【国会レポート】副大臣の記者会見で問われる政治家としての判断力【2009年11号】

今回、私は内閣府副大臣となって政務三役(大臣、副大臣、政務官)として行政の方針を決めています。その結果、日常的に行政の機密事項に接するようになりました。当然、機密の取り扱いは慎重でなければいけません。野党議員には職務権限がないため機密はありませんが、政府に入ると職務権限もあり機密が生じてくるという言い方もできます。

たとえば財務省、金融庁、経済産業省といった経済官庁の場合、日々の行政活動はそのまま実体経済やマーケットと連動していますから、万が一、機密が漏れると経済活動や企業活動に甚大な悪影響を及ぼしかねません。

内閣府にはそこまで大それた機密はないのですが、決定事項は公表できても決定までの途中経過は基本的に機密です。私も副大臣になった以上、行政の案件についてはそれが決定事項になるまで公表できないという点は、ぜひ皆さんにもご理解いただきたいと思います。もちろん以上のような制約の範囲内で私としては、政府が何をしようとしているかについて可能な限りオープンにしていきたいと考えています。

では、どの時点で決定事項として公表できるようになるのか。一つはその案件について閣議決定が行われた後です。もう一つは閣議にかけるほど高度な判断が必要のない案件について政務三役あるいは副大臣である私の責任で公表してもかまわないと判断した場合です。

内閣府のミスの公表を政治家として決断

ここでは後者の事例を紹介しましょう。公表の場は内閣府(消費者庁)での記者会見。内閣府食品安全委員会から食品安全モニターの方々のメールアドレスが流出した件についてでした。

前政権では各省庁の事務次官が記者会見を行っていたのですが、新政権ではそれを副大臣が担うようになりました。事務次官の記者会見の廃止は今年6月に農林水産省事務次官が記者会見で民主党の農業政策を批判したことが一つのきっかけでした。省庁の官僚トップである事務次官に政治的な発言を許すと政治主導にならないからで、それに代わる副大臣の記者会見は政治主導を貫くために非常に重要なのです。

私の定例記者会見は毎週木曜日の午後に行われています。会見での副大臣の発言は内閣府の決定事項であり、それは何を決定事項にするかを私自身が判断することにほかなりません。

さて、このメールアドレスの流出とは、今年8月13日(木)午前、内閣府の食品安全委員会事務局勧告広報課の担当者が、食品安全モニターの方々(381人)全員に事務連絡の電子メールを一斉に送った際、本来ならBCC(ブラインド・カーボン・コピー:送信先のメールアドレスが表示されない方式)にすべきところをCC(カーボン・コピー:送信先のメールアドレスが表示される方式)で送ってしまったことです。

そのため、食品安全モニター全員のメールアドレスが受信メールに表示されてしまいました。個人情報保護の点で問題です。さらに、このようなミスが起きた場合、本来なら速やかに公表して対策を明示すべきだったのに事実確認や内部での報告に手間取ってしまいました。有り体に言えば、8月13日に起こったミスが記者会見の11月5日まで3カ月近くも公表されないままだったのです。

私自身がこのミスの報告を受けたのは11月4日。つまり記者会見前日の夜遅くでした。このとき、私はすぐに記者会見でミスの概要と対策を発表すると決断、部下に会見資料をつくるようにと指示して翌日午後2時の定例記者会見に間に合わせたのです。

記者会見では、このミスの事実関係を述べ、原因はシステムの故障ではなく担当者の不手際によるものだとし、「今後、BCCで確実に送信するために複数の担当者による相互チェック体制を整えて、二度と同じミスが起きないように業務を改善する」と「情報管理および速やかな報告の徹底について内閣府食品安全委員会事務局全体の問題として全職員等に周知徹底する」という対策を発表しました。

ミスの後のきちんとした対応で信頼を得る

私は基本的には、役所がミスを犯した場合、すべての情報を包み隠さず公表したほうが良いと考えています。それがやはり国民の信頼を得ることにつながるからです。

私はメーカーで勤務していたとき、工場での災害対策や本社での受発注ミスなどのクレーム処理を行ったり、転職した保険会社ではクレーム対応次第では逆にお客様の信頼をより深めることもできた経験があります。今回、その経験が生きたと思うのですが、ミスを犯すのが人間ですから、人間はミスを犯すという前提で、もしミスが起きたらそれをどうカバーすれば最も影響が少なくなるかという観点を持つことが非常に大切だと思います。起こってしまったミスへの対応をきちんと行うことが、ビジネスにおいては顧客の信用をつなぎ止め、行政では国民の信頼を得ることになるのです。今回、メールアドレスの流出を記者会見で明らかにしたのも行政への信頼を維持するための当然の判断でした。

課題設定する政治家は取る責任も大きくなる

毎週、記者会見を行うには役所全体のことをつねに頭に入れておかなければなりませんから、率直に言って、私にとって記者会見はものすごく大きな負担です。しかし、これは、役所の問題点をインプットすることでもあり、積み重ねれば役所の仕事に非常に詳しくなります。その意味で、副大臣が毎週1回の記者会見を受け持つようになったのは政治家を鍛えるために大きな効果があるのは確かです。また、記者の皆さんの鋭い質問は行政の仕事の質を上げるのにプラスに作用します。

ただし、以上のことも新政権になって役所の方針を政務三役がすべてを決められるからです。以前のように政治家が役所の敷いたレールに乗って動いていくならば、物事もおそらく無難な線で決まっていくでしょう。政治家にとってもそのほうが楽です。しかし一方、政治や行政にスピード感というものが生まれません。現代は変化が非常に速いですから、スピード感がないと時代の流れに取り残されてしまいます。

その点、今は政務三役を中心に政治家自身が課題設定をして役所に解決策を求めて役所を動かしていますから、間違いなくスピード感は出てきているのではないでしょうか。

とはいえ、課題設定をする以上、責任も政治家自身が引き受けなければなりません。役所のレールに乗って可もなく不可もない仕事をすれば良かった時代とは異なり、政治家自身の力量やセンスが大きく問われることになります。その点で淘汰される政治家も出てきます。私も政治家としての責任の大きさを肝に銘じ、緊張感を持って副大臣の責務を果たします。