【国会レポート】日本経済を活性化させる宇宙関連ビジネス【2010年4号】

先日、宇宙から帰還したばかりの山崎直子宇宙飛行士の表敬訪問を受けました。第一印象は、コミュニケーション能力が大変高い方だと感じました。以前、同じ宇宙飛行士の若田光一さんにもお会いしたことがあるのですが、人の関心をそらすことなく、かつ相手の本心を掴むことにも秀でていて、高いコミュニケーション能力を持っていました。

その点をまず山崎さんに訊いたところ、「宇宙飛行士は宇宙船の中で人種や様々なバックグラウンドを越えてコミュニケーションを図る必要があるので、高いコミュニケーション能力が求められます。これは実際に宇宙飛行士の選考条件にも入っています」という答えでした。私も今のようなグローバル化の時代、宇宙飛行士ならずとも国を超えたコミュニケーション能力がとても重要になってきていると思います。

また、山崎さんはアメリカだけでなくロシアでも宇宙飛行士の訓練をしたそうです。宇宙では両国の共同作業もあるからですが、興味深かったのは両国の訓練の違いで、「アメリカは作業のマニュアル化が非常に進んでいます。ロシアではベテランが黒板に書いて教える師弟関係的な訓練スタイルで日本の寺子屋的な要素があります」とのことでした。ロシアでの訓練はロシア語で行われるため、ロシア語の勉強もしたそうです。

このようにとても印象深い山崎さんとの会談だったのですが、政治家としても改めて、宇宙を日本の新しい成長分野としてとらえなくてはならないと確信しました。

成長戦略の柱として宇宙産業も視野に

ところで、政府は昨年末、成長戦略の基本方針を決め、この6月中にも成長戦略の具体的内容を打ち出す予定です。

成長戦略はいわば日本の事業戦略であり、世界中から日本への投資を仰ぐためのプレゼンテーション資料と考えています。従って、国民にはもちろんのこと海外の投資家にも、具体的なイメージが湧いて投資してみようという気持ちを起こさせるものが織り込めればと思います。

そして今回、私は宇宙開発戦略本部事務局も担当していますので、宇宙産業について成長戦略の観点から述べてみます。

宇宙産業の規模は現在、裾野の関連産業も含めれば年7兆円ですが、10年後には14~15兆円にまで倍増させることも考えられるのではないでしょうか。平成20年には宇宙基本法が与野党一致で成立し、内閣総理大臣が日本における宇宙開発のリーダーとなって国家的な宇宙開発戦略を推進する体制を築くことになりました。宇宙政策を一元的に立案する「宇宙庁」の新設も視野に入れて、宇宙を利用するという観点から産業を育成する視点も重要と考えています。

例えば、発展途上国の衛星開発などの宇宙事業にODA(政府開発援助)を活用するほか、日本でも安価な小型衛星や打ち上げ用の小型ロケットの開発を大学や企業に促す必要があるでしょうし、小型の地球観測衛星を海外と協力して数多く打ち上げ、観測データを売買する市場の創出も考えられます。ロシアやインドが衛星打ち上げビジネスで稼いでいるのに、本来、この分野で技術力の高い日本としてはむしろ出遅れていますので、先を走っている国々に追いつき、追い越さなくてはなりません。

宇宙ビジネスには中長期の資金提供も必要

航空宇宙産業向けの部品を開発する中堅企業の社長と話したところ、その社長は「先端技術開発のためには資金がいりますが、短期資金は借りられても中長期の資金を貸してくれる金融機関がありません。宇宙産業は技術開発に時間がかかるので、大企業ならともかく、中堅企業にはこの資金調達の問題が非常に重いのです」と訴えられました。やはり、宇宙関連の中堅企業に中長期の資金供給を行えるようなシステムもつくらなければなりません。その一つとして日本政策金融公庫による資金供給なども考えられますし、他の金融機関をもっと巻き込んだ対応も必要でしょう。

また、気象情報を提供するウェザーニュース社(千葉・幕張)を訪れ意見交換を行いました。私は気象予報の会社とばかり考えていたのですが、驚いたことに、壁面の大型のディスプレイに世界中の海と気象情報が表示されていました。それらはもちろん衛星からの情報を加工したものですが、現在航行中の多数の船も同時に表示されていました。同社と契約している船会社の船で、同社は世界の船会社の8割に情報(海上の気象情報および燃料を節約したり荒波を避けたりするためにはどんな航路を通ればいいのかなど)を提供しているのです。

さらに印象深かったのは、「自社の小型衛星を打ち上げる計画を進めている」という同社社長の話でした。地球温暖化の影響で北極圏の氷が溶け出しており、北極圏では夏場に新しい航路が開けるのですが、この場合、船を効率的に運航するには氷山がどこにあるかを正確に予測することが重要で、そのために小型衛星を打ち上げたいということなのです。

ちなみに、大きな人工衛星だと4m四方で重量数トン、価格は数十億~数百億円にもなりますが、日本ではすでに30㎝四方で重さ数キログラム、価格も数億円の小型人工衛星も開発されています。

宇宙関連ビジネスの産業インフラとして

カーナビは衛星からの電波を捉えることで位置を特定しています。その精度には10m程度の誤差があります。その精度をさらに上げるために補完的な衛星を打ち上げる計画があるのですが、これを3機打ち上げると誤差は1m~数㎝に収まり、大幅に精緻なものとなります。とすれば、特定の物体が今どこに位置するかという情報(測位情報)をさまざまな形で活用できるわけで、車の盗難防止、海難救助、耕耘機を農作業で自動的に動かすことなどもできます。また、現在世界中で注目を集めているiPadや携帯電話で今いる場所をぴったりと指し示すことができるため、iPadや携帯がカーナビに置き換わるでしょうし、店舗情報と組み合わせた様々なサービスの提供も促進されるでしょう。

これまで日本の宇宙分野は、宇宙そのものの研究が主でしたが、今後はビジネスも含めた宇宙産業の裾野を広げる取り組みを行っていくことが重要になります。それによって宇宙関連技術の開発費用を下げて日本の成長につなげていかなくてはなりません。

私は、道路や通信と同じように、宇宙からの気象データ、測位データ、資源データなどは新しい産業インフラと考えています。従って、私としても政府の成長戦略の中に上記の観点からの戦略的な宇宙政策をしっかりと入れ込んでいくために政府内で大いに努力しているところです。