【国会レポート】政治主導を成功させる条件とは何か【2010年9号】

民主党政権は「政治主導」を旗印に政権交代を果たしました。それから1年以上経って、むしろ現在のほうがマスコミでも政治主導という言葉が頻繁に出てくるようになりました。とはいえ、「政治主導とは具体的にどのようなことを指すのか」についてはマスコミ報道も含めて明確にされていないのが実情ではないでしょうか。

もちろん政治のほうでもこれまで政治主導とは何かについてきちんと説明してきたわけではありません。そこで今回は、政府の中で働いた自分自身の経験を踏まえて政治主導について述べたいと思います。

まず政治主導の根本とは、政府のトップである首相の明確な方針とリーダシップを閣僚がバックアップするということです。それを支える制度として閣議のほか各省の大臣・副大臣・政務官で構成される政務三役会議があります。

以上を大前提に私が思う「政治家が政治主導を機能させるための条件」を以下に提示したいと思います。

①閣僚及び政務三役のチームワーク

閣僚は役所のトップとしてその役所の政策を主張する立場にあります。しかし、国全体の利益を考えた場合、各役所の政策を優先することがマイナスになる場合もありますから、「国全体の利益のためにあなたの役所に我慢してもらえないだろうか」などと閣僚同士が忌憚なく議論できる関係を作っておかなければなりません。この点は政務三役でも同じです。

忌憚なく議論できる関係を作るためにはあらかじめ相手の人柄、思考パターン、価値観などを理解しておく必要があります。また、そのためには政府の仕事をする前にコミュニケーションできる人間関係を作っておくことが望ましいのです。その意味で私の場合、政権を担う前から政策の議論を通して気心の知れた方が閣僚や副大臣、政務官になったので、政府での仕事も大変やり易かったのです。忌憚なく議論できる関係こそが官僚及び政務三役のチームワークにつながります。

②官僚組織に対するマネジメント

政府の仕事には「ガバナンス」と「マネジメント」があります。ガバナンスとは「政治の領域で方針を決定すること」ですが、マネジメントとは経営学者のドラッカーが作った言葉で「組織を整えること」です。

1年前に政権が交代したとき、私たち民主党の政治家は身構えて政府に入ったわけですが、相手の官僚組織の官僚たちも身構えていたと思います。しかし、官僚たちも宮仕えのサラリーマンという点では一般企業と変わりはありませんから、政治家にもガバナンスだけではなくマネジメントの心得も不可欠なのです。

しかし、大臣は国会答弁や公式行事で多忙を極めていますので、役所のマネジメントは副大臣、政務官が担うことになります。マネジメントのポイントはやはり人事であり、人事は公平、公正に行わなくてはなりません。政治家が好き嫌いで官僚の人事に手を付けたのでは官僚の面従腹背を招いてしまいます。人事権は持っているが行使しない、伝家の宝刀は使わないという見識が肝要と考えました。サラリーマン時代には査定される立場でしたので、その経験が役に立ちました。

③現場感覚

中央官庁の官僚たちはこれまで私が接した組織では最も優秀な集団の一つです。指示されなくても自分でどんどん仕事をこなしていきます。しかし一方、大きな弱点は「現場感覚がない」ということです。私もそうでしたが、管理部門に勤めていた際に、自宅と会社とを行き来するだけの生活ではどうしても営業の現場感覚(世間への皮膚感覚)が希薄になりました。官僚機構に対して、それを補えるのがやはり政治家であって、地元で暮らしている皆さんとの日々の交流を通じて現場感覚を身に付けていきます。

官僚と議論したとき、なるほど官僚は理路整然と「この政策がいい」と主張するのですが、庶民の生活感覚とかけ離れた中身になっていることも少なくありません。そんなとき、「一般の人たちの感覚からかなりずれているよ。そんな政策を実施しても理解されないだろう」と政治家が修正する必要があります。つまり、政治家はその政策が現実にどのような効果を出すかということを具体的にイメージできなければいけません。製品の2次元の設計図を見て、その製品の立体画像を3次元でイメージするようなものと言ってもいいでしょう。

④政策を実現する突破力

国政の政策は基本的には法律化して初めて実現への道筋がつけられます。一つの政策を法律化するには、民主党内、政府内で話を通して法案を作り、それを国会で可決してもらわなくてはなりません。そのためには党幹部や政府の官房長官、首相などの同意を得て、国会に法案として提出するという突破力が政治家に求められるのです。政治家について官僚が最も注目している点もまさにそこなのです。官僚は突破力のある政治家を頼りにしますので、そういう政治家の元には自ずと多くの官僚が集まってきます。それがまた、その政治家の政治力を一段と高めることにつながるのです。この突破力は調整能力と言い換えてもいいでしょう。

⑤強靱な体力

政治家の生活は普段でも忙しいのですが、政府に入るとさらに忙しくなりますし、精神的にもきつくなります。私も内閣府副大臣になって、朝から晩まで年末年始もなく仕事に追われましたし、その間、つねに仕事の緊張感に包まれていました。政治家は過酷な選挙を勝ち抜かなければならないので体力には自信があるのですが、政府に入るならなおさらベストの体調を維持する努力を怠ってはいけません。

⑥結果に対して責任を取る

もともと自己顕示欲が強いのが政治家です。ですから、中には自分の出世やステップアップのために、政治的な言動を展開する人もいます。当初はマスコミの注目を集め、世間の評価も高いかもしれません。しかし、その考えを実現するためには、まず関係者、団体、議員を説得して賛同者を増やし、政策として政府内で調整して法案を作成し、国会では野党からの合意を得てそれを成立させなければ、責任を果たしたことにはならないのです。そして、政治家は政府に入れば、自分の理屈よりも国と国民のことを最優先で考える責務があります。将来のことを考えれば不人気な政策でも実行しなければなりませんし、外交などでは国内のナショナリズムの高まりにも耐えなければなりません。つまり、政治家には不人気を覚悟することも求められます。副大臣として政府に入って、政治主導もそういう覚悟なくしてはけっして成功しないと改めて実感した1年間でした。