【国会レポート】政治主導の予算編成が政権交代の本質である【2009年7号】
今回は政権交代の意味について述べたいと思います。私は当選して以来、政権交代にはあまり言及してきませんでしたが、一昨年の参議院選挙で与党と野党が逆転し、今回、政権交代が現実味を帯びてきているため、このタイミングでふれておく必要があると考えるからです。
今、国政で最も大きな話題になっているのは財源論(政策に対して財源があるかないかという議論)です。もちろん、そのことも重要ですが、政権交代の本質は予算編成権を握ることだと考えています。1993年8月、自民党が政権から降りて細川政権が成立したもののわずか9ヶ月間しか続かず、結局、独自の予算を組むことはできませんでした。
与党と役所とが一体化した予算編成
自民党は政権にいる間に与党と役所とが一体化して予算を編成するというシステムをつくり上げました。政策を立案するのは与党の各部会ですが、この部会の議論には官僚も参加し、具体的な予算の裏付けも行います。
こうしてできた政策は、その後、与党、内閣、国会の順に承認を受けて予算化され、あるいは法律化されていきます。与党が多数であれば、国会での野党との議論は形式的なものに過ぎなくなり、与党の予算案あるいは法律案は国会で修正を受けることなく成立するのです。
以上のような与党と役所とが一体化した予算編成システムは、確かに当初は政治と役所との話し合いを通じて予算が立てられていったのですが、しだいに政治は予算編成を全面的に役所に依存するようになっていきました。膨大な予算書にいちいち目を通すといった作業は政治家にとって非常に大変だからです。そのようにして予算編成における官僚主導の体制ができ上がっていきました。
この官僚主導による予算というのは硬直的です。というのも、今の政府の予算は、まず役所の課の予算を積み上げ、次に部の予算を積み上げ、局の予算を積み上げ、省庁の予算を積み上げて数字が出てきますので、それぞれの課、部、局、省庁の予算のシェアは毎年ほとんど動くことはありません。ある省庁の部の予算を大幅に減らし、別の省庁の特定の部の予算を大幅に増やすようなことは起こりません。シェアを動かすこと自体が難しくなっています。政治がシーリングという形で全体の予算規模を一定の割合で減らすことはあっても、その中身のシェアはほとんど変わらないのです。
私も民間会社のサラリーマンだったとき、先輩から「カルテルとは歴史的な経緯のなかで各企業のシェアが確定しているため、シェアを容易に動かせない。業界各社のシェアをコンマ1%動かすことさえ、ものすごく大変」といわれたことがあります。今の国の予算編成もこれと同じで、歴史的な経緯のなかで各省庁の予算のシェア(配分)ができています。つまり、硬直化して時代の要請に応えられません。
政権交代によって予算のシェアを変えていく
では、我が党が新しく政権に就いたらどうなるのでしょうか。現政権と同じように従来のような政治と役所とが一体化した予算編成システムを維持するというのであれば、それは政権が交代したことにはなりません。したがって、新しい政権は、役所を切り離した形で予算編成の主導権を握る必要があります。
政党の公約というのは政策の優先順位を示すことですので、我が党も公約を果たすべく、その優先順位に添って予算を付けるとすれば、予算が大幅に増える役所、局、部、課がある一方、大幅に減る役所、局、部、課があって当然です。そうなると、これまでの固定的な予算のシェアが大きく変わるということになり、役所は激しく抵抗するに違いありません。また、役所の予算には、役所以外の付随した利害関係人が数多くいるので、彼らからも大きな反発が起こるでしょう。
しかし、新しい政権がそれを乗り越えて、1回、2回、3回と政治主導による予算編成を達成したときには日本の政治風土は抜本的に変わるはずです。
米国のニクソン政権時に米中国交正常化交渉の立役者となったキッシンジャーはその著書『キッシンジャー秘録』で次のように述べています。「官庁というものは決定が逆転不可能であり、工夫をこらした曲解や情報漏れという手を使っても変更できないことがわかったとたん、すばらしい機関になり、有能、能率、思慮を発揮する」
政治が断固とした態度で決断し実行していけば、役所は最初は抵抗したとしても、素晴らしい働きをする組織に変わっていくということです。私たちは、役所の力を発揮させるまでぶれることなく意志を貫いていきます。
今まで見えなかったものが見えてくる
もし政治主導の予算編成に成功すれば、これまで私たち国民に見えていなかったものが見えるようになるでしょう。つまり、各省、各局、各部、各課ごとの池があるとすると、優先順位に添ってまったく新しい池に水を満々と入れますが、別の池の水は全部抜かれてしまいます。その池のなかに何が潜んでいるのか。魚だけだったらいいですが、ひょっとしてガラクタやゴミが溜まっているかもしれません。そのように予算の使い方を白日の下にさらすのが政治主導の予算編成であり、政権交代の真の意義でもあるのです。
我が党としては、首相直属の国家戦略局をつくり、官と民の優秀な人材を結集し、政治主導で予算の大枠を編成し、官僚主導の予算編成からの脱却を目指します。積み上げ方式から政治主導で予算を決定する方式に変えていきます。つまり、今回の民主党マニフェストで約束した政策から優先的に予算を決定していくことになります。
20年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊して、その4年後に細川政権ができましたが、それは実質的な政権交代につながりませんでした。1990年度の税収入は60兆円に迫っていましたが、来年度は40兆円に留まろうとしています。税収が落ちたのは、政治の停滞が私たち日本人1人ひとりの能力を発揮する機会と経済の活力を奪ったからです。ベルリンの壁崩壊から20年経った今、やっと日本社会にダイナミズムを取り戻す機会が訪れたということなのです。