【国会レポート】東京オリンピック誘致決定と今後の日本の財政について【2013年9号】

日本時間9月8日未明、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれていたIOC(国際オリンピック委員会)総会で2020年夏季オリンピックの東京開催が決まりました。東京でのオリンピックは1964年以来56年ぶりです。私は地元で、特に私と同年代以上の方々との会合では「私たちは幸福な世代です。1964年のオリンピックの感動を、ここにいらっしゃる全員で7年後の2020年にもう一度味わいましょう」と話しています。

東京オリンピック誘致で2020年は日本の1つの節目となります。たとえば道路整備でもそうです。2011年に私は、40年間まったく手付かずだった上尾道路のⅡ期工事(北本~鴻巣)を事業化しました。この区間が完成するまでには環境評価や土地収用などで10年はかかると言われていたものの、2020年という目標ができたので、それまでに完成するように国に働きかけています。完成すると、圏央道が神奈川県藤沢から私たちの地元を通って成田空港までがつながるうえ、2020年までには上尾道路も桶川から北の部分へと伸びて、関東の東西南北の物流が全部整うのです。その結果、首都圏には大きな経済効果がもたらされることになります。企業誘致により雇用を確保することや、利便性の向上による若い世帯の人口増加も期待されます。

対照的な両オリンピックの経済・社会状況

1964年の東京オリンピックはその開催を大義名分に道路や新幹線など全国のインフラ整備が進められたため、日本の高度経済成長期の1つのシンボルとなっています。このときに地元の武蔵水路も首都圏の水確保のために造られました。

高度成長への大きなきっかけは1960年11月に当時の池田政権が閣議決定した「所得倍増計画」です。年率9%成長を公約し、道路・港湾整備、工業用地開発、住宅建設、東海道新幹線建設など数多くの公共投資を行うとともに経済成長を通じた完全雇用の達成や大幅減税の実施も打ち出しました。この政府の姿勢は民間企業も強く刺激し、鉄鋼、石油化学、機械、電機などの各分野で設備投資の動きが非常に活発になっていきました。所得倍増計画の期間は1961年から1970年までの10年間ですが、この間の年平均実質経済成長率は10.5%で、池田政権が公約した9%をも上回る経済成長となりました。

1964年オリンピックの開催が決まった1959年の日本の人口は9264万人、国家予算は1兆5121億円でした。それが1964年には人口は500万人近く増えて9718万人となり、国家予算も2.2倍の3兆3405億円に膨れ上がりました。当時は国債を発行していなかったので、予算の伸びは税収増の結果です。高度成長は税収も増やし税収と予算との好循環も生まれました。

一方、2020年オリンピックの場合、開催が決まった今年2013年の人口は1億2700万人(9月末時点)、国家予算は92兆6115億円です。人口は2005年を境にすでに減少に転じており、2020年には300万人以上も減少して1億2400万人(国立社会保障・人口問題研究所による予測)となります。また、現時点で国債や借入金を合計した国の債務残高は1000兆円に達しています。国家予算はほぼ半分が国債でまかなわれていますので、このままの状態が続けば2020年にはそれが1300兆円を超える恐れがあります。

国民との信頼関係で財政危機の克服を

以上の話について、どう思われたでしょうか。日本の財政状況は1964年と2020年では正反対といえるほど違っているのです。

今年8月、国会が閉会中でもあったので、私はさまざまな専門領域の10人を超える学者の皆さんの話を聞き、意見交換を行いました。その中には著名な3人の経済学者も含まれていたのですが、特に印象深かったのは3人とも日本国の「財政破綻」を懸念していたことです。

ちなみに財務省の2012年の統計では、貿易収支(輸出量と輸入量の差額)は5兆8051億円の赤字でした。貿易収支は、会社でいえば営業利益です。これは2011年から赤字となり、2013年上半期まで赤字幅は拡大しています。要するに我が国は今、儲からない国になってきているのです。また、国家予算の半分近くを新しい借金(新規国債発行)でまかなわなければなりませんから、将来的には外国の皆さんに日本国債を買ってもらわないと国家予算が組めないような状況になる恐れもあります。

以上のようなことから、3人の経済学者とも「財政破綻」を指摘しているのですが、そのうちの1人はこうも付け加えました。「大島さん、財政破綻すると、その影響はとても1年では済まないのですよ。おそらく10年間くらい混乱が続いて国民は塗炭の苦しみを味わうでしょう」

これまで私たちは国家の財政破綻など考えもしませんでした。しかしその恐れがあるとしたら、それを避ける努力を政治がしなければなりません。ただしその場合、国民の皆さんにもご理解をお願いすることがあります。そこではやはり政治家は、国民の皆さんとの間で信頼関係を築くことが不可欠です。

別の言い方をすれば、これからは選択と集中によって限られた国家予算を本当に必要なところだけに投入していくことが求められます。私は、2020年オリンピック誘致が決まったことを機に、できる限り財政規律(国の収入に見合った予算にすること)を守っていかなければならないとさらに強く決意したのでした。