【国会レポート】日本の科学技術発展のための政治家の役割は非常に大きい【2012年10号】

人類は科学技術の進歩によって飛躍的な発展を遂げてきました。歴史的に特に大きかったのが18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命でしょう。これによって機械的な動力が取り入れられて短時間に各地に移動できるようになり、人間の生活は新しい段階に入ったのです。

さらに20世紀から21世紀にかけて起こったのがIT革命です。こちらは人間のコミュニケーション手段に大きな変化をもたらしました。産業革命が人間の筋肉に影響を与えたのに対し、IT革命は人間の脳に影響を与えたという言い方もされています。

そこで私が強調したいのは、政治としても人間の生活のあり方を変えてしまう可能性のある科学技術の進歩に対してつねに注意を払っておかなければならないということです。私自身はこのような問題意識から、先端の科学技術に関心をもって、以前も述べたように野党、与党、政府のいずれの立場においても国内の企業の研究所や公的な研究所への視察を行ってきました。もともと技術者・研究者の皆さんとお付き合いすることも多かったメーカーの出身なので、視察した研究所での研究開発の内容についても話を聞いたり、実際に現場を見たりしているうちに何となくその可能性が分かるようなところがあります。それは今後の日本が強くなる領域とそうでない領域を見極めることにもつながると思うのです。もちろん専門的な領域なので詳細は専門家でないと分からないとしても、政治家は強くなる領域に対して予算を付けることができますので、大局的な見通しの中で強い分野を見極めてそこに重点的に国費を投じるという役割も求められるし、また、そのような姿勢でないといけないでしょう。

世界の最新情報を自らつかんだ岩倉使節団

その点で私がいつも想起するのが明治初期の岩倉使節団です。1871年(明治4年)、141年前の12月に横浜を出帆して1873年9月まで約1年9ヵ月をかけて世界を回ったのですが、主要なメンバーは正使の岩倉具視をはじめ大久保利通、木戸孝允(桂小五郎)、伊藤博文など今で言うなら閣僚に相当する人たちでした。そんな国家の中枢を担っている人たちが1年9ヵ月も国内を留守にして世界旅行をしたのは世界史でも空前絶後のことです。訪問したのは12ヵ国(アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、ロシア、デンマーク、スウェーデン、イタリア、オーストリア、スイス)で帰途には地中海、スエズ運河、紅海を経て、当時のヨーロッパ諸国の植民地(セイロン、シンガポール、サイゴン、香港、上海など)にも立ち寄りました。

岩倉使節団は欧米をはじめ、先端の科学技術を含む世界の現状を自ら見聞して、それを建国のために活かしたのでした。明治の元勲や幕末の志士を尊敬している国会議員は多いのですが、大半の国会議員は彼らの遺した業績しか見ていません。私はむしろ彼らが政治家として最新の情報をつねにつかもうとしていたその進取の精神に最も注目すべきと考えています。彼らは、当時の世界中の為政者で最先端の人々だったのです。

ダントツの1位を目指さなくてはいけない

私は、日本はどの分野の科学技術でも世界の2位ではなく1位、それもダントツの1位を目指さなくてはいけないと思っています。

ドイツのデュッセルドルフで海外駐在員を務めた経験があるのですが、当時、ドイツの鉄鋼会社に鉄鋼生産のプラント(生産設備)を納めていました。そこの鋼板を買っていたのが、自動車会社としては世界1の技術力を持つA社でした。ある日、A社から「鋼板に見えない小さなキズがある」というクレームが来ました。他の自動車メーカーにも同じ鋼板を納めていたのですが、鋼板の見えないキズに最初に気が付いたのはA社でした。やはり世界1の技術力を持っているA社は違うのです。実際、当時、日本のメーカーの駐在員が「自動車の高速性能ではA社にはとても適わない」と言っていたのを鮮明に覚えています。A社は自動車のパテント(特許)も持っているのですが、世界1を極めると2位以下に対して基礎技術で圧倒的に差を付けられるのです。それは業績にも大きな差になって表れます。

以上のような意味で、私は日本もそれぞれの分野の科学技術において世界の2位ではなくダントツの1位を目指さなくてはいけないと思います。しかも以前とは発想を変えないとダントツの1位にはなれませんから、ダントツの1位というのは従来にはない新しい発想の技術を開発すべきという考え方も含まれています。

固定観念や既成概念を持たないことが大切

新しい発想の技術とは何か。先の次世代スーパーコンピューターを例に挙げると、今は半導体数を増やすと速度が速くなります。半導体数だけの問題なら新しい技術にはつながりません。ですから、半導体数を増やさずにスピードが速くなるならそれが新しい発想の技術なのです。

斬新な発想はやはりこれまでの固定観念や既成概念を捨てないと出てこないのではないでしょうか。たとえば最近の国立天文台などの研究によって、太陽の周期的な活動に異変が起きており、地球に低温期が到来する可能性があるとの指摘がなされています。従来、温暖化ガスによって地球温暖化が進んでいるというのが一種の定説になっているのですが、太陽の活動の異変で低温期が来るというのなら、では、今までの地球温暖化というのは何だったのでしょうか。

いずれにせよ、政治家は固定観念や既成概念の再検討も含めて、科学技術の進歩に絶えず目を向けていき、それを国民の生活に活かすように国費投入の面も含めて努力していかなければならないと思います。