【国会レポート】責任を取ることが政治家の仕事【2010年6号】

内閣府副大臣を拝命してから丸1年が経ちました。この1年間を振り返って、大臣や副大臣の仕事の本質とは何かを一言で表すなら、「責任を取ること」に尽きるのではないかと思います。

当たり前と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ともすれば政治家とは、目の前の仕事に対して、「次のステップアップのための点数稼ぎの場」という誤った考え方に陥りやすいのも確かです。点数稼ぎと考えると、どうしても国民向けのパフォーマンスをしたくなり、逆に今の仕事の本質が見失われます。私はその点を強く危惧し、戒めています。

国家財政が厳しい時代、国民にご負担をお願いする場面も出てきます。このような場面では政治家は不人気を覚悟しなければならないのに、パフォーマンスに陥ってしまうと、政治と現実との間に距離ができてしまい、結局は、国民にご迷惑をかける結果になります。仕事の本質を見据え、自分の発言や行動に必ず責任を取るという決意と覚悟を大切にしたいと思っています。

さて、この9月1日に、消費者庁も発足から丸1年を迎えました。内閣府副大臣として消費者庁も担当してきましたので、今回のリポートでは、新しい官庁である消費者庁の取り組みについてご紹介します。

消費者庁は行政の立場を変えた画期的な官庁

消費者庁は当初、経済産業省、農林水産省、厚生労働省、公正取引委員会といった役所の消費者関係のセクションを横断的に集めて組織されました。寄せ集め部隊のため横の連絡が悪く、私の最初の仕事は、まず各部署の連携を密にして消費者庁としての一体感を持たせることでした。

消費者庁が画期的なのは、行政の立場を、供給者寄りから需要者寄りに変えるという方針を明確に体現しているということです。経産省は産業界、農水省は食品業界、厚労省は医薬品業界などを所管しているため、どうしても各分野の供給者の育成という観点から抜け切れません。結果として、需要者すなわち消費者側のさまざまな問題に俊敏に対応できない面がありました。

つまり、これまでの行政全体に消費者目線が欠けていたと言えます。そうした問題意識から、商品やサービスについて利用者の安全・安心にかかわる問題を幅広く所管し、消費者の目線で行政全体を推進するための司令塔として消費者庁が設置されたのです。

消費者庁の仕事の中身は「消費者情報を一元的に集約し調査、分析、公表すること」「消費者行政の司令塔として各省庁に対する勧告、措置、要求を行うこと」「隙間事案(現行の法律では対応できない案件)への対応」「消費者に身近な諸法律の所管」といったことです。もっと具体的には、製品による事故、食品表示、特商法関係(詐欺商法や催眠商法等)、景品表示法関係(不当表示等)など、消費者に関する問題はすべて扱っていると言ってもいいでしょう。

しかし、消費者行政全般を統括する重要な機関にも関わらず、人員は各役所から集めてきただけで、定員は217人です。従来の仕事ならこなせるものの、消費者目線の新しい行政を取り入れていこうとすると、なかなか手が回らないのが現状です。例えば、何か重大事故が発生した際、関係各省庁は消費者庁に届け出ることになっているのですが、それが本当に消費者事故かどうか分からないグレーゾーンの場合もあります。事故情報の分析が必要なのですが、それに当たる人員が圧倒的に足りない状況です。そこで今回の概算要求において、来年度予算案の中に現在の定員の約40%にあたる80人を越える増員を計上しました。消費者目線の行政を充実し、期待に応えるためには必要な増員と考えています。

消費者庁が取り組むことで解決する

消費者庁が取り組んだ事例では、たとえばサッカーのベッカム選手が使って人気が出た英国マクラーレン社のベビーカーが挙げられます。このベビーカーで子どもが指をケガするという事故が相次ぎ、海外の同社は正規輸入品には対策を施したのですが、並行輸入品については当初は何も対応しませんでした。これまで政府が直接に海外企業に要請のレターを出すことはなかったのですが、子供が事故に遭うことを絶対に防ぐとの立場で、私が指示をして、消費者庁から問い合わせの英文レターを同社に送ってみました。すると、並行輸入品についても迅速に対処してくれることになったのです。

企業と個人の消費者では企業の立場が強いですから、このように行政が加わり、消費者の立場を代弁することで問題解決が図れるのです。

逆に言えば、過剰規制への恐れも十分にあるということです。つまり、消費者庁の大臣や副大臣の言動は極めて重いのです。私も消費者庁担当の副大臣として消費者サイドに立ちながらも発言には慎重を期しています。

消費者目線が不可欠な時代

行政当局が規制で企業活動をがんじがらめにするというのは望ましくありません。私は、企業や業界にまず事故の問題解決に自主的かつ積極的に取り組んでほしいと考えています。

しかも、そこには従来とは違った問題解決へのアプローチが必要です。つまり、たとえばベビーカーなら、子供がどのような接し方、動かし方をしても絶対にケガをしない製品を作り出そうとする思想が大切ですし、また、子供が指を挟む事故がしばしば起こっている自動車のパワーウィンドウについても、子供が指を挟まないよう親に気を付けさせるのではなく、たとえ子供が指を入れたとしてもケガを防ぐように自動的に安全機能が働いてパワーウィンドウが止まるような製品も提供しようとすることです。そうすることで、「安全・安心」の点から日本製に対する評価が高まり、魅力ある商品を提供できることにつながるでしょう。

企業も事業活動を行うに当たって消費者目線が不可欠な時代です。また、「消費者目線」の意味するところも大きく変わろうとしているという時代認識を持つことが、商品・サービスや企業の競争力を高め、消費者事故による経営リスクを低減させることになります。

最後に、消費者庁の存在感はアジアでも増してきており、最近もベトナムからの調査団を受け入れました。アジアの消費者行政の先駆けとなる役所という位置付けもできるでしょう。この1年が消費者庁にとっての正念場と考えていますので、引き続き、副大臣としてしっかり取り組んでまいります。