常に大きく受けるのです。

その最もわかりやすい例が1990年3月27日に当時の大蔵省が実施した「総量規制」でしょう。要は、金融機関に対して不動産向けの融資を抑えるように求めたものです。

背景には土地価格が高騰したため「マイホームが買えない。政府は何をしているんだ。土地の価格を下げてくれ」という国民の強い声がありました。そこで大蔵省は、金融機関による無制限の不動産向け融資が土地高騰の原因だと考え、不動産融資を抑えれば自ずと土地の価格が下がると判断して総量規制を実施したのです。

バブルを一気に弾けさせた「総量規制」

今から振り返ると、1990年3月はバブルのピークは過ぎたとはいえ、まだバブルの渦中にあった時期でした。ところが、この総量規制を実施したためにバブルが一気に弾けてしまい、その結果、何が残ったかは皆さんもよく御存知でしょう。数十兆円もの(一説には100兆円を超えていたされる)巨額の不良債権です。総量規制によっていきなりお金の流れが止まって、急激な信用収縮が起こってしまったからでした。

以後、大手も含めて多くの金融機関が潰れ、日本経済も十数年にわたって低迷しました。歴史は変えられないとしても、もしあのときに総量規制をしなかったらどうなっていたでしょうか。実はこの「もし」は映画化されているのです。それが昨年2月に公開された「バブルへGO!!タイムマシンはドラム式」(ホイチョイ・プロダクションズ原作、馬場康夫監督)で、私も年末にこの映画をレンタルして見て、政治と経済とは密接に関係しているという思いを改めて強くしました。映画のあらすじは以下の通りです。

2007年3月、日本経済は800兆円以上の借金を抱えて破綻の危機にありました。そうなった原因が1990年の総量規制だと考える財務省官僚の下川路功(阿部寛)は、日立製作所の研究員である田中真理子(薬師丸ひろ子)がドラム式洗濯機型のタイムマシンを開発したことを知り、まず真理子をタイムマシンで1990年3月に送ります。総量規制を阻止するためです。しかし、真理子の消息が途絶えてしまったため、今度は真理子の娘である真弓(広末涼子)を送ります。すったもんだの挙げ句、この2人と1990年当時の下川路の活躍で総量規制の阻止に成功し、その結果、2007年の日本経済はまったく違ったものとなったのでした。

総量規制の有無によって今日の日本経済の有様がずいぶん違ってくるというのがそれなりの説得力を持って描かれていると思います。

では、現実にも映画のように総量規制が行われなかったとすると、どうなったでしょうか。たぶんバブルを一気に弾けさせるのではなく、ゆっくりと萎ませるようなソフトランディングの政策が取られたでしょう。とすれば、不良債権が出たとしても巨額にはならなかったはずで、一時的に不況に陥ったとしても経済回復のスピードははるかに速かったに違いありません。

政治家に求められる的確な見通しと判断力

映画では総量規制を出すかどうかは銀行局長の判断になっていましたが、現実には当時の大蔵大臣をはじめとする政治家の判断が大きかったのです。本来、政治家には経済の先行きに対する的確な見通しと判断力が強く求められたわけで、裏を返せば、総量規制においては政治家の的確な見通しと判断力が欠けていたために巨額な不良債権の山を築くことになってしまったと言えるでしょう。

そして今、強調したいのもまさにそのことなのです。

エコノミストやマスコミの年頭の予想では「今年の経済は厳しい」というものが多く見受けられました。というのも、昨年から原油価格や穀物価格が高騰してきているほか、アメリカのサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)の問題も吹き出してきました。つまり、お金が株式市場ではなく商品相場や金融商品に流れているのです。株式市場なら有望な企業に資金が渡りますが、商品相場や金融商品だと単なるマネーゲームで終わってしまい、お金は新しい価値を生むために使われません。新しい価値が生まれないと経済活動は沈滞していきます。また、今年は北京オリンピックの年ですが、中国経済も懸念されます。たとえば鉄鋼生産量は日本が年間1億トン強程度なのに対し中国は5億トンにも達しようとしており、しかもここ10年で5倍にまで急増しているのです。そこにはやはり経済が加熱している側面があります。

そして、日本経済は、数値の指標では好景気が戦後最も長い間続いてきたことになっていますが、一般の人たちにはここ数年好景気だったという実感はほとんどないはずです。この間、内需が拡大してきたのではなくて、もっぱら輸出による外需に頼ってきたからでした。

洞爺湖サミットは環境が大きな切り口となる

日本経済は、前述した世界の経済状況ともあいまってこのままだと非常に厳しい状況に追い込まれます。年初から平均株価が大きく下落しているのもその前触れでしょう。ここでやはり政治家の的確な見通しと判断力が求められるのですが、幸い、今年は7月に北海道で洞爺湖サミットが開かれます。議長国の日本が議題を決められ、世界の課題についてリーダーシップを取れるのです。この機会を最大限に活かして経済の回復を図っていかなければなりません。

2000年の沖縄サミット以降、世界全体を豊かにするため自由競争の試みが行われてきましたが、実際には国や人々の間に大きな経済格差を生み出してしまいました。ノーベル経済学賞を取ったステグリッツの言うように、豊かになるのは情報を持っている国と人だけだからです。ですからまず、洞爺湖サミットをきっかけに格差を生む経済の潮流を変えなければなりません。国や企業で生まれた富や財の分配のあり方を見直すことで、それぞれの国の中に安定した広大な中間層をつくることに世界の政策課題を転換する必要があります。このことでテロが防止され、世界が安定し着実に成長していくと思います。

加えて、人類が持続して成長できるように環境問題と食料問題を解決しなければなりません。世界に誇れる日本の多様な環境技術が大きな切り口となるでしょう。さらに、流動性を持った過剰なマネーをどう制御するかも大きなテーマとなります。

いずれにせよ、世界経済の潮流を大きく転換しなければなりませんが、そのきっかけをつくるのが洞爺湖サミットでの日本の大きな役割なのです。