【国会レポート】北本市の工場で生産される新型インフルエンザワクチン【2011年12号】

目下、北本市にある北里大学病院の敷地に北里第一三共株式会社が新型インフルエンザワクチンの開発・生産を行うための工場建設を進めています。新型インフルエンザ対策は、私が野党時代から取り組んできたテーマですので、ようやく私が国会で取り組んできたことが実現するのだなと感慨深いものがあります。

今回の工場建設は、新型インフルエンザワクチンを製造開始後半年で量産可能にするために国内の4事業者を対象に総額1,190億円の助成金を提供するものです。2011年8月に細川律夫厚生労働大臣のもとで事業採択されました。これにより各事業者は、250億円から300億円程度の費用で、それぞれ4つの工場を建設します。そのうちの1つとして、北本市に設置される北里第一三共株式会社の工場が選ばれたのでした。事業採択が決定されて間もなく、私を訪ねていただいた同社の方から「北本市に本社機能が置かれますので市にとっても税収増が見込まれるでしょう」と報告を受けています。

工場が完成すれば、万が一強毒性の新型インフルエンザがパンデミック(世界的な流行)になった場合にも素早く対応できるため、国民の安心感にも大いに寄与すると考えています。

また、北里病院は予防医学に生涯を捧げた北里柴三郎博士を始祖とする病院ですから、新型インフルエンザワクチンの開発・生産を北本市で行うというのはまさに北里博士の意志にも通じるものです。

1人の女性研究者の熱意が対策の発端となった

こうして世界的に見ても我が国の新型インフルエンザ対策は進んでいるのですが、それには国立感染研究所の岡田晴恵さんという女性研究者の熱意が非常に大きな原動力となりました。その熱意に動かされ民主党も新型インフルエンザ対策に本腰を入れるようになったのです。

私も野党時代最後の衆議院予算委員会(2009年5月11日)で「1人の女性研究者の熱意は非常に重いが、そのことを知らない方も非常に多い」と指摘し、岡田さんの新型インフルエンザ対策への貢献を強く訴えました。その直後、岡田さん本人から「(この質問の)議事録を読んで感激しました」という内容の連絡を頂きました。新型インフルエンザを素材にしたNHKのドラマや映画も作られましたが、それらは岡田さんの原案が土台になっています。

岡田さんと私たちとの出会いは2006年と思いますが、私の先輩議員が駅頭で演説をしているときに岡田さんから声をかけられ、新型インフルエンザの脅威を聞いたことでした。この先輩議員を通じて私も新型インフルエンザを知り、これは大変なことになると思いました。そこで、岡田さんに新型インフルエンザに関する講演を国会でしていただいたのです。その結果、議員たちも「強毒性の新型インフルエンザは致死率が非常に高いため、もし発生すると日本国内で多くの犠牲者が出てしまう。早急に備えなければならない」と心を動かされ対策に取り組み始めたのでした。私も委員会で何回も質問し、ワクチン製造についても政府に求めたのでした。

強毒性のものは大きな人的被害を与える

鳥インフルエンザが流行すると何十万羽もの鳥を殺処分にするのですが、これを皆さんは不思議に思うかもしれません。けれども、そうしないと人に感染する強毒性の新型インフルエンザの発生を招く恐れがあるのです。もともと鳥のインフルエンザが人に移り、それが人から人へ感染するようになって流行するのが新型インフルエンザなのです(鳥ではなく豚を介する場合もあります)。

皆さんは90年以上前に世界的に大流行した「スペインかぜ」をご存じでしょうか。人類にとって最大のインフルエンザの流行であり、世界中での感染者は約6億人、死者は4,000~5,000万人にも達しました。当時の世界の人口は8~12億人だったのですから人類の実に50%以上がスペインかぜに感染したことになります。このとき人口5,500万人だった日本でもスペインかぜによって39万人もの死者が出ました。スペインかぜも元は鳥インフルエンザだったのです。

最近では日本でも2009年5月9日に成田空港での検疫でカナダの交流事業から帰国した高校生3人に新型インフルエンザの感染が初めて確認され、その後、兵庫県や大阪府の高校生を中心に急速に感染が拡大しました。幸いに強毒性ではなく弱毒性だったので、大きな被害は出ませんでした。もっとも、このときには検疫体制の強化やワクチンの製造に素早く取りかかることができたのも大きいと思います。岡田さんに触発されて多くの国会議員が対策に取り組んだ結果、すでに強毒性への対策がある程度整備されており、それが弱毒性の流行を阻止する防波堤となったと言えるでしょう。

致死率の高い強毒性が流行した場合には、外出自粛など強制力を持つ措置が必要ですので、現在、法案化に向けてのとりまとめ作業をしています。

国際貢献にもつながるワクチン生産

今回の4つの工場は2012年度中に完成し、2013年から開発・生産体制に移る予定になっています。もちろん新型インフルエンザの流行はいつ起こるかわかりません。明日かもしれないし10年後かもしれませんが、すでにWHO(世界保健機関)は2005年に「新型インフルエンザはもし発生したらではなく、いつ発生するかが問題」と呼びかけて、対策への強化を世界中に訴えています。

また、今回のワクチン工場建設の背景には技術的な進歩もあります。従来、ワクチン生産には有精卵が必要で、有精卵から我が国の全国民のワクチンを作ろうとすると1年半から2年もかかるのです。それが今や細胞培養法という新技術が開発されたことによって全国民のワクチンが約半年という短期間で準備できるようになりました。つまり、新型インフルエンザの発生後約半年後には国民全員分のワクチンができるというのは大きな進歩なのです。

しかも、生産期間が約半年へと短縮されるというのは、我が国の被害を小さくするだけではありません。約半年で我が国の全国民分のワクチンが調達できれば、その後に生産するワクチンは我が国以外の国々にもどんどん提供できるようになります。このワクチンの生産は国際貢献にもつながるのです。