【国会レポート】創意工夫から見えてくる都市近郊農業の可能性【2009年5号】
今回は農業を取り上げます。といっても、全般的な農業問題についてではなく、都市近郊農業の様変わりと今後の可能性について述べてみたいと思います。
周知のように私の地元は大都市に近いため都市近郊農業という範疇に入り、稲作のほか野菜(キャベツ、サツマイモ、白菜など)、ハウス栽培(トマトなど)、果樹(梨、ブドウなど)、花、畜産(乳牛、食肉牛など)といった多様な農家があります。
農作物によってそれぞれ経営の考え方が大きく異なるのですが、稲作農家の場合、専業農家が少なく中心はやはり子供が会社員で両親が農業という兼業農家が主です。近年では両親が高齢化すると子供が稲作農家の跡を継ぐのではなく廃業してしまうところも増えています。そのため、田圃が活用されずに耕作放棄地になってしまい、最近では私が地元を車で走っているとあちこちに目立つようになってきました。
なぜそうなるのかといえば、稲作ではなかなか収益が上がらないからです。現在のように米価が下がってしまうと、農家の話では、米をつくっても1反(300坪)あたりの年収は人件費を除くと良くても1万円くらいにしかなりません。ですから、たとえ10町歩(3万坪)の田圃であっても年収は100万円程度だということなのです。つまり、採算を度外視して受け継いだ田畑を守るために農業を続けているのです。
農地を所有と利用に分けて活用する
では、耕作放棄地の活用法はないのでしょうか。それが難しい理由の一つは、農地は農家にしか転売することができないと法律によって定められているからです。つまり、非農家に農地を転売するのが禁止されているため、たとえば宅地用に農地を売るというわけにはいきません。その結果、ある農家が農業をやめてしまった場合、他に農家の買い手が出てこないと田畑はそのまま耕作放棄地になってしまうのです。
もう一つは、農家自身の心情の問題です。農地を買いたいと希望する農家が他にあったとしても、先祖伝来の田畑なのだから金銭で譲り渡すのは忍びないという心情を持つ農家も多いのです。
こうして耕作放棄地が増えているわけですが、いずれにせよ、農地として十分に使えるのに耕作していないというのでは何とももったいない話です。
農地を有効活用するにはどうしたらいいのでしょうか。一つには、やはり所有と利用を分けるという方法があるでしょう。農地の所有権はそのまま農家が保有し、利用権だけを他の農家や新規参入の人たちに認めるのが現実的と考えます。今国会の農地法の改正で、ようやく制度が整備されました。
なお、農地の所有と利用とを分ける場合、利用の実態をきちんと管理しないと、農地以外の目的で使われる恐れもありますので、この点は留意すべきです。
人々に広がってきた家庭菜園の動き
他の農家に農地の利用権を認めるほか、私が知ったところでは、たとえば一般の人たちが田畑を借りて休日に自分たちの好きな野菜をつくるという動きが出てきています。いわゆる“家庭菜園”ですが、私の知り合いの中には3反(900坪)の農地を借りて野菜をつくっているグループがあります。
会社員自営業、退職者の人たち10人くらいが週1回休日の午前中に集まってトウモロコシやそれぞれ好きな作物をつくっており、農作業が終わった後は談笑しながらビールを飲んで楽しんでいます。収穫物で余った分(自分たちで消費しない分)はロードサイドで販売したり、町内会の祭りで販売したりして、その代金をタネ代や肥料代に回しているのですが、まさにこれは農業以外の人が余暇を農業に充てて楽しむという集まりです。
今のところ、このように大規模な市民菜園は少ないものの、今後、家庭菜園は増えていくでしょうし、規模が大きくなれば余暇にとどまらず農業ビジネスへと発展していく可能性もあります。そういう意味で、農業ビジネスの一つのとっかかりとして家庭菜園を位置付けるということもあり得るでしょう。
生産者の意欲を高める直販所
ところで現在、町中の直売所で農作物を販売するという取り組みも広がっています。農家にとって直売所は現金収入をもたらすという点でも魅力のあるところです。私の地元ではこの直売所を農協などが運営しており、近郊の農家が毎日持ち込んだ、ごま、大根、ほうれん草、にんじん、きゅうり、大豆、里芋、揚げ餅などを販売しています。
興味深いのは、農作物が売れてレジにお金を入れた瞬間、生産者の携帯電話に売れた量と金額の情報が送られるシステムが構築されていることです。そのため、売れた分の農作物をすぐに直売所に持って行って補充することもできますし、農作物には生産者の名前も表示されていますので、何より皆さんの生産意欲の面で大きな励みとなります。売上げの多い農家ですと直売所で年間100~300万円にもなるそうです。となると、直売所は農家の立派な収入源になるともいえるでしょう。
私が聞いたところでは、直売所に農産物を出荷する農家の皆さんが集まると必ずといっていいほど、指導的な農家の方を囲んで、どうすれば消費者に喜ばれる(売れる)農産物をつくれるかという話で盛り上がるそうです。このような集まりは、売れる農作物をつくるための情報交換の場であると同時に、向上心に燃えた農家の方々による農業活性化の場だともいえるでしょう。
また、今の農業で就農支援というと、いきなり大規模な農業に取り組むという話が多いのですが、直売所に出荷する農家の方々のような大規模でなく、堅実なところから農業に親しんでもらうという考え方も必要ではないかと思います。
というのも、自分が農業に合っているかどうかの適性を見極める場合、まず大規模でないところから始めたほうが、万が一、適性がないと思ったときに別の分野に転じやすいからです。
以上の点も含めて、今後の都市近郊農業というのは、やる気のある農家の皆さんの創意工夫を引き出すとともに、これから農業に取り組む新しい人たちの熱意も取り入れて新しく発展していく余地があります。