【国会レポート】保険証を持たずに医療機関を受診するには【2023年5号】

1994年、まだインターネットはなく、モデムを使ってのパソコン通信の時代でした。私は、今でもPXKで始まるニフティーサーブ(*1)のアドレスを持っています。当時、管理職になったばかりで、製鉄所の私の係で一人一台マッキントッシュ(*2)を配布したところ、優秀な若手社員がアップルトーク(*3)でマックをつないで、私たちのチームは、チャット(*4)で会話しながら、エクセルのマクロ(*5)を使って業務改善提案をしていました。今振り返ると、エンドユーザーコンピューティングの最先端のチームでした。考えるための道具がコンピュータであり、私たちはコンピュータの道具ではないと強く意識していました。

(*1)1980年代後半、インターネットが普及していない時代に日本国内で始まったパソコン通信
(*2)アップル社のパソコン
(*3)アップル社のパソコンをつなぐネットワーク
(*4)パソコン間での文字による会話
(*5)表計算の作業を簡便に自動化する機能

マイナンバーカードを持っていますが・・・

5年前、地元の公民館祭りで、市役所の皆さんがマイナンバーカードの受付をしていて、丁度誰も申し込んでいなかったので、その場で写真を撮って頂き、所定の用紙に記入して提出しました。後日、市役所の窓口で、丁寧に説明を受けながら暗証番号など設定して交付となりました。20分か30分ほど時間を要したことを覚えています。先日、市役所から5年経ったので更新手続きの通知が届きましたが、これまで5年間でマイナンバーカードを利用したことは一度もありません。

知り合いの歯科医師の方とお会いした際に、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)を読み込むカードリーダーをご自身で設定することは困難で、代理店に頼んだところ代理店でも2日間を要したとおっしゃっていました。クリニックの方々とお話しする機会があり、マイナ保険証の利用状況について伺うと,患者さんの半分以上の方が利用しているクリニックは一つで、医師が利用を促すと患者さんは素直に応じて下さると聞きました。もう一人の医師の方は、勧めても2、3割で、他は一日数名の利用者だそうです。そして、懇談した方は20名弱でしたが、誤って他人と紐付けされていた患者の有無を聞いてみると、とあるクリニックでは、本人の情報に配偶者の情報が表示されるという誤った紐付けがなされていました。また、マイナ保険証を使用してのクリニックでの受付は、カードリーダーでマイナ保険証を読み込んだ後に、顔認証で本人確認することが基本ですが、顔認証に換えて暗証番号を入力する方もいらっしゃるそうです。

私の知り合いの80歳の方は、マイナポイント2万円のためにマイナンバーカードを取得して、マイナ保険証として利用できるようにしましたが、クリニックでは従来の保険証を提示しているそうです。私の事務所のインターンシップの大学生は、全員が2万円のマイナポイントのために保険証も公金受入口座の紐付けも終わらせていました。

いくつかの市役所に聞いてみると、マイナ保険証での紐付けミスは生じていませんが、マイナポイントを取得するために、期間中は窓口に多くの方が集まり、長椅子を出したり、長時間待たされたことで怒られたりと大変だったと切に訴えられました。私は、写真を市役所の方に撮って頂きましたが、市役所の職員からは、持ち込まれた写真は、修正してあったりと質は様々で、本人確認がしっかりできるか不安だとも伺いました。

マイナ保険証を普及するために投入された予算規模

2兆円もの国費を投じて、マイナンバーカードの普及を図りましたが、全国民の7割程度までしか持つに至っていません。そして、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)は、国民の6割までしか普及していません(10月1日現在)。

そもそもマイナンバーカードを国民全員が持つことは義務ではありませんので、マイナ保険証が国民すべてに普及することは制度上難しいのです。一人でも従来の保険証利用の方が残った場合、そのためのシステムを構築する必要があり、コストも掛かります。政治主導で2024年秋までと期限を区切り、従来の保険証をすべてマイナ保険証化することは不可能な決定でした。民間企業でシステムにたずさわった者として、政策の決定過程を検証して責任を明確にした上で、根本から見直した方が無難と思います。会社でもそうですが、面子にこだわった決定は組織を疲弊させ弱くします。

デジタル化はその国の有り様が強く反映する

デジタル化については、国の生い立ちが強く反映されています。2020年1月に、北京を訪問した際に、スーパーマーケットの決済は顔認証でした。レジで何も持たずに顔をカメラに向けるだけでした。中国は、闇社会撲滅のために紙幣の流通を抑えてキャッシュレス決済を進め、さらにデジタル通貨で個々のマネーの流れを政府が捕捉できる政策を進めています。

新型コロナウイルス感染症流行時にデジタルでの対応は素早かった、イスラエル、台湾、韓国、シンガポールなどの国々は、徴兵制が導入されています。2023年9月に台湾を訪問して、国防研究所所長、経営者団体の代表や国政選挙での若手候補者と意見交換を行いました。蔡英文政権は、徴兵期間4ヶ月を2024年から12ヶ月に伸ばします。個人情報の扱い、また、国が持っている有事への対応能力も我が国とは異なります。

我が国は、デジタル化が遅れていると指摘されていますが、有事をどのように想定するかによって、国として持つべきデジタル能力に差が出ますので、一概に他国との比較は難しいと考えます。

従って、我が国のデジタル化を進めるのであれば、例えば、これまで30年間、人口は1億2500万人でしたが、20年後には1億人になってしまいますので、人口減にデジタル化によって行政をどのように合理化してどう備えるのか、また、どのように安全保障環境が変化して、我が国の国益を守るには、何をデジタル化し、何をアナログで残すのか、これからの国の形を見極める必要もあります。

マイナンバーカードですべてが解決するのか

マイナンバーカードに健康保険証も運転免許証も公金受入口座も集約することが、デジタル化とは思えません。カードを持つことは、紛失のリスク、暗証番号の管理、更新手続きの煩雑さなど、ストレスを感じざるを得ません。カードを持たない社会がスマートと思います。iPhone でも指紋認証できますし、銀行のキャッシュディスペンサーも生体認証ですし、顔認証と組み合わせて、何も持たずに診療を受けられることがストレスを感じないと考えます。もちろん国が国民の顔認証や生体認証のデータをどのように持つかについては国民との議論を積み重ねながら決める必要もあります。

先日、事務所女性スタッフから、「今でもLINEは使用していない」と言われました。今はコミュニケーションアプリとして、我が国ではデファクトスタンダード(事実上の標準)になっているアプリケーションですが、そのアプリが広まり始めた10年以上前に、女性スタッフに、「この会社のデータセンターが海外にあるとすれば、個人情報が外国に流れる恐れがあるから使用しない」と伝えていました。2021年に、中国から同社が持つ個人データへのアクセスがあったので、個人情報保護委員会は同社に個人情報保護法に基づき改善を指導しています。

デジタル化では情報の秘匿を重視する

国民一人ひとりにマイナ保険証を持たせる政策も、もっと使いやすくしてカードを持たずに顔認証と生体認証を組み合わせて、何も持たずに医療を受けられるようにすることも、アプリケーションの使い勝手の良さの比較であって実は本質ではありません。

私は、情報を保管するデータセンターこそが最重要と考えています。クラウドと専門用語で言われると雲を掴むような話と聞こえますが、要するに情報をどこのデータセンターにどのように保管するのかが重要なのです。

政府や自治体の持っているデータをそれぞれがそれぞれのデータセンターで管理することはコストが掛かるので、まとめて特定の事業者に預かってもらう政策をデジタル庁が進めています。そこで、政府の情報システムや自治体の基幹業務システムを、ガバメントクラウド(政府の統一データセンター)に移行しようとしています。しかし、データセンターの起用を入札で選んだところ、GoogleやAmazonなど海外企業が受注したのでした。情報が置かれるデータセンターは国内立地を条件にしていますが、有事の際には外国政府が当該企業に圧力を掛け、我が国の情報が漏れてしまう恐れが指摘されています。(その後、データセンター事業を行う日本企業が条件付きで起用されたとの報道があります。)

私たち政治にたずさわる者が考えなくてはならないことは、何を国がやらなければならないのか、何を民間の競争に委ねるかという線引きです。私は、日本のデータセンターのセキュリティのレベルが一定の水準に達していないから外国企業に委託するのではなく、なぜ我が国は世界標準のデータセンターを構築できなかったのかを検証した上で、国が主導して世界で一番安全なデータセンターを構築してから、そこに国民の個人情報を預けることが、時間は多少掛かりますが、結果近道と考えます。

これまでは、離れている2ヵ所のデータセンターで同じ情報を持つことで、1つが壊れてももう1つでバックアップしているので安全だと考えられていました。研究段階ですが、1つのデータを乱数を用いて3つに分解してそれぞれを3つのデータセンターにおいて、どれか2ヵ所のデータセンターからの情報を合わせることで元通りに復元できるようにすれば、仮に1ヵ所のデータセンターがサイバー攻撃を受けて情報が流出しても2つの情報を合わせないと復元できませんし、地震等で1つのデータセンターが壊れても、2つ残って入ればデータは復元できるので問題ありません。この考え方であれば、例えば1ヵ所は海外の廉価なデータセンターを活用することもできます。

そしてデータのやり取りは、秘匿性が高い量子暗号を利用して行えば、理想的なデータセンターが構築できます。そこに、国民の顔認証データ、指紋データ、ゲノムデータなど機微な個人情報を保管します。今後、民間金融機関などに活用して頂くために、国が開発費や運用する費用を助成することも普及を加速させると考えます。

また、どの個人情報をどのように保管し管理するかについては、政府とは別に国会に監視委員会を新設して国民の代表が関与することも一案と思います。

さて、国のシステムは、健康保険証も公金受入口座も運転免許証もすべての情報を一枚のカードに集約すれば、デジタル先進国になれるという表層的なものではありません。そして、国の施策として、ポイントでマイナンバーカード取得を誘導することにも違和感を覚えます。自信のある政策でしたら、法制化で対応すべきと思います。

私は、2兆円もの予算を投じてマイナンバーカードの普及を図るよりも、世界最先端の秘匿性が完璧なデータベースを構築する研究開発や導入し普及させるための民間企業への資金的な支援、並びに顔認証や生体認証で何も持たずに医療を受けられるカードレス社会を実現するための研究開発や基盤整備に向ける方が、我が国の競争力を強化すると思いますし、このことこそが将来に備えた国の役割と考えます。

コンピュータ(デジタル化)は、私たちの道具であって、私たちはコンピュータの道具ではないのです。

所得の格差なく医療を受けられる国民皆保険

最後に、医療機関の窓口で支払う医療費は、マイナ保険証を利用した際には、従来の健康保険証利用よりも若干ですが安くなります。日本の医療制度は素晴らしい制度で、健康保険証があれば所得格差なく国民はあまねく一定水準の医療が受けられます。がんになっても県立や国立のがんセンターで安心して治療を受けられます。このように整備された制度を持つ国は日本だけです。

今回、マイナ保険証の利用促進のために、公的保険に価格誘導的な制度が導入されたことに、我が国の医療制度の綻びを感じ残念です。そこには、国民にあまねく平等に医療を提供するという国民皆保険についての哲学が感じられないのです。