【国会レポート】危機を活かす国家戦略を立てる時【2009年1号】

アメリカ発の未曾有の金融危機によって世界中に景気後退の波が押し寄せています。日本も、派遣社員など多くの非正規労働者が人員整理の対象になり、雇用危機ともいえる状況になっています。政治としてもこの状況をできるだけ早く脱するための緊急措置を実施するとともに、将来に向かって危機を活かす政策を実行していかなければなりません。

アメリカに経済面で追従した大陸ヨーロッパ

世界同時不況が深刻になってしまったのは世界中がアメリカ流の経済手法を支持してきたからですが、本来、大陸ヨーロッパはアメリカに対して優越感を持っており、アメリカナイズすることに抵抗感を持っていました。

1980年代にアメリカに登場したロナルド・レーガン大統領は、政府による各種の経済規制や社会規制を撤廃し、民間活力による経済成長を志向しました。いわゆるレーガノミクスです。これによってITテクノロジーや金融工学が発達し、加えて各種の軍事テクノロジーも発達していきました。

また、その結果、もう一つの超大国ソ連がアメリカについていけなくなり、1991年にはとうとう崩壊したのでした。以後、政治的にも経済的にもアメリカ一極集中という状況になって、従来はアメリカと一線を画していた大陸ヨーロッパも、アメリカ流の経済手法の影響を受けるようになりました。

私が、大陸ヨーロッパがアメリカからの影響を強く受けていると実感したのは数年前にドイツを訪問したときでした。そこで私が会った40代の政治家の一人は、アメリカのビジネススクールを卒業し、雰囲気もこれまでのドイツ人とは異なっていました。以前のドイツでは考えられないことで驚きました。ドイツの大企業の役員についても、ドイツ国籍以外の方が増えています。昨年のデータではドイツ銀行で75%、ヘンケルで57%、アディダスで50%が外国人の役員です。これもドイツ企業がアメリカ流の経営の影響を受けた結果だと考えられます。

しかし、アメリカ発の経済危機が起こってからは、大陸ヨーロッパの国々の政治家も経済的な面でアメリカ志向が強すぎたことを反省しているのではないでしょうか。その一つの証拠に、フランスのニコラ・サルコジ大統領は、フランス企業の株を政府が買うことによって企業への統制を強くしようという政策をとり始めています。

このようにアメリカ流の経済手法からの揺り戻しが起こってくると思われますが、では、我が国はどのような道を歩むべきでしょうか。

危機の時期だからこそ実行できる政策がある

私は、政治の目的とは、経済効率を高めることや利潤を上げることだけではなく、国民の豊かになりたいという気持ちを大切にしながら、誰もが生きていてよかったなと思えるような環境を社会全体につくることだと考えています。

冒頭で「危機を活かす政策を実行」すべきと述べたのは、それまで抵抗が強くてできなかった政策でも、世界恐慌が起こり得る(起こっている)危機的な状況だからこそ強く実行できると考えるからです。

まず働き方の問題では、皆で仕事を分け合うというワークシェアリングの導入が考えられます。つまり、ここ数年は体感的には2~3割経済の規模が小さくなる恐れがあり、今後、失業した人の再就職も厳しいという経済状況が続くと予想されます。そこで、分け隔てなく働くサラリーマン全体で仕事を譲り合いながら雇用を守ることが求められ、また、ワークシェアリングを導入しなければ雇用がもたなくなると想定しています。その場合、現在の日本人の約2000時間の年間労働を100~200時間減らしていくことが必要となってきます。ただし民間企業の経営者がワークシェアリングを唱えるのであれば、役員給与も率先して妥当な水準まで下げることが望まれます。

新しい技術は社会を大きく変える

もう一つはエネルギーについての技術開発です。日本にはもともと太陽光発電や電気自動車の優れた技術があるのですが、石油価格が安定していた時期にはそのような技術に投資するという意欲が国にも企業にも足りませんでした。それが、昨年の洞爺湖サミット直後に原油価格が高騰したことで、太陽光発電や電気自動車の実用化への意欲が世界中で高まっています。

フジテレビ系ドラマ「東京ラブストーリー」(主演:鈴木保奈美、織田裕二)をご存じの方も多いと思いますが、放映された1991年当時は携帯電話がなく、ドラマでも通信手段はもっぱら固定電話か公衆電話でした。当時、10年も経たないうちに携帯電話社会が到来するなんて誰にも想像できないことでした。逆にいうと、先端的な技術が実用化されればあっという間に世の中が変わります。

太陽光発電にも電気自動車にもその要素は十分にあります。私は昨年夏以降、今回の不況を乗り越えることを考え、政府や電力会社、ガス会社、自動車メーカーなどの研究所に赴いて先端技術について意見交換を行い続けました。太陽光発電では、シリコンのパネル部分は理論的には劣化せずに半永久的に発電し続けるので、屋根材と一体化させて30~50年寿命がもつ製品も実現できるでしょう。また、電気自動車は、大人4人を乗せた軽自動車を私が実際に運転してみたのですが、アクセルを踏み込んだ際の加速は抜群で時代の革新を実感しました。今やどちらの技術も十分に実用化が射程距離に入っています。

技術開発国債の発行も視野に入れるべき

このようなエネルギー関連の技術開発をさらに促進するためには、これから国と民間とがしっかりと手をつなぎながら投資をしてもいいのではないでしょうか。もし研究開発の資金が足りなければ、技術開発国債のようなものを発行するという方法もあるでしょう。

実は、我が国は1年間に原油を約12兆円分、天然ガスや石炭も含めると約20兆円分のエネルギーを海外から購入しています。太陽光発電や電気自動車などエネルギー関連の技術の実用化によって海外から購入するエネルギー代金が半分になれば約10兆円も節約できるのです。つまり、日本のGDP(国内総生産)は約550兆円ですから、そのほぼ2%分を技術によって生み出すことになります。

つまり、輸出に過度に依存しなくても、豊かさを享受できる国を志向する時代になりました。これから3年の政策のあり方次第では豊かさを享受しながら残業がなく有給を完全に消化できるようになるでしょうし、家族で過ごす時間も十分に増やせる国づくりも可能であると考えます。