【国会レポート】来年の経済に備えるために政治が行うべき対策とは何か【2012年8号】

2007年12月22日付け夕刊フジに「来年は経済状況が悪化するので非常に心配している」という私のコメントが掲載されました。その9ヵ月後、2008年9月に、リーマン・ショックが起こりました。景気の先行きについて自分なりの直感が働いたのでした。

この数か月、来年以降景気は相当悪化する恐れがあるのではないかと心配しています。きっかけは今年8月に創業100年を超える古い石材店を訪れた際に、80歳のご主人から「こんなに景気の悪い時代はない」と言われ、さらに翌月、地元の小さな靴屋さんのやはり70歳後半のご主人にも「商売を始めてからこんなに景気が悪い時代はない」と指摘されました。

また、駅頭で本レポートを配布しているのですが、最近多くの通勤する方の表情も硬いのです。私も、議員になるまでサラリーマンをしていましたので、通勤する際の気持ちが良く分かります。また、生命保険の営業をしていた際には5年間にわたって中小小規模企業に飛び込みセールスをかけていましたので、経営者の心持をなんとなく想像できるのです。

同じ不況であっても前回のリーマン・ショック時には中国、中南米、東南アジアなど世界の景気を牽引する国がありました。けれども、今は世界中を見渡しても景気の良い地域や国はありません。景気を牽引する地域や国のない中で不況になっていくと、景気の落ち込みはリーマン・ショック時どころではないでしょう。そのうえ不況の期間も一時的ではなく長期間持続するかもしれません。

ここ数年、90兆円を超える予算規模は過去に比べて大変大きくなりました。マスコミからは、膨張しすぎと批判はあるのですが、私は、景気の下支えができて景気の底割れを防げた面もあると考えています。今後は予算の制約もあって大規模な予算もなかなか組めません。その点も考慮すべきと思っています。

企業の倒産件数が急増する恐れ

私は景気悪化が懸念されるときにはいつも日本有数の信用調査会社の方から中小企業の倒産動向などを聞くようにしているのですが、先日も来ていただいて話を聞きました。

中小企業を金融支援する法律としては2009年12月に施行された中小企業金融円滑化法があります。これは、中小企業から返済猶予など借入条件の変更を要請された場合、金融機関はその要請にできるだけ応じなければならないとする法律です。時限立法で円高や東日本大震災のためにすでに2度延長され、現在の期限は2013年3月末までとなっています。

信用調査会社の方によれば、日本には企業数全体の99.7%を占める約420万社の中小企業があって、そのうち円滑化法を利用した中小企業は30万~40万社にのぼり、現在も約30万社が金融機関から返済猶予を受けているのではないかとのことです。1980年代以降は年間約1万5000社だった倒産件数も円滑化法の施行後の2010年と2011年には年間約1万3000社に減っています。その点ではやはり円滑化法は企業倒産をある程度防いだわけです。

しかし信用調査会社の方は、現状でも円滑化法を利用している中小企業のうちの3万社は元本の返済を猶予しても倒産するのではないかとも懸念していました。(以上はあくまでも正確な統計データに基づくものではなく信用調査会社の方の個人的な意見なので、その点については留意が必要です)。

円滑化法が切れた後の状況を検討する

単純に計算して、仮に3万社が5~6年の間に倒産するとなると倒産が年間約1万3000社から5000社くらい増えて年間約1万8000社になる恐れがあります。とすれば、その対策を考える前提としてまず、金融円滑化法の利用実態が本当はどうなっているのか、本当にそういう倒産の数字が想定されるのか、という検証作業が必要だと思います。

振り返れば、2009年に円滑化法が成立した直後、中小企業経営者の一人は私に「大島さん、円滑化法を利用すると倒産扱いになるので誰も利用しませんよ」と言っていました。ところが、円滑化法の延長が国会で議論になっていた今年初め、年始の賀詞交換会に出席したところ、何人かの中小企業経営者の皆さんから「今年3月で切れる円滑化法を延長してほしい」と要望されたのです。これには驚いたのですが、「誰も利用しない」のとは違って実際には多くの中小企業が円滑化法を利用していたのでした。それが全国では約30万社という数字になって表れているのです。

金融円滑化法は来年3月が期限ですが、信用調査会社の方は「すでに円滑化法によるリスケジューリング(債権の返済を延ばす)が一般的になっており、銀行もそれに抵抗感がなくなっているので、円滑化法が切れてもすぐに倒産が続出することにはならないと思います」と言っています。この点も含めてやはり円滑化法が切れたときにどうなるか、今から見極める努力が必要なのです。

景気対策が実感できる分野に予算を投入

ところで、日本経済は様変わりしており、従来の景気対策が効かなくなってきました。以前は、景気が良くなれば、注文を受け付ける従業員を増やしたりして好景気を実感できたのですが、今は、携帯電話やパソコン、インターネットなどのIT機器が急速に普及したためにすべての業種で人と人とをつなぐような中間的な仕事がなくなり、雇用には結び付きにくくなっています。これがいわゆる「中抜き」であり、景気対策を行う場合にも単純にお金をばらまくのではなく重点的に投資しないと効果が上がらないのです。

したがって、雇用確保には、機械やITに置き換えられない仕事を増やしていくことが大切です。また、景気対策の実感が皆さんに伝わりやすい分野に対して重点的に行っていかなければなりません。その点を精査しつつ、これからの景気対策に取り組んでいきます。

最後に、保険の営業マンとしての私の経験から言えば、共産主義になくて資本主義固有の仕事が営業にほかなりません。どんな不況の世の中になっても必ず需要があります。それを掘り起こせていないというのは日本全体の営業力が本当に落ちているからでしょう。日本の営業力をいかに底上げするかという観点からデフレ脱却を考えることも肝要と思います。