【国会レポート】事故を機に原発の是非について本当に実のある議論をすべき【2011年4号】

我が国では原発に対する国民の関心がこれまでにないくらい高まってきています。福島第一原発事故に対する私の取り組みについては前号でレポートしました。事故発生直後の初動での私の危機意識は正しかったと思います。

今、国民の原発への拒絶反応が強くなってきている結果、エネルギー政策も大きく変わる可能性が出てきました。なぜなら、原発の建設や運用をこれからどうしていくのかがエネルギー政策そのものだからです。

我が国の原発推進の背景にあった 2つの事情

これまでの原発推進の背景には2つの事情があります。一つは火力発電所の燃料である石油価格が上昇してきたということです。1973年の第一次オイルショック以前の石油価格は1バレル数ドルでした。それがオイルショック後には20~30ドルにまで跳ね上がったため、世界中で石油の代替エネルギーへの転換が図られました。そのときに最も有力視されたのが原子力発電でした。我が国は先進国の中でも最も大きくオイルショックの影響を受けたため、原発への依存度を高めていくという政策を取るようになったのです。

もう一つの原発推進の事情が地球温暖化の防止です。地球温暖化防止には、1997年に採択された京都議定書に基づくと、我が国は二酸化炭素の排出量を現状よりも15%削減しなければなりません。また、鳩山前内閣でもそのために二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの25%削減を公約しました。そこで、大きな期待がかけられたのが温室効果ガスを出さない原発でした。政府は昨年6月にエネルギー基本計画を策定し、2020年までに9基の原発を新設、さらに2030年までには少なくとも14基以上の原発を新設することになりました。原発新設で火力発電所を減らしていけば地球温暖化防止につなげられるということなのです。

原発事故後、3つの選択肢のどれを選ぶか

以上の事情があるにしても、今回の原発事故は「果たしてこのまま原発を推進していいのだろうか」という問いを国民に突きつけることになりました。原発の新設や運用について今後の選択肢を大きく分けると、①原発新設のスピードは落としても原発新設は推進していく、②原発新設を止めて現在稼働している原発だけを利用していく、③原発新設の中止はもちろん稼働中の原発もすべて停止させる、という三つがあるでしょう。

①「原発新設は推進していく」は現時点での国民全体のムードからは現実的ではないと思われますので、当面は②か③の選択が中心となります。

ところが、ここで議論を複雑にしているのがすでに我が国の全発電量の約3割を原発が担っているという現実です。我が国の電力料金は他の先進国と比べると1.5~2倍と高いのですが、今までほとんど停電が起きることもなく安定した電力供給が行われてきました。この電力供給の安定性がいかに重要であるかは、東日本大震災直後に実施された計画停電で痛感された方も多いと思います。

地元の製造業の皆さんから「計画停電がたとえ3時間であっても操業できなくなる」と強く訴えられました。私の経験からも、熱を使う工程や流れ作業の工程では停電で一度ラインが止まれば大きな負担となります。全発電量の約3割を占める原発を全部止めてしまったら、やはり安定した電力供給の能力は失われてしまいます。したがって、直ちに③「原発はすべて停止させる」を選択するのは無理でしょう。

では、②「現在稼働している原発だけを利用していく」の選択肢はどうでしょうか。今、東電の場合は、福島第一原発と福島第二原発の合計10基の原発すべてが停止していますし、柏崎刈羽原発の7基のうち3基が停止しています。目下、東電では、原発の発電能力の約8割が失われてしまっているわけで、福島第一はともかく福島第二と柏崎刈羽の停止中の原発を稼働させないでおくと、夏のピークの電力需要には対応できない恐れが高くなります。まずそれをどう乗り切るかが問題です。しかも他の電力会社も含めて原発を新設しないなら、いずれ原発は減っていきますので、将来的には原発を代替する発電所が必要になります。

簡単には原発と手を切れない我が国の現実

太陽光発電、風力発電、地熱発電、波力発電、潮力発電などもありますが、今のところいずれも原子力や火力発電を代替するには、コストや発電力の面で難しいのです。

すると、原発の代替としては火力発電が最有力にならざるを得ないのですが、火力発電所を増設するのは地球温暖化を促進しますし、石油価格の高騰による電力料金の値上げも覚悟しなければなりません。また、発電量に合わせるために消費電力量を抑えようとすれば、生活の質を下げる必要が出てきます。

これまで原発については原発推進派と反対派がそれぞれ自己主張するばかりでした。両者においては、原発のメリット・デメリット、安全性、事故対策、経済性などについて冷静な議論が行われてこなかっただけではなく、むしろ政治的なイデオロギーの争いのみがクローズアップされてきていたと言えるでしょう。

今回の福島第一原発の事故を機に今後、実のある原発の議論を行った上で、我が国の原発への対応を決めていくべきと考えます。

サミットでの原発への見解が注目される

さて、福島第一原発の事故を受けてドイツのメルケル政権も脱原発に舵を切りました。その他の先進国の動向がどうなるかというと、まず5月末にフランスのニースで開かれるサミットが注目されます。米国のオバマ大統領とフランスのサルコジ大統領は原発推進を明言していますが、それに対して他の首脳がどのような態度を表明し、サミットとしてどのような統一的な見解を表明するのでしょうか。このサミットでの見解は我が国にも大きな影響を及ぼすに違いありません。

もしも我が国も脱原発の路線に転換するとなれば、問題なのはやはり火力発電所の燃料となる石油の価格です。石油価格は今1バレル100ドルを突破しています。今後、それがリーマンショック前の水準(147ドル)に戻るばかりか、200ドルにも近づくということになると、我が国でも電気料金の大幅な値上げが避けられなくなります。いずれ安価な代替エネルギーが開発されるかもしれませんが、それまで国民には高い電力料金を甘受するという心構えが必要です。その場合、国民を説得するというのも政治の重要な役割になるでしょう。