【国会レポート】AIJ投資顧問事件と旧社会保険庁OBの再就職者【2012年3号】

私は衆議院議員になる前、生命保険会社の営業職をしていた5年間に1000を超える中小企業を訪問して、退職金や年金制度についてお話をさせていただきました。

その際にこう考えたことがあります。「運用資金の金額が巨額になると経済成長率を大幅に超えては運用できない。したがって、過大な運用利回りを狙うとすれば元本割れのリスクを覚悟してリスクマネー(投機)に向かわざるを得ない。ただし、年金はサラリーマンの老後の生活費であり、保守的な運用を心掛けるべきである。また、運用には相当の知見が必要だ」と。

さて、投資顧問会社である「AIJ投資顧問」という会社が企業年金から受託して運用していた積立金約2000億円の大半が消失していたことが判明しました。投資顧問会社とは年金資産などを預かって市場で運用したり顧客に投資の助言をしたりする資産運用専門会社です。

AIJには金融庁が業務停止命令を出す事態に発展し、また、AIJの経営者に対しては国会で3月と4月に参考人招致と証人喚問が実施され、国会議員による真相究明の質疑が行われています。

資産運用に失敗したにも関わらず、AIJは偽りの好業績をアピールして顧客を募り被害が拡大しました。AIJに運用を委託していた企業年金の大半を占めていたのが厚生年金基金でした。厚生年金基金とは、企業とその従業員によって設立される法人です。

低金利時代の資金運用が重荷になってきた

今回の事件の背景には経済環境が長期にわたって低迷していることがあります。

サラリーマンの年金は「国民年金(基礎年金)」「厚生年金」「企業年金」という3階建て構造になっています。国民年金と厚生年金は国が行う公的年金ですが、企業年金は退職金の一部として会社が準備したサラリーマン向けの私的年金なのです。

厚生年金基金は企業年金の一形態ですが、きわめて特殊な形態です。民間サラリーマンが加入している厚生年金は、保険料を労使が半分ずつ負担し、全額が国に納付されます。一方、厚生年金基金に加入している会社のサラリーマンの厚生年金は保険料全額が国に納付されるのではなく、一部は厚生年金基金に納付され、厚生年金基金が運用することになります。プラスして企業年金部分の積立金も厚生年金基金で一緒に運用されます。

年金を確実に給付するためには、運用によって資金を増やすことが必要です。厚生年金基金にとって厚生年金保険料の一部を運用することは、高金利の時代には「公的年金である厚生年金の運用利回りを超えて運用できれば、企業年金部分の年金額が増える」と歓迎していたのですが、今のような低金利の時代に入ると重荷になってきました。しかも低金利時代にもかかわらず利回りを高く設定しているため、その重荷は一段と大きくなっています。

厚生年金の積立金不足で窮地に立つ中小企業

現在、厚生年金基金の数は、減ってきたとは言え581もあります。これらの大半が企業年金部分の利回りを3.5~5.5%に設定しています。

また、厚生年金基金は、厚生年金の給付に必要な積立金の占める割合が大きく、213基金では厚生年金を支払うための積立資金が不足しており、その不足額は合計6300億円にも達しています。というのも、厚生年金を給付するための積立不足は加入企業が穴埋めするのですが、厚生年金基金の8割は中小企業が加入するタイプですから、経営基盤の弱い中小企業ではこの部分の補填がなかなかできないのです。

もし基金に加入している各企業に対してこの厚生年金の積立不足部分の穴埋めを強く求めるとすれば倒産してしまう企業も出てきます。しかも、同じ基金に入っている他の企業は、倒産した企業の負担分も引き継ぐという仕組みになっていますから、その場合、連鎖倒産につながってしまう恐れもあるのです。

厚生年金基金の役員も公募で集めるべき

AIJ事件を受けて厚生労働省が581の厚生年金基金を対象に「厚労省・旧社会保険庁(現・日本年金機構)OBの再就職者数」を調べたところ、厚生年金基金には役員383人と職員306人の合計689人が再就職していました。

さらに2010年末にAIJに投資残高のある72の厚生年金基金には、49人の役員が再就職していました。また、AIJ事件では旧社保庁のOBが経営するコンサルティング会社がAIJとコンサル契約を締結していたことも明らかになりました。

したがって、AIJ事件のような不祥事を起こさないためには、厚生年金基金の役員に旧社保庁のOBがそのまま再就職するような慣例はなくさなければなりません。この点について、実は2010年9月に当時の長妻昭厚労大臣から厚労省の所管する関連機関について「役員・職員の公募についてのお願い」と題する要請が出ていたのでした。そのなかの役員については以下の通りです。

1 現在、国家公務員のOBが役員に就職しているポストについて、任期満了時および当該ポストに離任者が生じることになった場合、新たな役員の選任については公募により後任者の選考を行う。

2 新たに国家公務員OBを役員に選任しようとする場合には公募より選考を行う。

この指示の結果がどうなったかと言えば、役員に国家公務員OBのいる366の年金基金中で2010年9月以降に役員任期が到来したのは200基金あって、そのうち役員の公募を実施した基金は37基金しかなかったというのが実状です。

もし、200基金すべてで役員の公募を実施し専門家に経営を委ねていたら、今回のAIJ事件の被害はもっと早期に判明していたと考えられます。

430万人の加入者とそのご家族を支える大切な基金だという自覚をもち適切に運営するためには、年金運用について知見を持った経営者が必要です。公募を活用するなど、専門家を選んで行かなければならないと考えます。