【国会レポート】国が責任を持って最後まで看取る時代になった【2016年9号】
私の地元のJR高崎線の駅では朝の通勤時間帯には7分間隔で列車が止まります。7~8年前まではどの駅でもホームに来る通勤客の流れが途切れるようなことはありませんでした。しかし今は上尾駅を除く駅では通勤客の流れが断続的になっており、午前8時を過ぎるとホームも閑散となってしまいます。逆に言うと、それだけ地元で1日を過ごす退職者が増えるということです。
しかも数年前に私が調べたところ、ここ埼玉6区は全国300小選挙区のうち最速で高齢化していくことがわかりました。その意味で日本の課題を象徴的に抱える地域に私たちは暮らしています。言い換えれば、その解決策は高齢化する日本社会の課題を解決するモデルともなるのです。
地域の高齢者の医療・介護を誰が担うか
これまで日本のサラリーマンはマイホームを持つことと子供を大学まで進学させることを目標に働いてきました。高度成長期を支えた方々はすでに定年を迎えています。一方、その子供たちはすでに独立して都心部で働いているため、地元の戸建てや団地では老夫婦だけが残って暮らしているのです。老夫婦とは言っても、今のところまだ60代から70代が大半なので元気ですが、後10年も経つと衰えも目立ってくることになるでしょう。
そうなったとき、子供が同居していないのですから、高齢者の親の医療・介護を誰が担うかが大きな問題となります。解決策の一つに挙げられるのが、訪問診療、訪問看護、訪問介護をチームで行える仕組みの構築です。
地域包括ケアシステムの構築
それで政府も、今後10年間をメドに地域包括ケアシステムを構築するという方針を掲げています。この地域包括ケアシステムとは、重度の要介護状態となっても自分らしい暮らしを住み慣れた地域で人生の最後まで続けることができるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供するというものです。ただし、それをどう具体化するかは自治体自身に委ねられています。目下、自治体としては試行錯誤を繰り返しながら整備に取り組んでいるところです。私は、このシステムの理想は終末期の方が多くの人々に囲まれて「いい人生だった」と思えるような状況を地域社会でつくることだと考えています。
また、このシステムの一翼を担うために全国の市町村が管轄主体となって2006年から設置を進めてきたのが地域包括支援センターです。例えば埼玉6区での設置は中学校区ごとに上尾市10、鴻巣市5、桶川市4、北本市4、伊奈町1の合計24ヵ所(2016年10月1日現在)です。ここでは保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などが配置され、住民の健康の維持と生活の安定のために必要な援助を実施しており、独居老人がどこに住んでいてどのように暮らしているかなど、地域を歩いて高齢者の生活ぶりをつかんでおくという取り組みも行っています。地域包括支援センターは、いわば地域の高齢者に対する医療・介護の相談窓口なのです。
もっとも、地域包括支援センターを基盤として地域包括ケアシステムを構築するとはいえ、それを現実面でしっかりと機能させるには、地域に住んでいる皆さまと医師、歯科医師、薬剤師、介護事業者との連携も含めていくつか問題も横たわっています。なかでも医師の確保が急務なので、今回はその点に絞って私の考えを以下に示しておきましょう。
地域包括ケアシステムにはまず医師の確保
今、地元では、何人かの比較的若い医師たちがチームを組んで24時間365日対応の訪問診療に取り組んでいます。今後、訪問診療の需要は爆発的に増えることが想定されるため、訪問医療に携わる医師を私たちの地域に招く準備しなければと考えているのですが、若い医師には、都市部での開業、特に東京や神奈川での開業を望んでいる人が多いそうです。とすると多くの医師を地元に呼び込むための制度面での施策が必要になってきます。
まずその前提としては、24時間365日対応の訪問診療を無理なく行えるようにする工夫が必要です。この点では訪問診療での医師の負担を減らすことが考えられます。例えば、まず看護師が在宅医療や在宅介護を受けている方のところに伺い、必要と判断した際には医者に往診をお願いする、つまり看護師にゲートキーパーの役割を担ってもらうことで医師の負担が軽減できるはずです。
現在、ゲートキーパーの役割を引き受けているのが訪問看護ステーションですから、その充実を図るとともに地域で生活している看護師の方にもチームを組んでもらい、24時間の体制を組めないかと思っています。具体的には、中学校区ごとに数名のやる気のある看護師の人たちが医師の監督の下に協同組合をつくってチームで対応するということです。すなわち地域でのナースコールの役割を担うことになります。ところが、看護師には一人で開業することが認められていませんので、制度改正の検討も不可欠です。また、今後は、看護師にも一定の医療行為ができる資格を付与することも検討していいかもしれません。
介護状態の方や患者への24時間365日対応については複数の医師がチームで行いますので、チームで連携するためにはカルテのオンライン共有も必要です。診療報酬・介護報酬が改定される来年度は、訪問診療、訪問介護への政策誘導も検討課題となるでしょう。
なお当然、財政的な裏付けも重要です。制度として看取りまで責任を持つことが国民の安心感につながるわけで、そのためには消費税も含めて財源についての議論も深めなければなりません。いずれにしても、関係者と意見交換しながら理想的なシステムを提案していきたいと思います。