【国会レポート】大災害の被害を減らすために準天頂衛星の整備が不可欠【2011年5号】

3月11日に東日本大震災が発生した直後、私は家族や知人の安否を確認するためにあちこちに携帯電話をかけたのですが、どこにもつながりませんでした。同じ体験をした方も多かったと思います。関東ならメールはかろうじて送受信できたものの、東北の被災地では通信インフラが壊滅したためにメールも通じませんでした。東日本大震災は、我が国の災害時における通信インフラの脆さをはっきりと露呈させたと言えるでしょう。

全国を100%カバーする通信インフラ

これは深刻な問題です。今後、首都直下型や東海、東南海、南海という大地震の発生も十分に予想されますので、震災時でも使える通信インフラの整備に早急に着手しなければなりません。

そこで、この通信インフラの最有力候補が、私が内閣府副大臣時代にかかわった「準天頂衛星」と思います。準天頂衛星というのは、日本の上空の天頂付近につねに1機の衛星が位置するように複数の軌道面にそれぞれ衛星を配置して利用するシステムです。

これら衛星の軌道は、軌道傾斜角(赤道面からの軌道の傾き)を保って地球の自転と同じ周期で地球を回ります。そのため、衛星が常に天頂にあり、山やビル等に影響されずに全国をほぼ100%カバーすることができ、高精度の衛星測位サービスを提供できるのです。

2010年9月11日に、初号機「みちびき」が種子島宇宙センターで打ち上げられ、現在、技術実証・利用実証実験が行われています。

GPSよりも遥かに高い測定精度を持つ

ところで、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)という衛星による測位サービスをご存じの方も多いのではないでしょうか。これは、カーナビや携帯による道案内、測地・測量、天気予報、ロボットの制御、ネットワークの時刻同期などすでに非常に幅広い分野に利用されており、私たちの生活にも欠かせないものとなっています。

このGPSは米国が開発して世界に提供しているものですが、地表を測量する精度は10メートル単位です。つまり、宇宙から10メートルの目盛りの付いた定規で地表を測っているようなものですから、まだ精度は粗いと言えます。しかし、準天頂衛星なら数センチ単位で地表を測れるのです。

GPSに比べて圧倒的に精度が高いため、携帯電話に準天頂衛星との通信機能を持たせれば、その携帯電話を持った人がどこにいるかを把握することができます。また、携帯電話では音声での通話は難しいものの、準天頂衛星を介して簡易メッセージ(安否確認)の送受信はできるようになります。

その結果、大震災発生時の安否確認も手軽にかつ確実にできるのです。大震災が起こったとき、音声通話が途絶えてもメールの送受信ができれば安心ですし、万が一、被災に遭ってメールの送受信ができなくても、その人がどこで被災に遭ったのかもすぐにわかりますので、救助に行くときにも大いに役に立ちます。

津波被害の防止に大きな威力を発揮

また、準天頂衛星は沖合に設置した潮位計と連係させることで津波も監視できますので、津波が発生すると携帯電話にその情報をリアルタイムに伝えることもできます。今回の被災地でも津波警報は鳴ったのですが、それでは本当に津波が来るかどうかわからず、逃げ遅れた人も少なくありませんでした。その点、準天頂衛星なら「10分後に大津波が押し寄せる」といった具体的な情報をリアルタイムに出せるので、津波が来るという実感がありますし、逃げることも容易になるでしょう。この準天頂衛星のシステムがあったなら今回の津波による人的な被害ももっと少なくできたに違いありません。

さらに準天頂衛星では、遠隔操作による建設機械の精度の高い無人操縦も可能になります。今回、福島第一原子力発電所の事故で放射性物質が拡散するという被害が出てしまいましたが、建設機械を無人操縦することができれば、汚染地域に作業員が近づくことなく放射性物質を取り除けるようになります。無人ですから安全性が確保され、ただちに作業に移ることができて作業効率も上がるのです。

年間150~180億円の整備コスト

準天頂衛星を整備するコストについては、4機の衛星を使うシステムと7機の衛星を使用するシステムがあるのですが、4機の場合、米国のGPSとの連動が前提で衛星および関連設備を合わせて約1500億円かかります。7機の場合は約2300億円になりますが、米国のGPSとの連動も必要がなく準天頂衛星単独の運用が可能になり、それだけ使い勝手が良くなるのです。しかもこのコストは単年度ではありませんから、年間150億円から180億円の予算投入で済みます。

加えて、準天頂衛星が整備されれば、カバーする範囲は日本だけではなく、縦は中国からオーストラリアまで、横はインドの半ばくらいからグァム島の先までという非常に広い範囲にわたります。したがって、準天頂衛星は日本だけで利用するというのではなく、カバーできる範囲にある東アジアやオセアニア各国にも使っていただくことができます。

日本の国際貢献につなげることができる

周知のようにアジアでもスマトラ沖でたびたび大地震が発生し、津波の被害で10万人単位の犠牲者が出ていますが、この準天頂衛星を利用してもらうことによって、そうした被害も小さくできます。準天頂衛星の整備は日本にとって大きな国際貢献にもなるのです。

しかし、こうした衛星システムを考えているのは日本ばかりではありません。中国が2012年から、EUも2016年から同様の衛星サービスをアジア地域で開始する予定です。日本も国際貢献の面で中国やEUに負けないように、できるだけ早く準天頂衛星を整備する必要があります。

今、国会でも補正予算が議論になっていますが、災害対策は一刻の猶予もありませんから、私としてはまずこの補正予算に準天頂衛星の整備費用を計上できないか議論を開始したいと考えています。