【国会レポート】金融バブルが弾けた今こそ実体経済の立て直しを【2008年10号】

目下、世界的な金融不安が起こっています。なぜこんな事態になったのでしょうか。

きっかけは、米国の金融機関が低所得者向けに行った高額の住宅融資でした。これがサブプライムローンで、最終的には100兆円をはるかに超える損害が出ると言われています。

加えて、それ以上に巨大な打撃を与えたのが、2000年以降に急激に伸びて現在約5460円(1ドル=100円)の市場規模にまで拡大したCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という一種の保険商品の破綻でした。

この商品の仕組みは、ある金融機関が企業などにお金を貸し付ける場合、別の金融機関から保険商品(CDS)を買っておけば(価格は貸付金の1割)、企業の返済が滞っても貸付金は全額補償されるというものです。

もう少し具体的に言うと、A金融機関がB社に1億円を貸し付ける際にC金融機関から1000万円で保険商品を買っておくと、B社が返済できなくなっても、C金融機関がA金融機関に1億円を支払ってくれるのです。

ところが、そこには大きな落とし穴がありました。一般の保険では、自分の保険は他人にはまったく影響が及びません。自分の事故と他人の事故の間には相関関係はなく、たとえ自分の車が衝突したからといって、他人のリスクが高まるわけではないのです。

しかし、この保険商品はそうではありませんでした。金融は相互に関連しているので1社の返済が滞ると他にも影響が及びます。特に今回は、不動産不況のために借入金を返済できない企業が続出したため、この保険商品の補償能力を大きく超えてしまい、連鎖的なパニックが起きたのでした。個別の金融機関ではとても対応しきれず、世界の金融市場が大混乱に陥っています。

金融業を肥大化させていった米国

私はこの夏、昔、係長時代に読んだ『Made in Americaアメリカ再生のための米日欧産業比較』という本を改めて読み返してみました。19年前の1989年に出版されたこの本は、MIT(マサチューセッツ工科大学)産業生産性調査委員会が「米国の製造業には、時代遅れの戦略、人的資源の浪費、企業間協調の欠如、製品開発力の弱さ、エンジニアリングのなさ、生産技術の弱さ、産業と政府間の足並みの乱れ、短期的な視野と発想という問題がある」と指摘したものです。

処方箋はまさにこれらの指摘の裏返しなのですが、その後、米国はどんな道を歩んだかというと、金融業界で銀行業と証券業の垣根が取り払われるなど規制緩和を大幅に進めました。各種の金融商品も次々に開発され、それらは米国だけでなく世界へとばらまかれていったのですが、この金融業の肥大化によって米国には豊かさがもたらされました。

日本も90年代後半の橋本政権時代に金融を自由化したのですが、このとき、私自身は、米国流の強かな金融ビジネスは日本には馴染まないと考えていたので、大いに危惧したのを覚えています。

従業員や関連会社への利益還元も大切だった

米国の金融業がますます大きくなっていく中、現在のブッシュ政権では、自由な経済活動を通じて金持ちになった人が貧しい人を引き上げるという新自由主義の考え方が主流になりました。そして、日本の小泉政権もブッシュ政権にならって新自由主義の路線を歩んだのです。

その結果、どうなったでしょうか。実際には、金持ちが貧しい人を引き上げるのではなく、中間層が減って高額所得者と低所得者に分かれていきました。日本では上場企業に一時は約80兆円に上る余裕資金がたまったと推計されました。それは従業員の給与にも、同様に関連会社にも回りませんでした。

私は、今後日本の人口が減っていくので、上場企業の利益は株主配当に充当することも大切ですが、従業員の給与を上げたり関連会社に回していったほうが税収増につながり、結局、政府の膨大な借金の返済にも寄与すると考えていました。

そこで、私はこれまで従業員の給与を上げていくための労働法制の整備に力を入れてきたのですが、なかなか与党側はそれを理解してくれず、整備が進みませんでした。昨年の参院選以降、参議院で野党の力が強くなったお陰でやっと労働法制の見直しが行われているものの、かなり遅くなってしまったのも確かです。もし企業の利益アップに応じて従業員の給与が上がっていたならば、サラリーマンの貯蓄も増え、今日の不況もかなり緩和されていたことでしょう。

また、ここ数年、地元の中小企業経営者にお会いすると、「以前なら、親会社は下請代金の中に人件費も入れてくれた。ところが、今では人件費を出してくれずに価格競争だけだから、経営が苦しい。自分に賞与を払う余裕などない」と言われることも増えてきました。とすれば、今日の不況は、従業員や関連会社に利益をきちんと分配するように政策誘導しなかった政治の結果責任も大きいと思います。

処方箋に従わなかった米国の製造業

さて、現在の米国の製造業はどうなっているでしょうか。結局、『Made in America』に示された処方箋に従うことなく、20年近くが経ってしまいました。つまり、米国の製造業は『Made in America』が出版された当時(1989年)の状況とほとんど変わっていないということです。今、大手自動車メーカーのGMやフォードの経営が行き詰まってきているのは、皆さんも御存知でしょうが、それは対応を怠ってきた報いと言わざるを得ません。

米国でも金融業のバブルが崩壊した今、もっと実体経済の成長を促していく必要があると思うのですが、もちろん、このことは日本にも当てはまります。私はこれを機会に日本の産業構造を大きく転換し、数年後には世界の先頭に立てるようにしたいと考えています。

今回の世界的な金融不安の中、日本の大手金融機関が米国の証券会社や投資銀行に何千億円も投資するという動きが起こっています。しかし日本の大手金融機関には不良債権で苦しんでいたときに公的資金(税金)が投入されました。それ以来、金融システムを再生し、不良債権処理を進めるために、税制上の措置(繰越欠損期間延長等)が取られています。その結果、法人税を納める必要のない大手金融機関があることも確かです。

もし海外に巨額の投資をする余裕があるのなら、資金繰りに困っている日本の企業に融資することが経営の責務ではないでしょうか。また、今後は、そのような環境が整うよう金融庁への指導も必要です。

企業は社会の公器としての役割も担っています。そのことを意識している経営者の方を、積極的に評価する時代になったと考えます。

(11月11日)