【国会レポート】簡単には決めつけられない中国の多面的な実像【2010年10号】

国会議員として最新の中国事情を現地で知るために2010年12月に2泊3日のスケジュールで中国の北京を訪問しました。現地では日本政府関係者や北京に支社を置く日本企業の責任者のほか、日本を研究している中国政府機関の中国人責任者とも懇談し、さらに資生堂の北京工場を視察することができました。

この訪問で痛感したのは、中国について日本のマスコミが報道している内容はステレオタイプ(形にはまって画一的)であり、実際の中国にはもっと多面的で複雑な要素が多いということです。また、中国の政治は日本的な民主政治の枠組みではうまく捉えられないという印象を持ちました。

中国市場の巨大な潜在能力

7年前に1度北京を訪問したことがあるので、今回は2度目となります。まず驚いたのは降り立った北京空港です。7年前とは違って巨大な空港へと一変していました。北京市内に入ったとき、7年前は家庭や工場で使っている燃料が石炭だったため町中に石炭の臭いがしたのですが、石炭から天然ガスへと変わり、今回はまったくそういうことはありませんでした。北京の市街地も大きく発展しており、巨大なビルが目抜き通りにびっしりと建っていて、そこに中国経済の急速な成長ぶりが如実に表れています。

経済面で見れば、中国は20年以上の長期にわたって年平均9%以上の実質GDP(国内総生産)成長率を達成してきました。2010年の中国のGDPは日本を抜いて世界第2位になるとも予想されています。一方、2010年の1人当たりGDPは3600ドル程度で、アメリカの4万7000ドル台、日本の3万8000ドル台と比べてまだ大きな開きがあります。一般的には1人当たりGDPが5000~1万ドルを越えるとモータリゼーションが起こり、一般大衆にも自動車普及が進むと考えられています。中国の新車販売台数は2009年には1364万台に達しており、2010年には1800万台前後(日本では同500万弱と推計される)になると見込まれています。これはアメリカに匹敵する規模です。それでもまだ中国では本格的なモータリゼーションが起こっていないわけで、中国市場の潜在能力の大きさには圧倒されます。

日本と遜色ない資生堂北京工場

北京市の南の外資系工場が集まる地区に資生堂北京工場もあります。工場視察では靴カバーと白衣を着け、エリアによっては頭髪を覆うキャップも被ったのですが、中国人女性従業員の真面目で熱心な仕事ぶりには感心しました。工場の日本人責任者によれば日本の工場とまったく遜色のない仕事ぶりということでした。

資生堂化粧品は中国では高い価格帯にもかかわらず、中国女性に大人気です。今後の需要拡大も大いに期待できるのは、この人気に加え、中国女性には日常的に化粧をする人の割合がまだ少ないからです。1990年代に化粧をしていた中国女性は全体の3%程度の1800万人ほどでした。それが現在では5%ほどに増えて3000万人へと広がっています。これは化粧をする日本女性の3000~4000万人と同じくらいですが、中国女性の数からすればこれから爆発的に化粧品の需要が増えていくでしょう。

独裁国家と民主国家との違いを認識

さて、中国の政治ですが、日本の一般的な報道ですと、「中国は共産党一党独裁の下で軍備を拡張して周辺国家に脅威を与え、国内では強権的な政治を行っている」ことになります。日本のような民主国家から見れば、一面では確かにそういう見方もできるでしょう。しかし今回、そのような画一的で形にはまった単純な見方だけでは中国を捉えきれないと感じました。

日本は中国と大和朝廷ができる以前から接触はあったわけですが、7世紀の遣隋使から本格的な国交が始まりました。以来、1300年以上にもわたって隣国としての深い関係を築いてきました。今後も100年先、1000年先でも隣国同士ですから、日中両国の関係はやはり長いスパンで考えなければならないでしょう。

また、日本にいると中国は一党独裁で民意など無視しているように見えるのですが、民意に反する政治では政権が持たないことを中国政府自身もよく認識していて、たとえば中国政府はインターネット上の中国国民の発言にとても注意を払っています。

私も今回の訪問で中国政府はむしろ民意をくみ取るのに神経質になっているように感じました。従って、国民の不満の高まりを察知すると迅速に対応策を打つことが政権維持の姿勢に組み込まれています。

中国の指導者を養成するシステム

日本の政治家は選挙で選ばれますが、中国の指導者への道は大きく分けて2つあります。1つは、2012年には国家主席になるとされる習近平副主席のような太子党(中国共産党の高級幹部の子弟等で特権的地位にいる者たち)の道。もう1つは、中国各地にある共産党青年団から能力や実績によって選抜されるという道です。

後者についていえば、私の友人のご子息が2010年10月末に中国の武漢市で開かれた国際ゲーム大会に日本代表選手として出場したのですが、この大会には数百人規模もの地元大学生のボランティアスタッフが動員されました。これらのボランティアスタッフを組織し指導していたのが共産党青年団から派遣された人たちでした。彼らの年齢も大学生と同じくらいですが、有能な仕事ぶりで日本選手団へのバックアップもとても行き届いていたそうです。

共産党青年団は広い中国全土で展開しており、それぞれから優秀な人材が選抜され、最終的には共産党中央や政府に入って活躍するということになります。日々試され、選考され、途中で失脚すれば返り咲くことは難しいのではないでしょうか。中国共産党の指導者や指導者を目指す人たちは緊張感に包まれた日々を送っているわけで、その緊張感の中には指導力の発揮とともに民意に対応することも含まれると考えます。

振り返って日本の政治家を見ると、選挙で選ばれたということだけで民意を受けたという気持ちになって、日々の国民の生活と民意を探る努力を忘れがちになる恐れもあるのではないでしょうか。選挙は参議院議員ですと6年に1回、衆議院議員ですと平均3年弱に1回ですから、常に国民の生活と本音の民意を汲み取る努力をしなければなりません。

以上のように、政治家と民意の関係について改めて考えさせられるとともに、我が国の国力(総合力)を強くしっかり保つことを改めて決意した訪問でもありました。