【国会レポート】ルールメーキングこそが競争力の源泉【2023年4号】

私たちが、連絡したり、情報を検索したり、あるいは、映画や音楽を視聴する際には、インターネットを使っています。正確には、情報が通信回線を行き来するルール(通信規格)として、インターネットを採用しているということです。つまり、インターネットは、通信の規格の一つです。今のところインターネット(正確にはTCP/IPという通信規格に基づいた情報のやり取り)のルールが世界で使いやすいので、爆発的に普及しています。将来、もっと使い勝手の良いルール(通信規格)が、開発されたら取って代わられることもあり得ます。

インターネットと呼称される通信規格は、1960年代から開発が始まり、1970年代にほぼ確立した技術で、その通信量は、近年、爆発的に増大しています。しかし、サイバー攻撃に対する防御が通信規格としては脆弱なので、情報を傍受されることなく如何に秘匿して通信できるかが課題です。

物理理論として完璧に秘匿して通信できる方法が量子暗号技術を使っての通信です。5年前に、国の情報通信研究機構を訪問した際に、スマートフォン間で音声を量子暗号処理して会話するデモンストレーションを実際に見せて頂きました。開発を主導していらっしゃる佐々木雅英先生から、衛星間での量子暗号通信など詳しく教えて頂いて、安全保障の観点からも重要な技術であると認識しました。その後、量子暗号を推進するために、国会で取り上げています。

先般、情報通信研究機構に佐々木先生を訪問しました。量子暗号通信の国際標準化を日本が主導したことで、量子暗号通信装置の製品化に向けて、各企業からの問い合わせが多くなったと伺いました。佐々木先生は20年以上前から量子暗号の研究をしており、先生の研究があることで、我が国も米国や欧州と対等以上に標準化規格化で渡り合えています。 世界をリードする技術を開発するには、長い期間が掛かりますが、その分野での主導権を取ることができます。そのためには、安定的な研究開発環境を整えることと、研究成果を国際標準や国際規格にするための後押しが国の責務と考えます。

国益をかけての静かなせめぎあい

さて、私は、20代後半、メーカーの西ドイツ事務所に勤務していました。技術系の駐在員事務所で所長と私を除いては、全員が技術系社員です。日本からの技術者に随行して、ミラノで行われたISO(国際標準機関)の会議に出席したことがあります。出張者から、「ISOで決める国際標準に準拠して各国の規格が決まる。本来は、各国の規格を統一して非関税障壁を無くして、自由貿易を推進することが目的であるが、EU(欧州共同体)は、彼らで決めた標準を国際標準にすることで、彼らの市場を守ろうとしている。」と教えて頂きました。会議の参加者は、欧州が中心で、長らく同じ問題に携わっていて旧知の仲です。

現在、EU参加国は27ヵ国です。国際会議の場では、27ヵ国でまとめたEUの考え方を、27票で投票することになりますので、EUの考え方に準拠しがちです。従って、地球温暖化の国際ルールについても、どのような原子力発電所が地球温暖化対策に貢献する発電所であるのかについても、EUは加盟国の利害を調整した上でルールを決めてきます。アメリカも日本も1ヵ国一票ですので、多数決では欧州が有利になります。

標準、規格、特許という分野は、直接的には、収益に貢献しませんので、企業の中では、人材を長期に育てる風土が育ちにくく、特に、経営者が外国人株主から配当を強く求められますので、長期的な視野に立った研究開発や標準、規格、特許などは、合理化の対象にもなり易いのです。経営の中で長期的に人材を育成することが難しくなっている分野ですので、国の機関が企業と協力して、標準、規格、特許の人材を国の意思(費用)で育成する必要があると考えます。

我が国が主導する国際標準

私は、リハビリ用ロボット分野で世界の最先端を走っているサイバーダイン株式会社CEO(社長)である山海嘉之筑波大学教授を訪れたことがあります。9年前のことですが、予定の1時間を超え、昼休みの時間もずっと標準と規格のテーマで話し込んでしまいました。その際、「技術革新でまったく新しい領域を創造し、新たな標準を創ることが最も影響力を持つことになる。その標準に準拠して規格が定まるので、規格改定の度に、技術情報は標準のオーナーに集まってくる。」と、標準化こそが競争力の源泉と実感しました。

脳梗塞や脳出血による障がいが残った際、リハビリで力を発揮するのが、山海先生が開発したロボットスーツです。人間が手足を動かそうとすると、その意思は脳から筋肉への微弱な電流によって伝えられるのですが、この電流は人間の皮膚表面にも出てきます。したがって人がロボットスーツを装着すれば、そのセンサーが皮膚表面の微弱な電流をとらえてモーターを駆動させ、人間の手足の動きをサポートします。

ロボットスーツのようなまったく新しい「生活支援ロボット」を世界で普及・定着させるためには、世界で認められた「安全基準」が必要となってきます。政府も、データを集め、検査施設を設け、各国に働き掛け、「生活支援ロボットの安全要求事項」を新たな国際標準(ISO13482)として確立できたのでした。

このようにまったく新しい分野で日本が世界を主導して、新規の「国際標準」を確立することは、極めて稀なケースです。今後、空飛ぶ車の開発など、10年後、20年後の社会を想像して、どのような技術が、社会実装されるかを見定めて、国はその分野の研究開発を後押しすることで、世界標準の主導権を担うことができれば、我が国の標準が世界標準になり、競争をより有利に行うことができます。そのために、地味な分野ですが、政治としても力を注いでいきます。