【国会レポート】失業者を救うための画期的な求職者支援制度が実現【2010年12号】

平成23年度予算の中で「求職者支援制度」が創設され、775億円もの予算が計上されています。この制度は失業手当(雇用保険の求職者給付)を受給できない人たちに対して職業訓練と訓練期間中の生活支援のため月10万円の給付を行うものです。

失業手当が出るのは失業後最長330日間。その期間を過ぎても新しい就職先が見つからないと、生活保護に直行してしまうケースも少なくありません。しかも一度生活保護に頼るとなかなかそこから抜け出せないのです。

こうした状況を防ぐために創設されたのが雇用保険と生活保護との間を補う求職者支援制度にほかなりません。ですから、生活保護に陥る前の第2のセーフティネットという位置付けができるのですが、この制度の考え方を最初に提案したのが私でした。

初当選時からこの制度のアイデアを提案

2000年6月の総選挙で私は初出馬初当選を果たしました。当時ITバブルが弾けて世の中にはリストラの嵐が吹き荒れており、特に50歳以上の中高年は会社を解雇されたり辞めたりすると次の職場がなかなか見つかりませんでした。新しい職に就けないまま失業手当が切れてしまうと生活の糧がなくなり、ひどいケースでは住んでいる家を手放さざるを得ない人も出てきました。

ただし再就職が難しいのは雇用がないためではなく、その人の能力と企業側が望んでいる能力とが一致しないことも多いのです。これがいわゆる雇用のミスマッチと言われるものですが、失業したとしても職業訓練で新しい能力を身につけられれば就職できる可能性が高くなります。そこで私は、失業中に職業訓練に通うことを条件に一定の生活給付を支払う制度を設ければいいのではないか、と考えたのでした。

この考え方、すなわち求職者支援制度を私が初めて法案の形にしたのは2001年でした。その後、2003年にも同趣旨の法案を出しています。しかし、いずれも当時は国会での雇用に対する関心は比較的薄かったため実現しませんでした。

リーマンショック後に一変した雇用状況

2003年から6年後の2009年に私が再び求職者支援法案を出したとき、状況は一変していました。前年の2008年にいわゆるリーマンショックが起きて、中高年ばかりか若年層の失業者も増え、雇用に対する関心が格段に高まりました。法案作成段階でも党内外で大変活発な議論が行われた結果、さまざまなアイデアが盛り込まれて一段と充実した法案となったのです。

この法案では、職業訓練を受けると1日当たり5000円が支給され交通費も出ます。当時、公共職業訓練の定員数は3万~5万で雇用情勢を考えると足りなかっため、私は、審議会などで新たな職業訓練を認定して医療、介護、農林水産など新しい分野のものを増やして、少なくとも20万人程度の定員数を確保していくことも考えていました。この法案は当時の政治状況から成立はしなかったものの、厚生労働委員会では「(私の作った)求職者支援法の趣旨を最大限尊重する」という全党一致での付帯決議が可決されたのでした。

以後も私はこの立法化に向けて努力を重ね、法案の趣旨を自民党若手国会議員にも説明したのですが、その結果、当時の自公政権が2009年7月から始めたのが、私の考え方を土台とした緊急人材育成支援事業(雇用保険を受給できない人に対して無料の職業訓練と訓練期間中の生活給付を行う事業)でした。私の取り組みが与党だった自公政権をも動かしたのです。

政権交代後に本格的な制度としてスタート

民主党政権に代わると、いよいよ求職者支援制度がスタートすることになりました。冒頭で述べたように775億円の予算を計上したこの制度は、失業保険が切れた後、職業訓練を受ける失業者に対して月10万円の生活給付を行います。

私は10年以上前にこの制度のアイデアを考えつき、党内をまとめて党の政策にし、議員立法として国会に何度も提出した後で、この制度へのニーズが高まっていきました。それが今回正式に予算化されて国の制度として定着することにつながったのです。

私の初当選時からのこだわりが結実したものだと言えますが、別の言い方をすれば、1つの政策を実現させるにはやはりそれなりの長い年月がかかるということです。

また、この制度は私のサラリーマン経験から出発しています。サラリーマンが失業し、失業手当が切れて収入がなくなると、不安にさいなまれ気持ちが非常に落ち込みます。たとえば私の場合、鉄鋼会社から転職して保険会社で保険のセールスの仕事を始めたのですが、最初の1年間、保険がまったく売れませんでした。上司から毎日のように「会社に迷惑だ」と言われ、そんな11月から12月の晩秋、1人北関東を車に乗って走っていて、夕陽が秩父連山に沈む光景を見ていたときのあの漠とした不安感は今でもけっして忘れません。そんな実体験を持っていたからこそ、求職者支援制度の創設に結びつけることができたと思うのです。

能力を身につけること以外の大きな効用

また、なかなか就職が決まらないと、気持ちがすさんで生活が不規則になってしまう人もいて、そういう人は就職しようという気持ちまで失いがちになります。実際、地元の民生委員の方から、今、30代、40代の若さで就職意欲がないために、就職よりも生活保護を選んでしまうという人が増えていると伺います。そこで、この制度を利用して職業訓練に通えば、規則正しい生活が続けられるので、就職意欲も維持でき、生活保護に陥ることも防止できると思います。もちろん、9時に出社して5時半まできちんと働くという会社生活の基本も身に付くはずです。

なお、失業者と自殺者の数は比例する傾向があるのですが、失業して会社から離れると孤立化してしまいます。この制度で職業訓練に行けば同じ立場の仲間に出会うことができますから、孤立化を防ぐことにつながるはずです。

求職者支援制度のポイントを最後にもう一度まとめると、この制度は生活給付を受けながら安心して職業訓練に通うことで新しい能力と規則正しい生活習慣を身につけ、同時に仲間に出会うことで孤立化を防ぎ、新しい就職先を見つけてもらうというものなのです。