【国会レポート】地域で応援するプロ野球「独立リーグ」の時代が来た【2008年11号】

重苦しい事件が続くなか、久々に明るいニュースが飛び込んできました。神奈川県の16歳の女子高生、吉田えりさんが関西独立リーグのプロ野球チームに指名されたことです。吉田さんは右横手投げの投手で、ボールに回転がなく打者の手元で大きく変化するナックルという球種を高く評価されての指名でした。入団すれば、1934年に大日本東京野球倶楽部(現・巨人)が発足して以来、男子選手とプレーする日本初の女性プロ野球選手ということになります。

先行する2つの独立リーグがある

えっ、関西独立リーグなんていうプロ野球があったのか、と驚かれた人も多いと思います。ここはセ・パ両リーグを持つNPB(日本プロ野球機構)とは別の「独立リーグ」に分類される組織ですが、プロ野球には変わりありません。日本の独立リーグにはすでに四国・九州アイランドリーグとBCL(ベースボール・チャレンジ・リーグ)とがあって、来春から新しくスタートするのが関西独立リーグです。

四国・九州アイランドリーグは2005年に発足した四国4球団による四国アイランドリーグが前身で、2008年に長崎と福岡の球団が参加して6球団となり、現在のリーグ名に変わりました。BCLは、2007年に新潟、富山、石川、長野各県の4球団で北信越BCLとしてスタート、2008年に福井と群馬のチームを加えてリーグ名から北信越を外しました。関西独立リーグは大阪府、神戸市、明石市、和歌山市に本拠を置く4球団でスタートしますが、吉田さんを指名したのは神戸市の「神戸9クルーズ」です。

NPBとは違うビジネスモデル

主に大企業が大株主となっているNPBの球団と違い、独立リーグはJリーグのように地域密着型で、傘下の球団は地域の企業から協賛金を募るほか、チケット販売、球場での飲食やグッズの販売を収入源としています。先行している両リーグも球団経営は楽ではありませんが、それでも存続し拡大してきて、さらに関西独立リーグの発足につながっているというのはやはり地域による支援のお陰でしょう。逆にいえば、地域の支えがあればどうにか経営が成り立つわけで、これは大企業中心のNPBとはまったく異なるビジネスモデルに可能性が見出せるようになったともいえるでしょう。

野球大国のアメリカではどうかというと、大リーグは30球団ですが、傘下のマイナー球団を含めて合計で約300球団にもなります。ほかに7つほどある独立リーグにはそれぞれ610の球団がありますから、両方合わせて350前後の球団が存在しているのです。とすれば、日本の人口がアメリカの半分以下だとしても、まだ日本にはプロ野球が足りないと考えることができます。

野球人気はけっして衰えていない

ただし、日本では野球人気が落ちてきたと思っている人もいるかもしれません。確かに以前ならテレビ局の最強コンテンツだった巨人戦でさえ、もはや視聴率10%を超えるのが困難になり、地上波による巨人戦の放送自体激減しました。しかし、それはNPBのビジネスモデルが時代に合わなくなってきただけであって、野球人気が衰えてきたのではありません。

高校野球には毎回4000校以上が参加し甲子園の本戦には大きな注目が集まります。2006年3月に行われた大リーグ選手参加の国際大会WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も日本国内で大いに盛り上がりました。最近、来年のWBCに出る日本チームの監督選びで球界、ファン含めて大騒ぎになったというのも周知の通りです。日本の有力選手が毎年移籍している大リーグ人気も年ごとに高まってきて、今年はNPBのドラフトを回避し直接大リーグ球団と交渉をするような選手(新日本石油ENEOSの田沢純一投手)も出てきています。

人気が衰えたのではなく野球のグローバル化によって日本人の野球の見方が変わってきたと考えたほうがいいのではないでしょうか。また、グローバル化は同時にローカル化を伴うというのは野球も例外ではなく、一方で地域密着型のローカルな野球にもファンの目が向くようになってきたということです。それが独立リーグの発足にもつながっているのだと思います。

選手に野球の場を提供する独立リーグ

では、独立リーグが増えて選手は足りるのでしょうか。これこそまったく心配ありません。3つの独立リーグとも選手はすぐに集まりました。むしろ日本は野球を続けたい人にとっては非常に厳しいところなのです。高校球児は全体で約14万人という推計があり、1学年当たりでは4万6000人以上という計算になります。

一方、NPBのプロ野球にはドラフトなどで高校生、大学生、社会人を合わせて毎年80人前後の新人が入団するのですが、1球団で抱えられる選手は2軍も含め70人と定められています。入れた人数だけ辞めさせなくてはいけません。そのうえ、社会人野球のほうは昨今の不況で球団を廃止するところが増えてきています。

要するに、野球を続けたい人の数と野球ができる枠の数というのが日本では極端に違いすぎるのです。先行する2つの独立リーグの野球選手の年俸は200万円程度で、しかもオフシーズンの11~1月は給料が出ないため、選手のほとんどはその期間アルバイトをして食いつないでいるのですが、それでも選手になりたい人が殺到しています。

独立リーグからNPBのドラフトで指名される人も毎年何人かいて、そのように上を狙って独立リーグに入る選手もいるのですが、もう一つは、野球を辞める踏ん切りがつかず、とことん野球をやってそれでダメなら納得できるのではないかという人が独立リーグに入るのです。現状では、野球をやりたいのに枠がなくて泣く泣く野球を諦める人があまりにも多いですから、野球の場を提供するという意味でも独立リーグが増えることは喜ばしいと思います。

関東にも地域密着のプロ野球を

選手の人材に困らないなら、今後、首都圏リーグや北関東リーグといった独立リーグが発足してもおかしくありません。施設面ではすでに各地に立派な球場がいくつもありますし、交通網も整っています。もし首都圏に独立リーグがあったら、吉田さんも自宅に近いので首都圏の球団を選んだかもしれません。

地元の多くの企業に協賛金を募って、地元の人たちで地域のプロ野球チームを支えていけば地域も活性化していくでしょう。大リーグの試合をテレビで見て地元のプロ野球チームを応援しに球場に行く、グローバルとローカルが共存する、そんな時代がやってきているのです。