【国会レポート】関係者の積極的な取り組みで自殺者数は着実に減少【2012年6号】

NPO「自殺対策支援センター・ライフリンク」の清水康之代表は、東京マラソンのスタートをビルの屋上から撮影した動画を使って自殺の深刻さを訴えています。東京マラソンの参加者数は我が国の年間の自殺者数とほぼ同じ3万数千人なのです。

この動画には、東京マラソンの参加者がスタート地点を広い道路いっぱいにひしめくように走る様子が映っていて、全員がスタート地点を通過するまで何と20分もかかっています。これを見ると、3万人の命の重さが具体的にわかり、私も大きな衝撃を受けました。我が国に生まれ、我が国に住んでいて自ら命を絶つ人が多いというのは政治の失敗です。

私は野党時代から自殺対策を積極的に国会で取り上げてきました。2009年2月24日と5月11日の予算委員会では質問者となり、「自殺対策予算を十分に取るべきではないか」と政府に対して強く要求しました。同年9月の政権交代後には、私は内閣府副大臣に就任して自殺対策も担当し、今度は政府の立場で先頭に立って自殺対策を推進してきました。

そして、多くの方々に協力して頂き、政権交代以降、毎年約千人ずつ減少しています。今年も1~6月までの自殺者数は前年より減少しており、このままで推移すれば、今年の自殺者数は15年ぶりに3万人を下回ると考えられます。

政権交代後100億円の対策予算を確保

さて、私が内閣府副大臣になって、まず取り組んだのが自殺対策予算の確保です。前政権は自殺対策予算として100億円の予算を組んでいたのですが、政権交代直後の予算編成において新政権は「前政権がつくった予算はできるだけ見直す」という方針を立てていました。この方針に従うと100億円から大幅に減額されてしまいます。しかし、私は内閣府の政務三役(大臣・副大臣・政務官)の打ち合わせで「100億円でも少ないくらいなのだから残すべきである」と強調し、100億円の自殺対策予算をそのまま確保することができたのです。そして、各都道府県に自殺対策予算として配分され、ここでようやく日本においての本格的な自殺対策が始まったと言えます。

自殺のピークに対応するための取り組み

1年のうちで自殺者数が特に増えるのが3~5月と9~11月です。自殺対策としてはまずこの2つのピークに対応することに取り組みました。その1つが、内閣府政務三役と内閣府本府参与で構成される「自殺対策緊急戦略チーム」(私は自殺対策担当副大臣として参加)が2009年11月に打ち出した「自殺対策100日プラン」です。

「自殺が増加する3月を自殺対策強化月間にして、3月までの100日間で実施すべき4つの緊急的施策を行う」というものです。4つの緊急的施策として、①自殺実態(地域別・時期別・職業別・年代別)に基づく対策の立案、②失業者や経営者等のハイリスク群を対象とした総合支援、③自殺が多発するハイリスク地域を拠点にした総合支援、④支援策を最大限活用するためのパンフレット等の開発、を展開しました。

続いて2010年2月には、100日プランを踏まえ、社会全体で自殺対策に取り組むことを柱とした「いのちを守る自殺対策緊急プラン」を政府として決定しました。併せて、内閣府では前年の自殺統計データ(暫定値)の提供を警察庁から受けて地方公共団体ごとに性別・年代・原因・動機・職業・場所等の状況を整理し公表しました。また、毎月のデータも警察庁から提供され、それを受けて内閣府が集計・公表を行うことで、対策を効果的に打てるようになりました。

プランに基づいて行った具体的な対策としては、テレビやラジオ等のマスメディアを使っての集中的な広報活動、全国のハローワークでの心の健康相談、商工会議所・都道府県商工会連合会に設置されている経営安定特別相談室での中小企業経営者向け法律相談などが挙げられます。私も弁護士会や司法書士会、中小企業庁などに直接出向き協力をお願いするとともに、東京FMの番組にも出演して自殺対策の大切さについて訴えました。

東日本大震災被災者への支援を充実させる

以上のような対策を実施した結果、2009年以降、2010年、2011年と毎年千人を超えて自殺者が減少してきました。2011年の自殺者数は3万0651人と前年に比べて1039人(3.3%)の減少であり、3万人を割り込む水準まで下がってきたのでした。

2011年の月別の自殺者数は3月までは前年同月に比べて減少していたのですが、4月から増加に転じ、5月には大幅増となってしまいました。東日本大震災による心理的な影響や経済状況が悪化したことも原因として考えられます。こうした事態を受けて、2011年度第3次補正予算で地域自殺対策緊急強化基金について、積み増し分37億円を計上するとともに2012年度末まで期限を延長しました。目下、被災者の心のケア対策や孤立化防止のサロン活動、相談窓口、訪問支援等の整備、復旧、震災関連自殺の予防対策等を被災3県(岩手・宮城・福島)を含む全国で積極的に展開しています。

一人でも多くの命を救うためには、相手を思う多くの方の協力が必要です。一人ひとりに「居場所と出番」がある社会をつくるために、これからもたゆまず取り組んで参ります。