【国会レポート】ネット時代に生まれた民泊の拡大【2016年11号】

民泊法(住宅宿泊事業法)が成立しました。民泊とは、住宅の空き室を旅行者などに有料で宿泊場所として提供することです。日本で民泊が注目されるようになってきた要因には大きく分けて2つあります。1つは、空き室のホスト(貸主)とゲスト(宿泊者)を結び付ける業務をインターネット上で行う仲介業者が登場したことです。この仲介業者によって瞬く間に世界中に民泊が広がっていき、日本でも民泊マーケットの拡大を促しました。もう1つには、既存のホテル・旅館だけでは急増してきた訪日外国人の宿泊需要に対応できなくなったことがあります。

仲介業者の世界最大手は米国のエアビーアンドビー(Airbnb)です。ここは目下、世界191ヵ国の6万5000以上の都市に300万件以上の登録物件を持ち、ゲスト数も延べ1億6000万人以上に達しています。社員は全世界で約2600人ですが、企業としての時価は約3兆円という規模になりました。ちなみに2016年の訪日外国人の総数約2400万人のうちエアビーアンドビーを利用した人は約370万人で、日本の民泊マーケットでも圧倒的なシェアを誇っています。

民泊のホストとゲストをネットで仲介する

エアビーアンドビーの創業者は3人の若者です。きっかけは2007年に美術大学卒の2人の若者が米国サンフランシスコで同居していた住居の一部を旅行者に貸したことでした。これがうまくいったため、翌2008年にハーバード大学卒のエンジニアの若者を加えてエアビーアンドビーを起業したのです。

本事業のシステムは、私が調べたところでは以下のようになっています。①ゲストは宿泊前に料金をエアビーアンドビーに払い、エアビーアンドビーはそこから15%の手数料を得て、残りをホストに払う。②ホストの家財に大きな損害が生じた場合には、エアビーアンドビーが最大100万ドル(約1億1000万円)を補償する。③ホストにもゲストにもパスポートやSNSへの登録などで身元を公開させることで怪しげなホストやゲストを排除する。④エアビーアンドビーのウェブサイトでホストとゲストが互いに評価をし合うことができる。そのため評判の悪いホストとゲストを淘汰することが可能となっている。

要するに、「補償」「ホストとゲストの身元公開」「評価」などで信頼性を保つことによって成り立っているのですから、このビジネスの最大のポイントは「信頼創造」と思います。

民泊法には日本企業をサポートする目的も

一方、日本のホテル・旅館業界は、宿泊施設不足の補完というよりも強力なライバルとして民泊をとらえています。日本では有料で反復的に他人に宿泊サービスを提供する場合には旅館業法に基づく許可を自治体から取得する必要があります。しかし民泊施設の多くはその許可を取っておらず、建築基準法や消防法などの規制も受けていません。つまり、そうした規制を守るコストがかからないので、民泊は宿泊料も安くできるのです。また、民泊施設は住宅街にあることが多いため、騒音、ゴミ捨て、治安などに対する不安や苦情の声も周辺住民から出るようになっています。

以上のような民泊の実態を前提として今回の民泊法では、悪質な民泊施設をなくし周辺住民とのトラブルを抑止して民泊の普及促進を図るという目的だけでなく、ホテル・旅館業界の事業を脅かさないように民泊の営業日数に年間180日という上限を設けたのが大きな特徴です。

別の見方をすれば、放っておくと国内の民泊マーケットがエアビーアンドビーに席巻されてしまいますから、同様の仲介業務を行う日本企業をサポートするのが民泊法だともいえます。すなわち、米国では規制があってもそれを打ち破る弁護士が数多くいるのに対し、日本ではあくまでも行政が規制の改廃を行いますから、民泊の場合も日本の仲介業者がエアビーアンドビーと伍してビジネスを行えるようにするために行政が民泊法をつくったわけです。これは米国と日本の商慣習の違いの反映でもあります。

空き室を民泊に活用して地元を活性化

ネット時代に生まれた便利なビジネスは後戻りするようなことはないでしょう。というのも、ネットを利用するのは一般の消費者なので、一般の消費者が便利だと思ったらそのビジネスが勝手に広がっていくのを押し留めることはできないからです。民泊もそうしたビジネスであり、だからこそ政府も民泊法で対応したのでした。

また、これから人口が減っていくのに反比例して空き家が増えていきます。私の地元は交通の便が良いですから、民泊の宿泊客も長期滞在を前提に自動車や電車で関東全域に足を伸ばすこともできます。地元の利点を民泊に活かせれば、当然、地元の活性化にもつながると思うのです。

民泊提供国と課税国の違いからくる問題

エアビーアンドビーは本社がサンフランシスコなのに法人の所在地はアイルランドの首都ダブリンなのです。そのため別の国際的な政治問題も浮上してきています。というのも、国際課税のルールでは「価値が創り出されるところで税金を支払う」ことになっていて、エアビーアンドビーの場合、民泊を仲介するコンピューターが置かれた場所、つまり本社の所在地がそれに該当するからです。したがって現状では、エアビーアンドビーが民泊の15%の手数料を(日本や米国も含めて)どの国で得たとしても、その手数料に課される法人税はアイルランドがすべて受け取っています。けれども民泊を提供した国がその法人税を受け取れないというのはおかしいのではないでしょうか。課税のルール変更には国際的な協議が必要です。私も今後、この問題に鋭意取り組んでいきたいと考えています。