【国会レポート】インターネット時代を見抜けなかった地デジ化への投資【2016年12号】

最近では視聴率が10%にも満たないテレビドラマも珍しくなくなりました。電波のテレビ放送を見る人たちが減ってきていることが大きな要因だといわれています。一方で、Hulu、Netflix、Amazonプライムビデオ、YouTube、ニコニコ動画、その他のインターネット動画配信サービスを利用する人たちが増えてきました。つまり動画を見るという行為がテレビ放送からインターネット・テレビへとシフトしてきているのです。私も、時間があるときは、テレビではなく、YouTubeで過去のドキュメンタリーを見ています。このインターネット・テレビへのシフトは、2011年7月に地上波アナログ放送が地上波デジタル放送(地デジ)へと全面的に切り替わった後、一段と加速しました。

インターネット・テレビは予想できた!

2011年までの地デジへの全面切り替えが審議されたのは2001年の国会でした。そこでは、政府負担分の約800億円とNHK・民放各社の投資による切り替え費用の総額が1兆円以上にもなると試算されていました。しかし当時、すでに私はインターネット・テレビ時代が早晩やって来ると確信していましたから、この予算委員会のとき、所轄の総務大臣に「近い将来、インターネット・テレビ時代になります。とすれば、地デジへの切り替えに1兆円以上もの巨額の費用をかけるのは無駄ではないでしょうか」と質問したのです。

これに対して「インターネット・テレビというのはだいぶ先だと思いますよ。日本人は、新しいものが好きですから地デジも爆発的にはやります。だから無駄な投資ではありません」というのが総務大臣の答弁でした。

結局、この国会で地デジの法案が可決され、以後、政府はその普及を図っていったものの、現実には地デジへの切り替えに予想以上に資金がかかり、当初800億円と予想されていた政府負担分も2000億円以上になりました。この間、ブロードバンド(広帯域)のインターネットが急速な勢いで伸びていき、前述したようにインターネット・テレビが普通に見られるようになったのです。しかも今ではパソコンだけでなくスマホやタブレットでも見ることができます。現状のスマホの普及ぶりを考えると、インターネット・テレビの利用はパソコンよりスマホのほうが多いかもしれません。

最先端の情報環境に恵まれた会社員時代

私がインターネット・テレビの隆盛を2000年に予想できたのはパソコンやインターネットの黎明期からそれらに馴染んでいたからでしょう。私が仕事でマック(マッキントッシュ)というパソコンに最初に出会ったのは1987年、海外駐在から帰国したときでした。その部署では、部員1人に1台のマックが与えられ、そのマック同士がアップルトーク(現在のLAN回線)で結ばれていました。

当時、マックは1台100万円もしましたし、それを社員1人ずつに配るというのは相当な設備投資です。当時、私は偶然にも時代の最先端の恵まれた情報環境にいたのでした。

そして、インターネットと出会ったのは1994年、同じ会社の情報システム部に異動したときです。当時、インターネットは出現したばかりで、たまたま日本でも初めてのインターネット展示会(インターロップ)が開かれました。インターネットを目の当たりにして、「これは世界を変えるメディアだ」と直感したのを今でもよく覚えています。

さっそく私も、会社で先輩の技術系社員に頼んでブラウザソフトであるモザイクの試用版を自分のマックにインストールしてもらい、それからインターネットに日常的に接するようになりました。たとえば、当時、アメリカのハイテクベンチャーに出資していましたので、仕事上、私もインターネットでその会社の四半期ベースの決算書をチェックしていたのですが、ずいぶん便利になったものだと実感したものでした。

また1994年当時、私は鉄鋼業界の全国組織である日本鉄鋼連盟の情報部会に参加していました。そこで他の鉄鋼会社の技術部長から「大島さん、インターネットを通じて英語で技術的な質問をすると、世界中の関係者からいろいろな答えが返ってくるんですよ」といわれました。このように当時からインターネットにより世界中の人々と知識を共有できるようにもなったのです。

政治家は一次情報に接する努力をすべし

かつて、テレビ電話システムの構築では数百万円もの費用がかかりました。今は、インターネットで特別な料金がいらないテレビ電話を使うことができます。周知のように、これがスカイプです。私は地元事務所にいないときには朝の会議をスカイプで行っています。海外にいてもスカイプなら地元事務所にいるスタッフの顔を見ながら臨場感のある会議ができるのです。しかもそれがスマホ1台あればできるのですから、本当に便利でコストも安い時代になりました。

私が思うことは、政治家はつねに最先端の情報に接する努力を惜しんではならないということです。しかもその情報は、役所から聞いたとか、業界団体から聞いたとかいった二次情報、三次情報ではなく、自分自身で直接取材した一次情報でなければなりません。私も国内外の工場や研究所を視察し、関係者から直接話を聞くという活動をこれまで続けてきました。それは今のように変化が激しい時代にはなおさら求められる取り組みです。

先日、大手情報通信企業の量子コンピューターの研究所長と懇談しました。2020年代には量子コンピューター(スパコンの9000兆倍の速度)が実現しそうです。明らかに、テクノロジーの進歩で社会そのものが質的に変異する時代が始まっています。