【国会レポート】高速道路の無料化実現は政治家の英断にかかっている【2009年4号】

自動車は英語ではautomobileですが、このautoには「独立して」あるいは「自立して」という意味があります。すなわち、automobileとは「レールがなくても独立して自由に動き回れる」ということなのです。

ところが、これまで我が国では車による自由な移動を、高い通行料金の高速道路が妨げていました。もし高速道路が無料化されれば、大きな移動の自由が生まれ、行動様式や生活スタイルも大きく変わっていくに違いありません。

またその場合、より燃費のかからない車が選ばれるようになるでしょう。ガソリンエンジンの普通車の燃費は1キロ走行当たり6~7円です。それがハイブリット車ですと3.5円、さらに電気自動車ではわずか1円になります。1円なら1000キロ走ってもたった1000円で済みます。車のランニングコストがほとんどかからないのです。とすれば、私たちの移動に対する感覚は一変します。今こそ、このブレークスルー(現状突破)を実現する時期です。

出張も移動時間だけを考えればいい

私はサラリーマン時代、ドイツのデュッセルドルフに3年半駐在したのですが、そのときに車を使ってドイツ国内や近隣諸国に出張することがよくありました。車ですとデュッセルドルフからミュンヘンまで6時間、ベルギーやオランダまで3~5時間、オーストリアへは10時間かかったのですが、ドイツの高速道路(アウトバーン)は無料でしたから、アウトバーンを利用すれば所用時間以外に何も考えないで気楽に出張に行けたのでした。我が国では、コストと時間的なロスを考えながら高速道路を利用すべきかどうか、つねに悩まなくてはならない状況に置かれています。

1930年代に建設されたドイツのアウトバーンは戦後も無料でしたので、移動コストをかけなくて済み、ドイツの経済発展に大きく寄与しました。また、アメリカでも1950年代に無料の高速道路(インターステートハイウェイ)が全国に張り巡らされました。それによって国の隅々まで行き来できるようになったのです。ドイツもアメリカも経済大国であるのはもちろん、地方都市に活力がある点も無料の高速道路と無縁ではないと思います。

(なお、アウトバーンは現在、重い車は道路を傷めるため12トン以上の大型トラックは1キロ当たり16~21円の有料となっています。たとえば40トントラックですと乗用車に比べて6万倍道路を痛めるとされています。)

約35兆円にも上る高速道路建設の債務

我が国の高速道路はどうでしょうか。戦後、借入金によって建設され、その債務を通行料金によって返済するという有料道路方式で整備されてきました。有料道路は全国で1万279キロ(2007年10月1日現在)あり、一部の一般国道や地方道を除いてその大半が高速道路です。

高速道路を保有するのは独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構で、ここが債務も返済しているのですが、同機構には345084億円の有利子債務があり(2007年度末)、民営化から45年間で償還することになっています。高速道路の建設・管理・料金徴収等は旧道路関係4公団の6つの株式会社が行っています。6社の料金収入は2兆4678億円(2007年度)で、そのうち1兆8806億円(同年度)を貸付料として機構に支払っています。

私たちは3月に「高速道路政策大綱」を発表しました。ここでは「高速道路6社が管理する高速道路は原則として無料」とし(首都高速、阪神高速など渋滞が想定される路線は5~7割引き等で影響を確認しつつ実施)、現在の機構が抱える約35兆円の債務は無料化開始時点で国が継承して60年かけて償還するという方針です。国の財政負担も元本償還分5600億円と利息支払い分7000億円とを合わせて12600億円と試算しています。

無料化で2兆6700億円もの経済効果が出る

ところで、高速道路を無料化した場合の経済効果について国土交通省が試算を行っていたという事実を、同僚議員が予算委員会で明らかにしました。

この国交省の試算によると、経済効果は高速道路料金の3割引きで5200億円、5割引きで1200億円ですが、無料化すると大幅に経済効果が上がり、2兆6700億円にもなるということです。さらに、払わないで済む料金分を加えると5兆円を超える経済効果があります。

経済効果が大きければ税収増につながりますから、これを前提に無料化した場合の国の財政負担を考え、また約35兆円の債務を金利の安い国債に借り換えるなどしていけば、高速道路の無料化もスムーズに進むと考えられます。

しかも、無料化でETC設備や料金所の人員も必要なくなり、道路会社や借金返済のための高速道路保有・返済機構も廃止できます。私は国の組織はシンプルなほうがコストがかからないと考えています。

今度は国民の視点から高速道路無料化を考えてみましょう。

たとえば東京都から福岡県まで行く場合、大概の試算ですと料金は高速道路(普通車)や新幹線が2万円を超え、飛行機なら3万5000円を超えます。所要時間は高速道路が約12時間、新幹線が5時間前後、飛行機が2時間程度です。やはり高速道路は新幹線や飛行機と比べて所要時間の割には料金が高いと言わざるを得ません。地方の高速道路があまり利用されないのも当然でしょう。眠っている資産(高速道路)を生かすほうが国としてメリットがあると考えます。

高速道路の無料化は固定観念の打破だ

無料化すれば、車の需要が変化するのは間違いありませんが、とりわけ燃費のほとんどかからない電気自動車へのニーズが高まるでしょう。現在、電気自動車はフル充電で200キロくらい走行でき、15分の急速充電でも40~50キロ走れますから、充電は高速道路のパーキングエリアに充電設備があれば問題ありません。将来的には走行距離はさらに伸びて、フル充電で500キロ以上走れる日もそう遠くはないでしょう。

移動のコストがかからないと、自由に日本全国を動く人たちが増えていき、1日に数百キロ先までアウトレット(ショッピングセンター)や友人を訪ねるために出かける人たちが増えるでしょう。企業も高速道路利用を増やし材料や部品などの流通コストが下がり、その結果、商品の値段が低下して消費が拡大していきます。

高速道路が有料というのは日本人の強い固定観念になっていますが、この固定観念を変えていくことそのものが一種の革命です。今のように経済が停滞しているときこそ、政治家には革命を起こす英断が求められるのではないでしょうか。