【国会レポート】縮小する経済のなかで助け合いが求められる【2008年12号】

世界的な金融不安のあおりで消費が大きく落ち込んでいます。そこで、少なくとも向こう3年間は世界の経済が縮小し、仕事量も減っていくと想定すれば、二つのことを考えなければいけません。

一つは、社会が騒然としないようにしっかりとした対策をとること。もう一つは、4年~5年後の世界経済の回復期に世界の先頭を走れるように、電気自動車や太陽光発電などで産業構造を転換し、技術革新を推し進めることです。

現在は日本でも製造業を中心に大規模なリストラが始まっています。しかも特徴的なのは、まず派遣社員、契約社員、期間工などの非正規社員が対象になっていることです。

また、派遣社員の多くは契約の期限切れを2009年中に迎えるのですが、これは「2009年問題」とも呼ばれています。厚生労働省の調べでは、その大半が更新されず、2009年3月までに派遣社員の失業者は少なくとも3万人にも上るそうです。ただしこの数字も氷山の一角であって、実際の失業者は数十万人規模にも達するのではないかと懸念されています。

寒空に放り出される状況を許してはならない

豊かさとは少なくとも、好不況に関係なく住む家が確保できて将来に大きな不安を持たずに生活できるということではないでしょうか。

私は大手企業に勤務していた時代、仕事が終わった後に、同僚と酒を飲みながら会社の愚痴をこぼすことも少なくはありませんでした。ところが、保険会社に転職し、営業マンになってから生活は一変したのです。

転職して1年間、私はほとんど保険が売れなくて、採用した営業所長から「迷惑だから、会社を辞めろ」と言われたりもしました。晩秋から初冬にかけての北関東の夕暮れ、保険が売れないまま一人車を走らせていたときの不安感は今でもけっして忘れません。あのとき、毎日アフターファイブに同僚と酒を飲みながら過ごせた生活がいかにサラリーマンにとって良い状態だったかを知ったのでした。

私の場合、最低限の給料はもらい解雇もされなかったのでまだ恵まれていたのですが、今のように年の瀬にいきなり解雇されしまった人の気持ちを考えると、胸が痛まずにはいられません。

かつてある企業の幹部と話したとき、彼は「大島さん、今は大企業に勤めているのがステータスではありません。正社員がステータスの時代なのです」と言われました。正社員がステータスだとすれば、いつ首を切られるかわからない派遣社員の不安定さが社会に浸透しているということです。

最も嫌な仕事は経営者が自ら行うべき

解雇する側はどうでしょうか。今、大手企業では当たり前のように非正規社員を解雇していますが、実際に人員整理の仕事を担当するのは30~40代の係長や課長クラスです。私が鉄鋼会社にいたときにも鉄鋼不況の際、係長や課長が悩みながらも一緒に働いていた人たちに退職を迫っていました。

解雇するというのは最も嫌な仕事の一つでしょう。とすれば、そんな仕事は最も給料を多くもらっている人、すなわち経営者が引き受けるべきではないでしょうか。経営者自らが社員の首を切るなら、いかにそれが非情で大変な仕事かを実感できますし、解雇にももっと慎重になると思うのです。

しかし、そのつらい仕事を避けるために、今では、派遣会社を間に入れたり、契約社員で採用し一定期間が過ぎれば雇用を打ち切れるようにしています。つまり、会社が直接、雇用に向き合うということが少なくなっており、大手企業が雇用に鈍感になるという事態を招いてしまいました。

政府としても大手企業の意向を受け入れて非正規労働の枠を増やしてしまったわけです。今後、派遣会社に経営体力がなければ派遣の受入企業にも一定の責任を負ってもらうような法整備を検討したり、「常用雇用の代替となってはならない」とする派遣法の原点に戻したりする必要があります。

また、これからは正社員も解雇される恐れが出てきます。今の日本の大企業の多くはまだ赤字でもないのに安易にリストラに走っているように見えます。労働を固定費ではなく変動費としてとらえ、会社が潰れそうにもないのに雇用に手をつけるというのはやはり経営者として責任を果たそうとしてないと言わざるを得ません。

城山三郎が小説で描いたような志ある経営者が少なくなってしまいました。これは創業型の経営者がいなくなったからでしょう。創業型の経営者は自分が苦労してきたので、従業員や中小零細企業をとことん追い詰めるようなことはしません。今では経営者はサラリーマン出身がほとんどですが、社長になれたのは同僚や後輩が支えてくれ、自分だけの実力で社長に上り詰めたのではないということに気づいていないのではないでしょうか。

国としての一体感を形成していく

こうした状況において社会が騒然としないように政治はすぐにできることから手をつけるべきでしょう。

最大の雇用対策は景気浮揚ですので、たとえば、学校の耐震工事や公共施設のバリアフリー化など、やらなければならない公共投資を前倒しして行うことが挙げられます。また、脱炭素社会を目指して学校に太陽光発電設備を設置することなども考えられます。これなら地元の建設業者や関連業者に仕事が回って地域の活性化にもつながっていきます。

さらに強調する点として、私は、不況のなかで何よりも日本という国としての一体感を形成していくことが重要と思います。大企業の正社員の方や公務員の方にも、非正規社員や中小企業に勤めている社員の状況を今までに増して自分の事として配慮し合う精神が求められていると思います。

そのうえで、仕事を分かち合う、つまり、ワークシェアリングが考えられますが、これは以前提唱されたものの、景気回復によって立ち消えになってしまいました。今回の景気後退は前回よりも相当深くなる恐れがありますので、ワークシェアリングを導入し、全体で支え合う必要があると考えます。

経済が縮小するなかにあって自分だけ得しようという考え方ではなく、お互いに助け合い、譲るところは譲って雇用が守られる安定した社会をつくっていかなければなりません。そうでないと失業や犯罪が増えて社会的なコストがかさみ、むしろ税負担も重くなっていくでしょう。

政治としてワークシェアリングを推し進めるとともに、雇用を守れるような法整備を今後も進めていきます。