【国会レポート】バーチャルな政治をリアリティのある政治に【2008年6号】

最近の日本の政治は、私的な表現で恐縮ですが、バーチャルな政治になっているのではないかと思います。「仮想の」という意味の「バーチャル」ですので、バーチャルな政治とは「国民の生活実態をとらえていない政治」ということです。バーチャルに対する言葉はリアリティ(現実)ですから、リアリティのある政治とは「国民の生活実態をきちんと踏まえた政治」ということになります。

今回はこれらバーチャルな政治とリアリティのある政治の違いについて述べてみます。

後期高齢者医療制度が代表例

まずバーチャルな政治とは具体的にはどういうものでしょうか。代表例としては今なお物議を醸している後期高齢者医療制度が挙げられます。国民にとって、知らない間に決まっていきなり実施された制度という印象が強いだけでなく、その内容がお年寄りの理解をなかなか得られない制度設計になっているからです。

また、来年からは裁判員制度も始まります。これもバーチャルな政治によって生まれたと言えるでしょう。裁判員に指名されれば基本的に拒否できないというこの制度はけっして国民が求めたものではありません。だから、国民の多くも「裁判員制度なんて、誰がいつ決めたのか」という気持ちを持っているはずです。来年の実施に当たってやはり大きな混乱の発生が懸念されます。

そのほか、いったん法律化されたのに不具合が多くて修正せざるを得ないような法律が増えてきています。なぜそうなるのかと言えば、政治家や官僚が、国民生活の実態を正しくつかまないまま、理念が先行して、言い換えれば、頭でっかちで法律化してしまったからです。

情報を求める営業マンの姿勢で

ところで、私はサラリーマン時代、鉄鋼会社から保険会社の営業マンに転職したのですが、最初の1年間はまったく保険が売れずに苦労しました。それを打破しようと営業のノウハウ本を片っ端から読んでいたとき、アメリカ人が書いた営業心理学の本で次の一節が目にとまりました。

「営業マンは何を売るのか。冷たい肉を売るのではなく、フライパンで焼いたばかりのジュージューと湯気の上がっている美味しそうな熱い肉を売るのである」

要するに、相手が欲しいと思う物を売るのが営業マンであり、裏を返せば、相手が何を欲しがっているかを知るにはこちらから情報を取りに行かなければならないということです。

以後、どんどん顧客のところに出かけて行って、どういうことで困っているのか、どのような要望があるのかを聞くようにしたのですが、それは相手に対して興味を持つことでもあります。だから、相手への興味の結果=一次情報だとも言えるでしょう。実際、そうした活動を続けていくうちにしだいに保険も売れるようになったのです。

最近、私は、あるビジネススクールで5,60人もの意欲ある20代のOLを前にして以上のような話をしたのですが、皆さんにもけっこう好評でした。

リアリティのある政治に重要なのは一次情報

それはともかく、自分から情報を取りに行くべきというのは政治でも同じだと思います。前述したようなリアリティのある政治にするためには、国民の生活実態についての情報をよく知っていなければならないからです。しかも、その情報は自分が直接現場に行って体験して得た一次情報でなくてはなりません。マスコミ情報や伝聞情報のような二次情報では国民の生活実態を正しくつかめないでしょう。

バーチャルな政治では、情報があったとしても自分で確かめた一次情報がきわめて少なく伝聞の二次情報に頼っているのではないでしょうか。その結果、理念先行の政策となり、その政策は国民の生活実態を正しくつかんだものではないため、必然的に混乱を引き起してしまうのです。

ですから、日本の政治がバーチャルな政治に陥ったのは、政治家や官僚が自ら一次情報を取りにいく努力を怠るようになってしまったからではないでしょうか。企業では当たり前のマーケティング(市場調査)が国ではできていないので政策(=販売計画)が当たらないのです。

政党補助金のプラス面とマイナス面

ではなぜ最近、一次情報をつかむ努力をしない政治家が増えたのでしょうか。一つには、政党助成金という制度ができたからではないかと思います。政治家のお金にまつわる汚職事件が多発したためできた制度ですが、政党助成金のお陰で我が党も経費の大部分をまかなえるようになりましたし、個々の国会議員も多額のお金を集めるための努力をする必要はなくなりました。この点でまさに政党助成金の効用は大きいわけです。

しかし、政治家が政治資金を集める際には多様な人物や団体と接触するわけですから、そこにはやはり一次情報(それぞれの利害得失)も多く伴ってきます。誤解を恐れずに言えば、政治資金を集める過程で情報が多く集まってくるというプラス面も確かにありました。

もちろん私は、政党助成金をなくして元に戻せと言っているわけではありません。政治家がお金を集めることによって出資者との間にはどうしてもギブ・アンド・テイクの関係ができてしまいます。それが汚職につながる可能性も否定できません。

つまり、私が言いたいのは、これからの政治家は、一次情報が入ってきにくくなったというマイナス面を意識的に補っていく努力をしないと、理念ばかりが先行するバーチャルな政治に陥ってしまうのではないかということです。

そのことを私は自らの戒めとしており、この夏の国会閉会中は、介護、医療、教育、企業経営、NPOなどの現場に赴き、あらゆる階層の人たちの意見を聞きに行くという取り組みを行っています。また、筑波には日本の最先端技術の研究をしている産業技術基盤研究所という施設があるのですが、先日、そこに出向き、日本の最先端の技術開発の話を聞いたりもしています。

そのような一次情報を取る努力を通して政治家自身が現場のリアリティを感じることで、リアリティのある政治を実現していかなくてはならないと思っています。