【国会レポート】国家公務員制度改革が今なぜ必要なのか【2011年6号】

今、世の中は猛烈なスピードで変化しています。それが象徴的に表れているのがインターネットですが、ホームページのほかにブログができたと思ったら、ツィッター、フェイスブックなど新たなサービスがどんどん生まれてきており、しかもそのようなサービスが人々の考え方や行動に大きな影響を与えています。

もちろん日本もこうした世の中の激しい動きの影響を受けていますから、政治もスピーディに対応していかなければならず、政治を支える国家公務員制度もその変化に応えられるようにする必要があります。その場合、国家公務員制度は公共財ですので、どのような政権になろうとも、常に時代に対応して機能するような制度にしておくことも不可欠です。

私が内閣府副大臣を務めていた際には内閣官房の国家公務員制度改革推進本部事務局長として、さらに2010年9月以降は党公務員制度改革プロジェクトチーム座長として、中心となって取り組んだ公務員制度改革法案が通常国会で閣議決定され、国会に提出されました。これまでにない斬新な内容になっています。

閣議決定した公務員制度改革法案

本改革法案は4つの関連法案から成り立っている大がかりなものですが、ポイントは、①内閣が各府省の約600人の幹部職員(部長、局長、事務次官)の人事を一元的に管理すること、②(府省の幹部、自衛隊・警察・海上保安庁の職員などを除いた)30万人の一般の国家公務員について民間企業と同様に給与や勤務時間などを労使交渉によって決定すること、という2点です。

改革法案における2大ポイントの概要

まず①では、内閣が幹部職員の人事を一元管理するために内閣官房に「内閣人事局」が置かれます。そこで幹部職員(部長、局長、事務次官)の適格性を審査し、内閣の意思を反映した人事が行えるようにします。たとえば「Aさんは今、財務省にいるが、貿易について見識があるので、次は経済産業省に移って存分に腕を振るってもらおう」と政治が判断すれば、そのような配置がすぐにできるようになるわけです。これまでは幹部人事でもいわゆる役所間の縦割りのために、簡単には異動させることができませんでした。役所間の調整に時間と労力がかかって人事異動のチャンスを失してしまうこともあったのです。この改革法案が実現すれば、迅速でかつ適材適所の幹部人事を官邸主導で行うことができます。裏を返せば、政治もうかうかできず、600人もの幹部職員の能力を把握するための情報収集、適材適所の人事を行うための覚悟と責任が政治に強く求められるようになるということです。

次に②は、一般の国家公務員が政府と話し合って自らの給与や勤務条件などを決めるということです。それを行うために「協約締結権」という権利が与えられます。

これまで公務員の給料などは人事院が民間企業の実情を調査し、民間に準拠して決めてきました。これを人事院勧告制度と言いますが、改革法案が実現すれば勧告制度も人事院自体も廃止されます。その代わり、内閣府の外局に「公務員庁」が新設され、そこが国家公務員の組合との交渉窓口となります。

なお、争議権(ストライキ権)付与については、パブリックコメント(インターネット等で国民の皆さまの意見を広く聞くこと)では慎重な意見が多く寄せられましたので今後の検討課題としました。

給与引き下げの真摯な交渉で労使が合意

民間企業から政治に転じた私の目から見れば、現在の国家公務員制度には驚かされる面があります。一言で表すと「マネジメントシステムの欠如」ということで、たとえばどんな企業でも、4月1日に何人の新入社員が入ったかと聞かれれば、総数はもちろん性別、事務系・技術系の内訳など即座に答えられます。

ところが、国家公務員の場合、各府省に人事が任されていて国として管理していないため、新卒が何人新しく国家公務員になったかを答えられる国の機関がないのです。ですから「制度のことについては人事院に訊いてくれ」、「給与は総務省に訊いてくれ」などと各府省によるバラバラの対応しかできません。つまり、人事の主体がなく、ということは、人事について責任を持つ主体がないのです。

また、民間企業に長く勤務した私が副大臣として官僚組織に入って驚いたことがあります。職員が過去に在職した部局の履歴はあるのですが、どのような仕事に従事していかなる成果を挙げたのかというデータは一切ないのです。つまり、組織の能力をどれだけ引き出したかについて、職員をそのマネジメント能力で評価する意識が希薄といえます。

一方、民間企業では労使交渉を通じて「我が社」の有るべき姿について理解を深めていきます。労使交渉は対立の場ではありません。経営側は組織管理者としての自覚を醸成し、従業員にとっては会社の課題を理解し納得して働くことができる機会でもあります。

そこで今回、労働協約権が与えられると、労使ともに直面する課題に向き合わなければならなくなります。最初は慣れないせいでいろいろとトラブルも出てくると思いますが、慣れるにつれて労使の間で、どうしたら作業効率が上がるのか、それぞれの仕事にはどのような役割があるのかといった生産的な議論が行われるようになる、つまり人事マネジメントが発生すると考えます。

そして、今回の法律の成立を前提に、国家公務員の各労働組合と政府との間で給与引き下げについての交渉がすでに行われました。その結果、組合側も厳しい国家財政や不足する震災復興財源の現状を理解し、役職によって5%から10%(平均8%)給与を引き下げることで、多くの組合と合意することができました。この合意は給与法改正案として国会に提出されましたので、審議を経て採決で過半数の賛成が得られれば成立することになります。今回、給与を大幅に引き下げる交渉のテーブルで労使が真摯に向き合ったことは、今後の労使関係制度を議論する際にも大きな拠り所となると考えます。

長い議論の積み上げを法律にしていく

これまでの政府も何度も抜本的な公務員制度改革を行おうと努力してきました。今回の公務員制度改革によって初めて本格的な法案ができたともいえるのですが、これは今までに廃案になった法律も含めて1つ1つ積み上げてきた結果です。今後、各党の協力を得ながら改革法案が実際の法律となるように全力で努力していきたいと思います。