【国会レポート】政治は政策的な誘導によって不況を乗り越えていくべきだ【2008年2号】

先日、米国のFRB(連邦準備制度理事会:日本銀行に相当)が大手証券会社ベアスターンズ社に対し金融面での支援を実施しました。この支援策は1930年代の世界恐慌における米国の法律が根拠となっていると、先日、専門家の話を伺いました。また、FRB議長のバーナンキ氏は大学での研究テーマが「世界恐慌」だったそうです。いずれにせよ、このような政策は米国の大きな危機感の表れでしょう。

その背景には米国の低所得者向け住宅ローン「サブプライムローン」が大きく影を落としています。このローンでは最初の数年は返済金利が低くそれを過ぎると急に高くなるのです。特に2008年3月がそのピークです。

ところが、「もし返済できなくなっても住宅価格が上昇するので問題ない」という宣伝文句につられて、このローンで住宅を買った低所得者が非常に多かったのでした。住宅価格が上がってる間(5年前比でたとえばカリフォルニア州では75%以上上昇)は住宅も売れたのです。しかし、昨年中頃から住宅不況に陥って住宅を売ろうにも売れなくなり、返済に行き詰まって破綻する人が急増し始めました。

そこまでならアメリカだけの問題で済んだでしょう。世界的な大問題になってしまったのは、サブプライムローンが他の金融商品に組み込まれて世界中の金融機関等に売られたからでした。返済されない屑のようなローンをつかまされた世界の多くの金融機関がすでに大損害を被っています。100兆円の損害になるという予測も出ていますが、その程度では収まらないという見方のほうが有力です。サブプライムローン問題というよりもクレジットバブルが崩壊したととらえるほうが適切でしょう。特にこれからヨーロッパにその影響が出てきます。

現在はドル安ですけれども、これからは円に対してユーロ安になるとの意見もあり、日本の輸出企業にとっては大きなダメージとなる恐れがあります。

企業の利益を国民に十分還元しなかった日本

以上のように世界経済が悪化してきたとしても、わが国の内需が堅調ならば、あるいは金利がもっと高ければ対策の打ちようもあります。ところが、内需を喚起するだけの十分な所得が国民に還元されてこなかったために内需による景気の下支えを期待できないのが現状で、国内の平均株価も下がってきています。

ここ数年、日本では輸出関連の大企業を中心に業績を上げてきて、その利益の大半が企業の内部留保や配当に回され、国民(社員や下請け企業)にきちんと還元されてきませんでした。しかもこの間、企業はコストダウンを旗印に正社員をパートや契約社員、派遣社員などの非正規雇用の社員に入れ替えて人件費を減らしてきました。

今や労働者の3人に1人は非正規雇用です。総務省の労働力調査によると、1997年時点で雇用者に占める非正規雇用の割合は23.2%でしたが、2007年には33.3%(7~9月の平均)にもなっているのです。非正規雇用の割合は10年間で実に10ポイント以上も上昇したのでした。要するに、企業が人件費を抑えた結果、消費に回せる従業員のお金が減って、景気の足を引っ張っているのです。

別の角度から言えば、金融機関にとって特に金額の大きな住宅ローンの対象者は正社員であることが原則になっていますから、非正規社員ですと住宅も買えないのです。住宅需要と景気とは密接につながっていますので、非正規社員が増えれば住宅需要が減って、やはり景気浮揚にはつながりません。

非正規雇用の所得を向上させる政策を

一つは非正規社員でも30代で最低でも300~400万円の年収を得られるようにすること、もう一つは非正規雇用の人が正社員になりたいと希望すればそれがかなえられるようにすることが政策的に不可欠でしょう。

まず非正規雇用の賃金については、年収が300~400万円になれば夫婦ですと合計600~800万円となり、住宅を取得することも十分可能になると思いますので、政治はそれに向けての取り組みを行っていかなければなりません。

正社員化については、たとえば、去年の参院選で衆参が逆転したことにより同一労働同一賃金という主旨で労働法が改正されました。これは今年4月1日から施行されるのですが、それを先取りする形で昨年から、まず小売りや外食など流通業を中心にパートや契約社員、派遣社員を正社員に切り替えるという企業が増えてきました。製造業でも正社員化の動きが出てきています。

これは法律が改正されたからだけでなく、非正規雇用が増えてきたマイナス面にも企業が目を向けるようになったからでしょう。

企業にとって非正規雇用のプラス面はやはり人件費を圧縮できるということですが、マイナス面は、せっかく仕事を覚えたかと思ったら辞めてしまう、同じ仕事の内容なのに正社員と待遇が違うため職場のチームワークが生まれない、仕事のやり方を改善していこうという意欲が出てこないなどが挙げられます。こうしたマイナス面はどうしても仕事の質を下げてしまいます。つまり、サービス業だと接客態度に、製造業だと製品の歩留まりに反映されしまうのです。

労働法の改正が非正規雇用のマイナス面を補いたいと思っている企業の背中を押したのは間違いありません。

中小企業評価の目利きが必要だ

もう一つ強調しておきたいのが、やる気のある経営者にとって事業を伸ばしやすい環境をつくるのも政治の大きな役割だということです。

私は、なるべく時間を見つけて特徴ある中小企業を訪問しています。先日、40代の女性が経営する従業員60人のメッキ工場を訪ねました。彼女はアメリカに留学して宝飾デザイナーを目指していたのですが、経営がうまくいかなくなった家業のメッキ工場を32歳で引き継ぐことになったのでした。

まず最初に工場を建て直すために都市銀行や市中銀行に融資を仰いだところ、どこも応じてくれなかったそうです。それで途方に暮れていたときに融資してくれたのが政府系の金融機関でした。そのお陰で持ちこたえ、今では特殊なメッキ技術を売り物にして確実に利益を上げることができるようになっています。

この話を聞いて、企業を評価できる目利きが必要だと痛感しました。つまり、有望な中小企業を大きく育てていく機能をどこが担うのかという問題です。産業の将来を予想し、どの技術が有用かを評価をできる力を十分に持っている組織(銀行、政府機関、投資会社など)を育成していくべきでしょう。それが新しい時代の幕開けに備える重要なポイントだと思います。