【国会レポート】閣議決定後に本格化した我が国の準天頂衛星の整備【2012年5号】

私は1年前のこの国会レポートで「準天頂衛星」を取り上げましたが、5月16日、東京・大手町の経団連会館で開かれた「第10回衛星測位と地理空間情報フォーラム」で冒頭20分間の基調講演を担当しました。その際、300人を超えるビジネスマンの聴衆に、準天頂衛星について述べた1年前のレポートを配布し、準天頂衛星の整備が閣議決定された経緯や予算の獲得、今後の準天頂衛星の方向性などについて話をさせていただきました。

改めて述べれば、準天頂衛星とは「日本の上空の天頂付近につねに1機の衛星が位置するように軌道上に複数の衛星を配置して利用する衛星システム」のことです。衛星がつねに日本の天頂にあり、山やビル等に影響されずに全国を100%カバーすることができ、しかも高精度の衛星測位サービスを提供できるのです。なお、2010年9月に準天頂衛星の初号機「みちびき」がすでに打ち上げられています。

予算確保のための全力での取り組み

衛星測位サービスというと、カーナビや携帯電話などで幅広く使われている米軍のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)がありますが、準天頂衛星の場合、GPSに比べて圧倒的に精度が高いことが大きな特徴となっています。GPSの測位の誤差が約10メートルであるのに対し、準天頂衛星は数センチしかないのです。昨年3月11日の東日本大震災では多くの人が津波によって命を落とされました。私は準天頂衛星の持つ精度はとりわけ大震災などでの津波予測や安否確認に活用できるのではないかと考えて、以後、内閣府など関係各官庁の人たちと一緒に準天頂衛星を整備するために全力を尽くしてきました。

まず、通話は難しいのですがメールでしたら携帯電話の電波は準天頂衛星に届きますので、メールでお互いの安否確認ができるようになります。また、沖合に設置した潮位計(ブイ)で津波の高さと速度を高精度で捕捉することによって正確に津波を予測することが可能となります。「何分後に何メートルの津波が到達する」と、衛星から携帯電話に到達する湾ごとに一斉にメールで知らせることができるのです。

我が国の準天頂衛星が整備されれば、東アジア全域およびオセアニアまでカバーできますから、その範囲に位置する各国にも大震災等の被害を小さくするために準天頂衛星を使ってもらえるようになります。その場合、我が国としては大きな国際貢献が行えるということにもなります。

本格的な整備に弾みが付いた閣議決定

東日本大震災以後の関係者挙げての取り組みの努力が実って昨年9月30日に準天頂衛星を整備するという閣議決定が行われました。その閣議決定のポイントは以下の通りです。

①準天頂衛星システムは、産業の国際競争力強化、産業・生活・行政の高度化・効率化、アジア太平洋地域への貢献と我が国プレゼンス(影響力)の向上、日米協力の強化及び災害対応能力の向上等広義の安全保障に資するものである。

②諸外国が測位衛星システムの整備を進めていることを踏まえ、我が国として、実用準天頂衛星システムの整備に可及的速やかに取り組むこととする。

③具体的には、2010年代後半を目途にまずは4機体制を整備する。将来的には、持続測位が可能となる7機体制を目指すこととする。我が国として実用準天頂衛星システムの開発・整備・運用は、準天頂衛星初号機「みちびき」の成果を活用しつつ、内閣府が実施することとし、関連する予算要求を行うものとする。

④また、開発・整備・運用から利用及び海外展開を含む本事業の推進に当たっては、関係省庁及び産業界との連携・協力を図ることとする。内閣府がこうした役割を果たすために必要な法律改正を予算措置に合わせて行うこととする。

この閣議決定の後、2012年度予算では100億円の予算が付きました。総額ですと4機で約1500億円、7機では約2300億円になる予定です。

この点については冒頭の5月16日のセミナーでも紹介させていただいたのですが、基調講演の後、参加したビジネスマンの方々からは今後の準天頂衛星の発展に対するご支援の声を数多くいただきました。

一方、5月1日に米国ワシントンでの野田首相とオバマ大統領との日米首脳会談においても「今後、日米両政府はアジア太平洋地域を対象にGPSの共同開発に乗り出す」という合意が行われました。この場合のGPSの共同開発というのは我が国の準天頂衛星を中核に置くということを意味しています。つまり、米国政府としても準天頂衛星の活用に大きな期待を寄せているということです。