【国会レポート】世界経済の中で日本は貢献できる立場となる【2011年10号】

今の時代、政治家はマネーの動きに無関心であってはなりません。世界経済ではユーロ危機が起こっているのをご存じの方も少なくないでしょう。共通通貨ユーロはヨーロッパ17ヵ国で導入されているのですが、この中で特に深刻な財政危機に陥っているのがポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインなど5ヵ国です。今年はこの5ヵ国すべてで政権交代が起こりました。

ユーロ危機の発端はギリシャ国債がデフォルト(債務不履行)に陥りそうになったことでした。デフォルトとは国が国債を償還できなくなることですが、平たく言えば、投資家の持っている国債が紙くずになってしまうことです。

国債が紙くずになると金融機関の中には大きな損出を出すだけでは済まず、破綻するところも出てくる恐れがあります。そのことが金融恐慌を引き起こし、リーマン・ショック以上のダメージを世界経済に与える恐れがあります。このような世界的な金融恐慌が発生する恐れがユーロ危機なのです。

では、ギリシャ一国の国債のデフォルトの恐れなのになぜユーロ危機と呼ぶのでしょうか。ユーロ加盟国では共通通貨ユーロについての金融政策は一本化していますが、財政政策は各国個別に行っています。ですから、特に先に述べた5ヵ国のような放漫財政の傾向の強い国は借金を増やすという財政政策を取ったのでした。その結果、財政赤字がきわめて深刻になってしまい、国債がデフォルト(債務不履行)する瀬戸際に追い込まれているのです。

リスクマネーが動く21世紀の金融

ただし21世紀の金融は20世紀の金融とは大きく様変わりしており、それがユーロ危機をより深刻なものにしてしまっています。実はこの点については、理解している政治家や金融関係者は多くないのです。

たとえば日本でバブルが弾けた後、日本の銀行は巨額の不良債権を抱えてしまいました。その不良債権の総額は100兆円だったとも言われていますが、このとき、日本政府は公的資金を投入して各銀行を救済しました。20世紀の金融だったのでそれができたのです。

一方、今回のユーロ危機の場合、デフォルトしそうになっている国債あるいはデフォルトした国債を抱えている金融機関を、その金融機関の本社のある国の政府が公的資金を投入することによって救済することができるのでしょうか。残念ながらそのようなやり方で救済することはできません。

20世紀の金融と21世紀の金融の違いを述べれば、20世紀の金融は100億円なら100億円という実際のお金だけが動く世界でした。ところが21世紀の金融ではレバレッジ(てこ)という手法を使うことで実際のお金を何倍、何十倍にも膨らませて運用できるようになっているのです。これは、金融技術の発達によってさまざまなデリバティブ(金融派生商品)が開発され、かつ金融の自由化で高速のコンピューター取引が行なえるようになったことで可能となりました。100億円のお金が1000億円~数千億円にも膨れ上がってしまうわけですが、このようなお金のことを「リスクマネー」と呼びます。リスクマネーの場合、儲けを何倍、何十倍にも増やせる反面、損失もまた何倍、何十倍にもなってしまうのです。

私はビジネスの世界に身を置いていたせいか、リーマン・ショックが起こる前、世界経済から不穏な動きを感じました。そこで2008年1月、「週刊エコノミスト」に寄稿している金融の専門家に片っ端からアポイントを取って話を聞きに行きました。その結果、世界的な金融危機が起こるという確信を得て、本レポートでもその旨を何回か書きました。結局、同年9月にリーマン・ショックが起こったのですが、これにはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というデリバティブ(金融派生商品)が大きく関わっていました。CDSは一種の保険のような商品で、2000年以降急激に伸びて当時約5460兆円(当時1ドル=100円)の市場規模にまで拡大していました。世界のGDP(国内総生産)の総額は約6000兆円ですから、このCDSの規模がどれほど大きいか分かっていただけるでしょう。金融機関の間でCDSの決済が滞ったことがリーマン・ショックにつながったのです。

国内の雇用維持と世界経済への貢献

さて、ユーロ圏の国債のデフォルトが起きないとしても、今後、ヨーロッパの金融機関が融資先から資金を引き上げるかもしれません。いわゆる「貸し剥がし」です。たとえば、フランスの金融機関が世界中に貸し付けている資金の総額はフランスのGDPの3倍にも相当します。ですから、フランスの金融機関だけでも貸し剥がしを始めると世界経済に大きなマイナスとなります。そういう事態になればフランス以外の金融機関もこぞって貸し剥がしを始めるでしょう。となると、世界経済は減速してしまいます。

資金を借り入れているのは急成長しているアジアや中南米の新興国が多く、しかも短期資金の借り入れです。貸し剥がしによってアジアから資金が引き上げられていけば、アジア経済は減速していきます。日本にとってアジアの国々は日本製品の主要な市場ですから、もしアジア経済が減速していくと、日本製品の輸出量も減って国内の雇用減につながってしまいます。

そのようなリスクを目前にして世界経済は動いているのですから、今から政治としても雇用の維持、あるいは中小企業の働く場を守るということに力を入れていかなければなりません。けれども、世界経済の中で日本は優位な立場にいるのも確かなのです。日本の金融機関はバブル後には貸し出しを制限し不良債権が出ないような努力も行ってきました。今や日本の金融機関の資産内容は他国に比べて健全なので、世界経済が減速しても日本経済は相対的に強いわけです。

それを前提にして日本の政治が今後数年間の経済運営について戦略的なシナリオを書いて実行していけば、世界での日本の地位を高く保てるようになります。言い換えれば、国内の雇用維持を中心に据えて生活の安定の確保に取り組み、日本の国益を考えつつ痛んでいない日本の資産を使って世界に貢献するということです。この実現のために今後も政治家として取り組んでいきたいと思っています。