【国会レポート】4月より削減される国家公務員給与【2012年2号】

国家公務員給与を削減する特例法が今年2月に賛成多数で可決成立しました。2012年4月から2年間、国家公務員給与を平均7.8%引き下げるというものです。給与削減分は2年間で5,500億円を超える金額となり、東日本大震災の復興財源に充てられます。

給与特例法の採決に先立つ衆議院本会議では、野党議員の代表質問に対し、野田佳彦首相が次のように答弁しました。

「公務員人件費については、国家公務員給与の平均約7.8%を削減することで合意に至ったところであり、大島さん、稲見さん、あるいは各党の実務者が本当に血の滲むような努力をして今回合意をしたのです。評論では政治は進みません。このように粘り強く行政改革、政治改革を進める同士の皆さんとともにこれからも改革の姿勢を堅持していきたいと思います」

私もこの答弁を衆議院本会議場で聞いていました。突然自分の名前が出たことに驚くとともに責任の重さを改めて実感したのでした。

国家公務員の給与を平均7.8%も引き下げるというのは誇るべきことではありません。なぜなら国の経営がうまくいっていれば給与を引き下げる必要などないからです。現実には国の財政状況が悪化しており、その上に東日本大震災が起こったために給与を引き下げざるを得なくなったのです。国を経営する側にいる私としては、重要な法律を成立させた満足感のようなものはありませんでした。

人を引きずり下ろすような世相を解消したい

ところで、5年ほど前でしょうか、私が上尾駅の陸橋でビラを配っていたところ、20代後半くらいの若者たち数人がやって来てこう訊かれました。「大島の理想は何か」。それに対して私が「非正規の皆さんの年収は200万円くらいと思います。30歳で、それにプラス100万円で300万円くらい得られるようにしたい。共稼ぎで600万円の年収なら結婚して子供を産んで育てられるようになるでしょう」と話したところ、「300万円なんて、それは理想ですよ」と彼らに言われたのでした。

その言葉に私は愕然としたことを今でもよく覚えています。30歳で300万円の年収というのは、私たちの世代からすると十分とは言えない待遇ですから、私は申し訳ないという気持ちで「300万円」と言ったのですが、彼らは300万円を低いどころか、「理想」と思っていたのでした。21世紀に入ってから所得は伸びるどころか下がってきており、一方で所得格差のほうは広がってきています。

このような時代状況の中でテレビのワイドショーを見ると、「あそこに得をしている人がいる。懲らしめようじゃないか」といった番組が高い視聴率を取っています。つまり、人を引きずり下ろし溜飲を下げるムードになってきています。少なくとも1990年代まではそんなことはなかったと思います。私は、格差を解消して明日への期待が持てる社会に戻すことで、そのようムードがなくなるような世の中にしたいと考えています。

私がサラリーマンだったとき、不況で給与をカットされたことがありました。下げられる身にとっては丁寧な説明と納得できる理由が必要です。そうでないと会社全体のやる気が失われてしまいます。今回、国家公務員の給与を引き下げましたが、それは得しているからではなく、国の置かれている状況を理解してのことなのです。

理解しづらい公務員の労働条件の決定方法

公務員制度改革については内閣府副大臣を務めているときから担当し、副大臣を退いてからも党公務員制度改革プロジェクトチーム座長として携わってきたのですが、7.8%の引き下げについてもいきなりそうなったのではありません。

民間の会社員と公務員の働き方には大きな違いがあります。民間の会社員には団結権、協約締結権、争議権(スト権)という労働三権が与えられていますが、公務員には協約締結権とスト権は与えられていません。そのため、公務員の給与について行政側と公務員側が交渉するのではなく、人事院が何万社という民間企業の給与データに基づき、行政側に対して「公務員の給与はこの水準にすべき」と具体的な給与水準を推奨してきました。

この推奨すなわち人事院勧告に基づいて行政側はこれまで公務員の給与を決めてきたのです。逆に言うと、この制度のために行政側も勝手に公務員の給与を引き下げることができなかったのでした。民間企業で働いている皆さんが「民間では業績が悪くなると給与が下がるのに、公務員は財政が悪化しても給与が下がらない。おかしいのではないか」と疑問を持たれるのも分るのですが、それは制度上の制約があるためだったのです。

政治家も役人も国を思って力を尽くした

今回は、東日本大震災や国の財政事情を考えて、臨時異例のこととして戦後初めて政府と職員団体との間で賃金交渉が行われました。そして、昨年5月から6月にかけて厳しい交渉が行われ、すべてではありませんが、職員団体との間で2年間7.8%の給与の引き下げについて合意がなされました。本来は人事院勧告によって国家公務員の給与が定められるところを、政府と職員団体との信頼関係に頼って交渉が行われ、大幅な削減となったのでした。一般職員で5%、係長で8%、管理職で10%。ボーナスは一律10%削減です。

私のところに取材に来る新聞やテレビの記者に「きみたちの給料が10%下がることになったら、どうなりますか」と訊いたところ、口をそろえて「会社側と組合との交渉は大揉めに揉めるでしょう」という返事でした。つまり、国家公務員の皆さんには国の苦しい財政事情と震災の復興に対して身を削ることを理解して頂いたということです。

残念ながら、国民よりも組織防衛を優先させる役所があるのも事実です。しかし、今回の特例法案の成立に向けて昼夜を問わず熱心に、あらゆる交渉のサポートをしてくれたのも国家公務員でした。つまり、自分の給料が下がるにも拘わらず誠意を尽くして仕事をしたのです。

2年後に備えて今から改革法案成立に全力

なお、特例法での給与削減は2年間限りですから、それ以降の給与を決める仕組みを早期に整えておかなければなりません。

私が取り組んできた「国家公務員制度改革法案」には、人事院の廃止とともに、職員団体との交渉窓口となる公務員庁の設置や、幹部人事を担当する内閣人事局の設置などが盛り込まれています。成立すれば給与など労働条件についても法に基づいた交渉ができるようになるのです。私も本法案を一刻も早く成立させるべく全力を尽くしていきます。