【国会レポート】災害対応と成長戦略に貢献する準天頂衛星【2017年2号】

災害対応のために不可欠な衛星システム

マスコミは日本版GPS衛星である準天頂衛星の利用可能性について好意的に報道しています。来春から4機体制による準天頂衛星の本格的な運用が始まる予定ですが、これは2010年当時与党の政策責任者だった私が中心となって事業化を進めてきた政策です。

準天頂衛星とは「日本の上空の天頂付近につねに1機の衛星が位置するように軌道上に複数の衛星を配置して利用する衛星システム」で、日本の天頂に衛星がつねに存在すれば、山やビル等に影響されずに全国を100%カバーする高精度の衛星測位サービスを提供できます。

このシステムを私が推進したのには理由があります。2011年3月11日の東日本大震災発生直後、家族や知人の安否を確認するために大勢の方が携帯電話を使ったのにほとんどつながりませんでした。その年の5月に、内閣官房宇宙戦略本部のある幹部からこう伝えられました。「準天頂衛星に大きなアンテナをつければ携帯電話の電波が宇宙に届きます。」

「これだ!」と直感した私は、準天頂衛星を用いて、衛星と携帯電話を直接結ぶ安否確認システム、衛星から直接私たちの携帯電話に津波情報を発信するシステムなどを考案したのでした。実現すれば総事業費2000億円以上の大型プロジェクトになります。逆にいうと、準天頂衛星の整備に2000億円を超える規模の予算がかかるということです。党の政策責任者だった私は、このプロジェクトの実現に向けて全力を尽くしました。

世界的に見ても優秀な準天頂衛星

この準天頂衛星を用いたシステムとは具体的には、「災害時の安否情報では、避難所の端末にスマートフォンをかざすだけで個人情報が準天頂衛星に送られて、各個人がどの場所にいるかが確認できる」「沖合に設置したブイ(潮位計)で津波の高さと速度を高精度で捕捉した情報を準天頂衛星に送ることで、携帯電話に何分後に何メートルの高さの津波が到達するという情報をメールで一斉に知らせることができる」などです。と同時に当然、災害面以外での本来の準天頂衛星の活用も視野に入れていました。

以後、私は準天頂衛星を所管する内閣府をはじめ関係各官庁の人たちと一緒に準天頂衛星整備のための予算確保に全力を尽くしたのですが、それが実って、準天頂衛星を整備するという閣議決定に漕ぎ着けたのが東日本大震災から約半年後の2011年9月30日でした。しかも、この閣議決定では4機から7機に変更してもらうことにも成功しました。

「大島委員が宇宙政策担当副大臣のときに準天頂衛星導入で大変汗をかかれたことは私もよく存じ上げております」というのが2013年5月16日、私の質問に対しての科学技術担当大臣の答弁です。

東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年に向けて、宇宙産業の重要性はますます高まっています。現政府の成長戦略にもなっているこの宇宙産業の中核が、私が着手し閣議決定で政府方針となった準天頂衛星システムなのです。

実現した準天頂衛星は、世界の測位衛星と比較してもとても優秀な性能を持っています。まず、カバーしている範囲は日本だけでなく、縦は中国からオーストラリアまで、横はインドの半ばくらいからグアム島の先までという広い範囲です。さらに、日本人に最も馴染み深いGPSの場合、地上に対する測位精度(測位の誤差)は約10メートルなのに対し準天頂衛星はわずか数センチしかありません。

このように非常に高い測位精度を誇っている準天頂衛星ですが、4機体制の運用ではまだ米国空軍のGPSの力も必要です。7機体制なら準天頂衛星だけでの運用も可能になります。

産業面・安全保障面でも重要となるシステム

災害対策に非常に有効な準天頂衛星ですが、それだけではなく、産業面でも例えば次のような活用方法があります。

・GPSとは比較にならない正確な位置情報をスマートフォン上に表示

・測位情報に従うドローンによる物資の輸送

・高速道路上の自動車の走行区間を把握して運転者から高速料金を徴収

・自動車の自動運転無人トラクターや

・無人トラクターや無人コンバインの自動制御による耕運、種まき、収穫などの実施

また、我が国でもインターネットとGPS衛星は社会インフラとして欠かせなくなっていますが、いずれも米国の軍事技術なのです。

まずインターネットは、東西冷戦下で旧ソ連から米国が大陸間弾道ミサイルで攻撃された際に個別の防衛機能が失われても、米国全体としての防衛機能が低下しないようにしておくために開発された分散処理型通信システムです。民間に開放されて世界中の人々が使えるようになりました。

GPS衛星も、その電波を無料で借用して私たちはカーナビゲーションを利用できるわけです。ところが、米国が有事を迎える、つまり戦争状態に入ると、自衛隊を除いて民間(カーナビゲーション)も警察も海上保安庁もGPS衛星を借用できなくなります。

その一方で、準天頂衛星は日本独自のシステムなので、365日、24時間、私たちはいつでもそのサービスを享受できます。私は、準天頂衛星のように、我が国が、そして世界各国が利用できる社会インフラを整備することは、世界への貢献であると同時に、我が国の安全保障にも資すると考え、取り組んでいます。

なぜなら、外交交渉では他国が一目置くカードを持たなければならないからです。米国にとってインターネットとGPS衛星もそんなカードです。

同じ発想で私は、我が国独自の位置測位システムである準天頂衛星システムを推進したのでした。

閣議決定から6年を経て社会インフラの軸に

東日本大震災直後に、党の政策責任者としてスタートさせたこのプロジェクト。結果を出すまでに閣議決定から6年かかりました。

これから日本と東南アジアの社会インフラの軸の一つとして機能していくでしょう。ここを新たなスタートとして、産業面での幅広い活用を私も後押ししています。