【国会レポート】首相選びが問われる政治安定感の出てきた民主党【2008年8号】

周知のように福田康夫首相は9月1日午後9時半から首相官邸で緊急記者会見を行って突然辞任を表明しました。昨年9月12日、当時の安倍晋三首相が辞任表明したのに続いて1年足らずの間に二人の首相が立て続けに政権を投げ出すという事態になったのです。しかも福田首相は1ヶ月ほど前に内閣を改造して新しい陣容を整え、臨時国会も9月12日から70日間の予定で実施されることが決まった直後ですから、「どうしたのか」と正直驚きました。

事業部長を経験しないと社長はできない

自民党離党後に民主党に参加した鹿野道彦氏からかつて、「他党も含めた政治家同士、外国の指導者、マスコミ、財界、労働組合や医師会などの各種団体の人たちとの信頼関係がすべてできたうえで、ようやく日本の首相が務まる」と聞いたことがあります。

このことは会社にたとえれば、事業部長を経験し、不況を乗り越えリスクマネジメントを身につけるということに共通するのではないでしょうか。通常、社長になるような人材はその前に事業部長をいくつか経験しているものです。事業部長として現場の第一線を指揮しつつ、業績を伸ばすために汗を流し、競合他社と戦い、人材を育てるなどさまざまな経験を積みます。

事業部長の経験が社長になったときには必ず役に立つという判断があるからこそ、企業では事業部長経験者を社長にしているのです。逆に言えば、社長室長(官房長官)からいきなり社長(首相)になってしまうと、状況に応じ現場に立脚した経営判断(政治判断)がなかなかできないのではないでしょうか。

リーダーを選べなくなった政治

総選挙が中選挙区だった時代には、一選挙区から複数の人が当選しました。そのため、同じ党から何人も候補者が出馬して同じ選挙区で争ったのです。しかし、中選挙区が、一つの選挙区から一人しか当選しない小選挙区に変わると、大きな変化が起こりました。

小選挙区では党が公認した候補者しか立候補できません。選挙では政党同士が争う形になるため、何より党の顔(党首)には選挙で勝てる人物を求めようとする議員心理が働くことは否定できません。

しかも、政権党なら党首が首相になりますから、首相についてもその地位にふさわしい経験や見識を持った人物よりも、テレビの影響が大きいので、テレビ受けする人物を選ぼうとする傾向があると専門家から聞いています。

議員自身が当選するための理屈が優先しすぎてしまっているのは残念なことです。私としては、国民の人気も大切ですが、経験と見識において我が国の首相として最もふさわしい人を首相候補に選んでいきたいと思います。

民主党の新しい意思決定システム

先日、党内で勉強会があり、その後の懇親会の席上、菅直人代表代行がこうつぶやきました。「我が党も良い政党になったよなぁ」。私も民主党には安定感が出てきていると思います。

私が1期目の当選を果たしたとき、これまでとは異なり、政治家の人間関係にお金が伴わない(派閥特有の親分子分の関係がなく議員同士がフラットな)ことで、民主党は新しい時代の意思決定システムを構築する実験をしていると考えていました。

つまり、これまでの与党の意思決定システムは各政策ごとに族議員と呼ばれる政治家がいて、彼らの意向を無視しては党の意思決定ができなかったのです。族議員になるには当選回数と役所との深い関係を築くことが必要でした。

一方、民主党の場合、当選回数に関係なく平等な立場で議論し、それが理にかなっていれば党の政策として取り上げようという気風があって、私も1期目から自分の考えが政策として多く取り上げられました。今、そのことは民主党の風土として定着してきたと考えています。

民主党はバラバラだとよく言われますが、それは議論が透明だからこそにほかなりません。実際には、郵政民営化問題も公務員制度改革問題も防衛庁の省昇格問題も党内ではいろいろな議論がありましたが、最終的には党一丸となって本会議での投票行動に臨むことができました。

私たちは時代にいち早く適合した意思決定システムを構築しつつあると思いますし、意外に時代の先頭を走っているのかもしれません。数年前、自由党と一緒になりましたが、今ではもはや誰が自由党だったか意識していません。新しい時代の政治を担っていく基礎ができたとも言えるでしょう。

ですから、たとえ自民党や社民党から民主党に入ってきたとしても、違和感なくすぐにその意思決定システムに参加できて、国民に選ばれた議員としての意思を通すことが可能でしょう。

なお最後に政治の責務についてふれておきたいと思います。

最近の農林水産省の失態に見られるように役所の杜撰な仕事ぶりは目を覆うばかりですが、これは政治の責任でもあります。

私がサラリーマンだったとき、どんな良い上司でも出張して不在のときには重しが取れたようで気が楽でした。皆さんも、そうではないでしょうか。

役所の失態も同様です。つまり、上司がずっと出張中なのと同じように、役所は政治という重しが取れた状態で仕事をしているのです。

私たち政治家は、個々の政策課題をきちんと設定をした上で役所がしっかりと仕事に取り組むように具体的にチェックしていく責務があります。私は国民の生活をしっかりと守るためにその責務を今後も果たしていきます。