【国会レポート】道路特定財源をめぐる暫定税率と一般財源化の問題【2008年1号】
今開かれている国会では、「道路特定財源の暫定税率を維持すべきかどうか」、また、より根本的な問題として「道路特定財源そのものを存続させるべきかどうか」ということが大きな争点となっています。
まず道路特定財源というのは、受益者負担の考えに基づき、自動車を利用している人たちが自動車の取得(自動車取得税)、保有(自動車重量税)、利用(ガソリン税、石油ガス税、軽油取引税など)に応じて国と地方自治体に支払う税金のことです。
道路特定財源は道路の整備に使うことになっているのですが、最近、国土交通省が道路特定財源をカラオケセットやマッサージ器、野球のグローブなどの購入に充てていたことがわかって批判を浴びたのは、皆さん、よく御承知のことでしょう。今回のルーズな使い方も、社会保険庁と同じように特別会計からの支出でした。
30年以上も続いてきた「暫定」税率
次に暫定税率ですが、ほとんどの税金は、購入した物やサービスの値段、あるいは購入した物の重量などに応じて一定の割合で課されます。道路特定財源の各税金もそれぞれ課税の割合が決まっていたのですが、1970年代のオイルショックをきっかけにして、本来の税率を上回る暫定税率を導入することになったのでした。
たとえば、ガソリン税の場合、本来は1リットル当たり24.3円が課税されていたのですが、暫定税率を導入した結果、本来の2倍の1リットル当たり48.6円が課税されることになったのです。
自動車利用者は、オイルショック以降すでに30年以上も2倍の税金を払ってきたわけで、暫定(しばらくの間)という名前が付いているのですから、今、この暫定税率を見直すべきだという議論が高まってきているのは当然のことでしょう。
国の財政には一般会計と特別会計がある
ところで、国の財政には一般会計と特別会計があります。一般会計とは財務省が各官庁の要望を聞きながら、最終的には政治の判断によって予算の分配を決めていくものです。つまり、時の政権が政策に優先順位を付けて支出するのですが、政権交代が起これば、公共事業、社会保障、防衛、教育などどの分野に予算を付けるかという優先順位も変わってきます。
それに対して、特別会計は各官庁でそれぞれ管理する予算で、どうしても使い道がルーズになる傾向があります。道路特定財源も国土交通省が管理する特別会計の一つですが、政府はその都度、国会の決議を取って暫定税率を延長し、道路特定財源として毎年5~6兆円(平成20年度予算では5兆4000億円)を確保しています。
しかも、今回、政府は暫定税率を向こう10年間続けるという法案の国会通過を目指しています。これが通れば10年間で60兆円近い予算を使い、高規格幹線道路(いわゆる、高速道路)を1万4000キロ整備することになります。
20年前の予測による道路建設は疑問
今後、1万4000キロもの高規格幹線道路が必要というわけですが、その根拠となっているのは1987年(昭和62年)当時に見積もった将来予測なのです。つまり、当時、2050年には日本の人口を1億2800万人、65歳以上の高齢者人ロの占める割合は26%になると予想し、その結果、1万4000キロの高規格幹線道路を建設しなければならないということになったのでした。
しかし、日本の人口はすでに減少に転じています(2006年10月1日時点で1億2777万人)。現在の予測では2050年の人口は9500万人、高齢者の占める割合は26%どころか40%に達すると見られています。ちなみに1987年の国の借金は238兆円でしたが、今は778兆円にもなっています(予算委員会で岡田克也委員が指摘)。
ところで、不必要な道路はありません。どんな道路であっても利用される方がいらっしゃればその人にとって必要な道路です。ただ、すべてをフルスペックの高規格幹線道路で建設する必要はないと考えます。まず、最新の調査データに基づき、それぞれの路線の需要予測を行い、費用対効果が最も優れているのは、どのような仕様・規格の道路であるかを導き出します。その上で優先順位の高い、つまり経済波及効果の大きいものから建設します。これまでは、経済効果を度外視して、造りやすい道路から建設してきた傾向がありますので、優先順位を守らせることがポイントになります。
もちろん道路だけ特別扱いする理由も見当たりません。道路特定財源も特別会計にしておくのではなく一般財源に移して社会保障や教育などと一緒に政策の優先順位の中で予算配分を決めていかなければなりません。
しかし、特別会計は、各官庁の既得権益となっており、この権益を守るために各官庁は必死になるという側面もあります。
道路特定財源の見直しこそ真の「改革の本丸」
小泉政権も安部政権も道路特定財源の一般財源化を行おうとしたものの、役所と関連する議員の激しい抵抗の前に立ち消えになってしまったのでした。しかし逆に言えば、道路特定財源の一般財源化に手を付けることは、役所という日本のシステムそのものの抜本的な改革につながるのです。道路特定財源の見直し、言い換えれば、特別会計の見直しこそ、まさに小泉流に言う「改革の本丸」なのです。
ともあれ、今回の道路特定財源の暫定税率をめぐる議論の中で、多くの皆さんも国の予算の立て方に大きな問題があるということに気がついたのではないでしょうか。道路特定財源の暫定税率を廃止することは、政府の非効率的な部門に大ナタを振るうことになり、わが国のあり方を抜本的に変える第一歩になるのです。
一方、地球温暖化対策など環境問題対策のためには、諸外国並にたとえば地球温暖化防止税なども設けなければならないでしょう。暫定税率に代わるこの税の配分のあり方については、一般財源化した上で、経済効果の大きい道路建設の予算が足りないなら、それに使ってもいいでしょうし、地方公共団体にも用途を限らないで手厚く配分していくべきだとも考えます。
テロ特措法は1~2年ごとに何度も延長し最後に問題化しました。道路特定財源の暫定税率は抜本的な見直しを行わず30年以上も延長してきて、やはり問題になっています。
つまり、政治には決断しないまま問題を放置してきたという不作為の責任が問われているのです。まず不作為を止めて改革につなげなくてはいけません。