【国会レポート】政権交代は会社なら経営陣の一新である【2008年9号】

次の衆議院総選挙は政権交代が大きな焦点になっていますので、今回は政権交代の意味について考えてみることにします。

現在、衆議院の選挙制度は小選挙区(定数300名)と比例代表選挙区(同180名)による定数480名の小選挙区比例代表並立制です。全体の定数に占める小選挙区の割合は62.5%なのですが、それでも比較的少ない票の動きによって全体の議席配分が劇的に変わるという小選挙区制の特性を十分に備えています。

それを2005年の郵政解散総選挙で見てみましょう。このときは民主党の113議席に対し、自民党はその約2.6倍の296議席を得ました。

具体的には、比例区では自民党は民主党の1.23倍の得票で議席はそれよりやや多い1.26倍程度でした(自民党77・民主党61)。それに対して、小選挙区では自民党は民主党の1.32倍程度にすぎなかったにもかかわらず、議席数は自民党が219を得て民主党の52の4倍以上となったのでした。つまり、得票が3割強多いだけで議席は4倍以上の差になったわけです。

総選挙で政権交代の可能性が高まってきた

政権は衆議院定数の過半数(241議席)を得た政党が担うのですが、小選挙区で民主党が自民党よりも多く得票すれば全体で野党が過半数に達する可能性も非常に高くなります。

私は衆議院に初当選して以来、8年になります。その間に経験した3回の総選挙では現実味がなかったため、政権交代を強調したことはありませんでした。ところが、昨年の参院選で野党が半分の議席を占めたことによって(与党よりも野党の得票が多かったことによって)、政権交代が現実味を帯びてきました。次の総選挙でも参院選同様、野党の得票が多ければ、政権交代が実現するかもしれないのです。

では、政権交代とはどういうことでしょうか。

私は8年前は政権交代というのは革命的なものかなと思っていたのですが、3回の総選挙を経て、企業経営にたとえると経営陣の一新のようなものだと考えるようになりました。

今や我が国には資本主義か社会主義かといったイデオロギー的な路線対立はなくなっています。自由主義、民主主義、資本主義という点では民主党も自民党も向かっている方向に大きな違いはありません。

人材の面では8年前なら民主党も政権を担うには政治的な経験の面で全体的に不足していたのは否めませんでしたが、現在は新陳代謝が行われ老壮青のバランスも良くなりました。政府の問題をしっかりと追求する人もいれば、裏方として汗をかく人もいます。政権を担うのは初めてなので当初は苦労しても、それをチームワークで克服できる人材は育っていると思います。

会社ですと経営について経営陣の失敗が多いとき、株主によって役員の総入れ替えが行われ、経営陣が一新されます。経営陣が一新されると、同じ社員であっても新鮮な気持ちで働くようになります。同じように、失敗続きの政権政党を国民が替えることによって政権交代が起こり、それが政府で働く官僚たちにも良い刺激を与えてしっかりと働くようになると思うのです。

しぶとい官僚組織に良い刺激を与える

私も衆議院議員として8年間官僚組織と付き合ってみて、なかなかしぶとい組織であると感じます。官僚は大学を出てから定年後まで官僚組織が面倒を見てくれるのですが、そんな官僚にとっては、政治家は一見の客なのでしょう。この政治家は3年(衆議院は平均3年で解散)しかいないのか、6年なのか、ひょっとしたら15年やって大臣になるかもしれないが、自分たちはずっと官僚組織で働いている。官僚組織は、自分たちこそが日本の骨格であるというプライドと自負と自信を持っている集団ではないでしょうか。

官僚も公に尽くそうという志を持って仕事をしている人がほとんどですが、今は官僚組織が組織防衛に走りすぎて、弊害のほうが目立ってきていると思うのです。

だからこそ、経営陣の一新である政権交代の意義も大きいわけで、社長たる総理大臣以下、大臣、副大臣、政務官など100人くらいを総入れ替えすれば、官僚組織にも刺激になり、官僚たちも新鮮な気持ちで仕事に取り組むようになるでしょう。政権交代して、政権に入っている政治家が官僚組織に対して相当尖った意見を突きつけても、それは強固な官僚組織全体としてはちょうど良い刺激と思います。

国民生活を知る戸別訪問3万軒、辻説法5万回

一方、政治家のほうも国民の生活実態をよく理解して政治を行うことが不可欠です。

選挙の神様と言われた田中角栄氏は、立候補したい人が相談に来ると決まって「戸別訪問3万軒、辻説法5万回をしてから、もう一度来い」と言ったそうです。これは当選するための基本的な政治活動なのですが、同時に、地元を隈なく歩いて有権者と接するのですから国民の生活実態を知るための重要な活動でもあるのです。戸別訪問を3万軒もやれば、あらゆる人たちの家庭を訪ねます。商店、農家、サラリーマン、母子家庭、体の不自由な人たち、老夫婦・・・・・・そういう人たちと接することによって頭でっかちに陥らずに現実を見据えた政治ができるのです。

この経験は、法案や政策を考えるときに非常に役に立ちます。どのような人のための法律や政策なのかが具体的にイメージできるからです。このイマジネーションこそが政治の一番大切な部分ですし、官僚にはけっしてできないことでもあります。言い換えれば、官僚には特定の誰かの顔を思い浮かべながら法案をつくることはできませんが、イマジネーションのある政治家なら、具体的な自分の地元の人たちの顔を思い浮かべながら法案を書いたり審議したりできるのです。

権力をつくる過程と消費する過程の違い

最後に、政治には権力をつくる過程と権力を消費する過程があると思います。我が党はまだ政権に就いていませんから、今は権力をつくる(議員を増やし政権を取る)過程にあります。政権を担うと、今度は権力を消費することになりますが、これは政策を実行するということです。

ところが、今の与党は政策の実行を恐れ、政権を維持するほうに注力しているように見えます。そのことが国民にも見えてきているのです。権力を消費する過程では、竹下政権での消費税導入のように、たとえ国民が喜ばない政策でも実行しなければならないときがあります。政権を担うとは権力の消費を恐れないということでもあるのです。

(10月14日)